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米国血液学会・米国移植学会「造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおけるCOVID-19ワクチン接種」Section B

 今回も、米国から発信されている「造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおけるCOVID-19ワクチン接種に関する専門家の意見」の続きを掲載します。


セクションB: 造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおけるCOVID-19ワクチンの安全性


Q. COVID-19ワクチンはmRNAワクチンですが、mRNAワクチンの安全性は免疫不全患者さんで以前に検討されていますか?

 米国では他に認可されたmRNAワクチンはありませんが、mRNAワクチンは、インフルエンザ、ジカ熱、狂犬病、サイトメガロウイルスなど他の感染症の治療において研究されています。しかし、今後さらなる研究が必要です。

 組み換えアデノウイルスベクター(というまた別形式のワクチン)はmRNAワクチンよりもはるかに多くの人々でテストされていますが、これもデータが十分ではありません。ヤンセンファーマのワクチンで使用されるアデノウイルスベクター(Ad26)は、自己複製能力がないため、免疫不全患者さんへの接種も問題ありません。

Q. COVID-19ワクチン(mRNA ワクチン)の安全性について

 mRNAワクチンというメカニズムを使用したCOVID-19ワクチン(ファイザーもモデルナもそうです)は約70,000人に投与され、2か月のフォローアップにおいて重大な問題は起きていません。造血幹細胞移植あるいはCAR-T治療を受けた患者さんは、これらの試験から除外されました。しかし、十分にコントロールされたHIV患者さんは含まれており、局所注射部位反応、発熱、疲労、頭痛はあったものの、おおむね1-2日以内におさまり、特に大きな問題はありませんでした。55歳以上の成人では、局所注射部位反応および全身的な副反応の頻度および重症度は若い人と比較し、下がっていました。

 重篤な副作用は、0.5〜1.5%で見られました。このデータをそのまま造血幹細胞移植およびCAR-T療法を受けた患者さんに当てはめるのは難しいかもしれませんが、ワクチン接種によりもたらされる利益は、予想される副作用を上回ると考えられます

Q. 組換えアデノウイルスベクターを使用したCOVID-19ワクチンの安全性について

 臨床試験が行われた3種類の組換えアデノウイルスベクターワクチンでは、それぞれ異なるアデノウイルス血清型を利用しています(CanSino、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンの3社です)。

 組換えアデノウイルスベクターワクチンにおいても、mRNAワクチンと同様に、最も一般的な副作用は、注射部位の痛み、頭痛、疲労、筋肉痛、吐き気、発熱でした。重篤な副作用は、ワクチンを受けた人々の0.7%に見られまし。アナフィラキシーも2例で報告されています。これらのワクチンは免疫不全患者さんにおいて有効性が低い可能性があることを示唆していますが、証拠があるわけではありません。

 造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおける接種のリスクと利益については、まだはっきりとはわかりません。

Q. mRNAおよび組換えアデノウイルスベクターワクチンによる重篤なアレルギー反応のリスクは?

 他のワクチンに対するアナフィラキシーの既往歴を持つ人については、同様にアナフィラキシーを起こす可能性があり、ワクチンを受ける場合は30分間監視する必要があります。そうではなくても、ワクチンを受けたすべての人は、ワクチン接種直後に現場で少なくとも15分間監視する必要があります薬物や食物アレルギーを持つ人は、ワクチンを受けることをお勧めします。mRNAワクチンでアナフィラキシーが起こる可能性は、100万回当たり2〜4.7回です。

 組換えアデノウイルスベクターワクチン(ジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセン)の後に報告されたアナフィラキシーのリスクは非常に低いです。このワクチンを絶対に受けてはいけない人は、このワクチン自体あるいはポリソルベートに対する重度アナフィラキシーの既往がある場合です。他のワクチン、薬物または食品に対するアナフィラキシーの既往歴を持つ人は、監視下でワクチンを安全に受けることができます。

 mRNAワクチンの成分にアレルギーがある患者さん、またはポリエチレングリコール(PEG:Polyethylene glycol)に対するアレルギーを有する患者さんは、組換えアデノウイルスベクターワクチンをうつことを検討すべきです(その逆もありえます)。

 またもし、mRNAワクチンの第1回目の投与でアナフィラキシーが起こった場合、少なくとも28日後に組換えアデノウイルスワクチンを接種することを推奨します。CDCのウェブサイトは、今までのアレルギー反応の基づく対応の詳細なガイダンスを提供しています。

Q. 定期的な移植後ワクチンとCOVID-19ワクチンを組み合わせることは安全ですか?

 COVID-19ワクチン(ここではmRNAワクチン)の安全性と有効性は、他のワクチンと組み合わせた場合にはまだわかりません。従ってCOVID-19ワクチンは、移植後の定期的なワクチンとは別に、単独で投与する必要があります。mRNAワクチンと他のワクチンの間隔は、CDC勧告に従って、投与前または投与後の少なくとも14日間あけるべきです。現時点ではCOVID-19ワクチン接種は、定期的なワクチン接種よりも優先されるべきです。

Q. 造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおける新型コロナウイルス感染症の治療にCOVID-19ワクチンを使用しても安全でしょうか?

 ワクチン臨床試験のデータは、以前に新型コロナウイルスに感染した患者さんの安全性は実証していますが、治療に用いることはできません。造血幹細胞移植およびCAR-T療法を受けた患者さんが新型コロナウイルス感染症に罹患した場合は、症状改善後にワクチンを接種すべきです。ワクチンは新型コロナウイルス感染症の治療には使用しないでください。

Q. 造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんにおけるCOVID-19ワクチン接種後の懸念事項はありますか?

 これらの患者さんは臨床試験には組み入れられていないため、ワクチン接種が移植片対宿主病(GVHD)、血球貪食症候群、移植関連血栓性微小血管症を引き起こすリスクがあるかどうかは不明です。注意深い観察が必要です。

Q. COVID-19ワクチン、特にアストラゼネカワクチンの投与に関連する血栓症について

 最近、米国以外の国々でAZD1222(アストラゼネカ)ワクチンを接種した後、4~16日以内に珍しい部位(例:脳静脈など)や全身に血栓症が起こった報告が非常に少ないですがあります。主に55歳未満の女性でした。

 これらの血栓性事象は血小板減少症と関連しており、免疫学的なメカニズムが示唆されます。正確なメカニズムは現在研究中です。

 全体的なリスクは非常に低く、ドイツの研究所は、160万回のAZD1222(アストラゼネカ)ワクチンを投与した後、13例の血栓症を報告しました。典型的な場所(例:深部静脈血栓症または肺塞栓症)は増加しないようです。めまい、頭痛、または他の血栓に伴う症状がある患者さんは、血栓症の可能性を明らかにするためさらなる医学的評価を受けるべきです。AZD1222(アストラゼネカ)ワクチンは現在、米国では利用できません。

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