日本血栓止血学会・日本血液学会「出血傾向を有する患者さんが新型コロナワクチン接種を受ける際の注意点」

 今回は、血液疾患により出血傾向を有する患者さんのために日本血栓止血学会・日本血液学会が作成した「血友病・フォン・ヴィレブランド病を含めた凝固・線溶系、血小板の異常症により出血傾向を有す る患者さんが新型コロナワクチン接種を受ける際の注意点」を紹介します。

 海外からも似たようなものはでていますが、あまり相違点はないようですので、これを紹介することにしました。いつも通り、要約してお届けします。

 インフルエンザワクチンなど私たちが普段お世話になるワクチンはそのほとんどが皮下注射です。しかし今回のCOVID-19ワクチンは筋肉注射といって、皮下よりも深いところに刺すので、出血傾向を有する患者さんでは注射部位の出血などが問題になる可能性があります。その対策について述べています。

1.ワクチン接種に関する一般的注意事項
 血友病・フォン・ヴィレブランド病を含めた凝固・線溶系、血小板の異常症などの患者さんもワクチン接種を控えるべき特別な禁止事項には該当しません。C 型肝炎や HIV 感染症の治療などについても同様です。アナフィラキシーやアレルギー反応を含めた副反応に関しても特別な配慮は必要ありません。厚生労働省が作成している「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(第1.2 版)(令和 3 年 2 月 9 日発行)では、新型コロナワクチンの接種順位(①~⑥)は、①「医療従事者等」、②「高齢者」、③「基礎疾患を有するもの」の順となっており、③の中に「血液の病気(ただし、鉄欠乏性貧血を除く。)」との記載があります。血友病・フォン・ヴィレブランド病を含めた凝固・線溶系、血小板の異常症の患者さんは、この「血液の病気」の中に含まれますが、抵抗力(免疫機能)は一般人と変わらないため、新型コロナウイルスに感染するリスクがより高い、あるいは重症化しやすいということはありません。但し、重症化し血栓症に対する予防や治療が必要となった場合には、血栓傾向と元々の出血傾向のバランスをより慎重に考える必要があり、治療が複雑化する可能性はあります。

 基本的には接種することは問題ないということです。

2.筋肉内出血のリスクについて
 筋肉注射には、筋肉内出血のリスクがあります。部分的な出血であれば血腫になります。ワクチン接種直後および接種後 2~4 時間の時点で、注射部位の腫れがないかを確認しましょう。稀ではありますが、広範囲に出血が拡がった場合にはコンパートメント症候群を発症し、血行障害や神経損傷を引き起こすことがあります。コンパートメント症候群の症状としては、しびれ、進行性の痛み、強い腫れ、などがあります。これらの症状がみられた時には、すぐに主治医と連絡を取ってください。

 出血のリスクがやはり通常よりは高いということです。それではどうしたらよいのか?次をみてみましょう。

3.筋肉内出血を最小限にするための対策
1) 細い注射針の使用:可能であれば、細い針(25~27G)で接種をしてもらいましょう。
2) 十分な局所圧迫:可能であれば、注射部位に圧迫用の包帯(止血帯)を約 10 分巻きましょう。その際、強く巻き過ぎて血流障害が生じないように注意しましょう。止血帯がなければ、指先で注射部位を約 10 分圧迫しましょう。
3) 冷却:注射部位周囲の血管収縮を促し、出血量を少なくするために、可能であれば、注射の前、終了後 5~10 分は、局所圧迫と併せて、アイスパック等で局所冷却しましょう。
4) ワクチン接種した腕の安静:接種後 2 日程度は、接種した腕の使用は控えめにしましょう。
5) もしも出血してしまった場合のことを考え、ワクチン接種は利き腕とは反対の腕にしてもらいましょう。利き腕が使えなくなると、自己注射に支障を生じます。
6) なお、出血がなくても、ワクチン接種後 1~2 日は接種した腕の不快感を覚えることがあります。明らかな腫れや痛みがなければ、様子を見て良いでしょう。

 細い針でうってもらい、十分に圧迫止血する、そして冷却・安静です。予防接種の際には、出血傾向がない人でも利き腕とは逆にうってもらったほうが良いと思います。万が一ということはあり得ますから。ワクチン接種会場はとても多忙で個別対応が難しいことが多いので、圧迫/冷却するものなどはご自身で準備されたほうが確実かもしれませんね。

 

5. 各疾患による特殊な留意点

【血友病】海外からは以下のガイダンスが出ています。
・凝固因子製剤の定期補充療法を継続している方は、定期補充後にワクチン接種をしましょう。
・血友病の患者さんで、凝固因子活性のベースライン値が 10%以上であれば、ワクチン接種前の凝固因子製剤の補充は必要ないかもしれません。
・ヘムライブラ®投与中の患者さんでは、そのままワクチン接種を受けられるかもしれません。

【フォン・ヴィレブランド病】
 通常のフォン・ヴィレブランド病の方は、ベースの VWF 活性・第 VIII 因子活性が低値の場合や、頻繁に出血症状がある場合には、主治医と相談してワクチン接種時に止血のための薬剤(酢酸デスモプレシンやトラネキサム酸などを使用すべきと考えます。トラネキサム酸は接種前日と当日の内服、酢酸デスモプレシンの投与は接種当日(接種前)の投与が良いと思われます。
重症のフォン・ヴィレブランド病の方は VWF 活性・第 VIII 因子活性が非常に低いため、ワクチン接種前に、小処置・小手術に準じたフォン・ヴィレブランド因子含有濃縮製剤の注射を受けましょう。

【その他の凝固・線溶異常症】
 特に大動脈瘤や血管奇形などによる慢性播種性血管内凝固の方は、凝固・線溶系の状態によっては接種後に強い出血をきたす場合があるので、症状と凝血学的検査結果を考えたうえで、主治医とワクチン接種による利益と不利益を話し合って決めてください。
【血小板減少症/血小板機能異常症】
 ワクチン接種によりごく稀に血小板数が減少することが知られていますが、ワクチンによる感染予防の利益は大きいと考えられます。主治医とワクチン接種による利益と不利益を話し合って決めてください。
海外からは以下のガイダンスが出ているので参考にしてください。
血小板減少症や血小板機能異常症の方は、ワクチン接種をした方が良いでしょう。
プレドニンなどの免疫抑制薬で治療を受けている方も、ワクチン接種をしてもかまいません。

 おそらく血小板減少症の患者さんで最も多い疾患は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)です。ITPの方は、いま現在口腔内出血などの出血傾向が顕著でない限りは、基本的にはワクチン接種に特に支障はないと考えられます(3万あれば問題はないでしょう)。ステロイドを大量に内服していると抗体が産生されにくいということはあるかもしれませんが、とはいえ、その場合すぐにステロイドを中止できるわけではないと思うので、接種するにこしたことはありません。

 ただその際も、上述した対策――細い針でうってもらい、十分に圧迫止血する、そして冷却・安静です。そして利き腕とは逆にうってもらう――は可能な限りとりましょう。

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