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米国血液学会「免疫不全患者さんに対するCOVID-19ワクチンの一般原則」

 今回は、米国血液学会から出されている「免疫不全患者に対するCOVID-19ワクチンの一般原則」を紹介します。前回までは造血幹細胞移植あるいはCAR-T療法を受けた患者さんに限定されていましたが、今回のものはより広い範囲を対象にしています。とても長いので一部抜粋して掲載します。

 なお、ここでいう免疫不全患者さんとは、血液疾患で抗がん剤治療や免疫抑制剤投与を受けている患者さんすべてを含むといっても過言ではないと思います。

 より多くの患者さんあるいは医療従事者のご参考になれば幸いです。

Q. 免疫不全患者さんへの使用が承認されている COVID-19ワクチンは何ですか?

 COVID-19 ワクチンの現在の臨床試験では、免疫不全患者さんに関するデータは発表されていません。したがって、免疫不全患者さんにおいてワクチンの有効性と安全性は、確立されていません

Q. ワクチンで抗体を獲得できない血液疾患の患者さんがいるのはなぜですか?

 ワクチン接種後に最適な防御免疫を獲得するためには、特に抗原提示、B細胞やT細胞の活性化、形質細胞の抗体産生が行われる必要があり、接種した人の免疫力が損なわれていないことが必要です。そのため、血液疾患そのものや抗がん剤や免疫抑制剤などの治療によって、免疫力が低下した患者さんでは、ワクチンをうっても抗体産生能が一般の人々より低い可能性があります。

 特に、以下のような免疫不全の患者さんは、COVID-19ワクチンに対する反応が弱まったり、消失したりする可能性があります。

a. 原発性および二次性の免疫不全。

b. 脾臓摘出後または機能的無脾症[例:鎌状赤血球症]。

c. B細胞機能を低下させる療法(例:リツキシマブ(リツキサン®)、オビヌツズマブ(ガザイバ®)、イノツズマブ(ベスポンサ®)、ブリナツモマブ(ビーリンサイト®)、CAR-T療法(キムリア®など)のような、CD19、CD20あるいはCD22を対象とした薬剤、もしくはブルトン型チロシンキナーゼ[BTK]阻害剤(イムブルビカ®など)。

d. T細胞を抑制する薬(例:カルシニューリン阻害剤(プログラフ®、ネオーラル®など)、抗胸腺グロブリン(サイモグロブリン®など)、アレムツズマブ)

e. 多くの化学療法

f. 高用量ステロイド(1回あたり20mg以上、または1日あたり2mg/kg以上のプレドニゾンまたはそれと同等のもの)の投与。

g. 造血幹細胞移植、特に自家移植後3~6か月、同種移植後はしばしばそれ以上の期間

h. 基礎となる免疫異常(例:移植片対宿主病(GVHD)、移植片拒絶反応、免疫再構成の欠如、好中球減少症(500/μL未満)、リンパ球減少症(200/μL未満)など


Q. 免疫不全患者さんにおけるワクチンの安全性と有効性については、どのようなことがわかっていますか?

 これまでに報告されているCOVID-19ワクチンに関連する一般的な急性の副作用は、微熱、筋肉痛、頭痛、吐き気、疲労、注射部位の痛み・赤みなどです。これらの急性の副作用は、いくつかの試験では2回目のワクチン投与後に顕著に現れています。ワクチンの長期的な副作用はまだわかりません。

 免疫不全患者さんにおけるCOVID-19ワクチンの有効性については、まだ十分わかりません。不活化または死滅させた他のウイルスワクチンにおける経験では、免疫不全患者さんにおいてもある程度の有効性が示されています。

 ワクチンの効果は、基礎疾患や最近の治療の種類と時期によって影響を受けます。タンパク質ベースの帯状疱疹ワクチンは、免疫抑制療法中または免疫抑制療法後6か月までの血液悪性腫瘍の患者さんに投与した場合、安全性が高く、効果もありました。しかし、慢性リンパ性白血病(CLL)や非ホジキンリンパ腫の患者は、その多くが抗CD20を含むレジメンで治療されていたため、他の血液悪性腫瘍の患者に比べて有効性が低くなっていました。

 インフルエンザワクチンは安全で、免疫力の低い患者でも効果を示すことができますが、反応率には大きなばらつきがあるようで、積極的な治療を受けていないCLL患者さんでは15~63%、BTK阻害剤(イムブルビカ®)治療を受けている患者さんでは7~26%と報告されています。

 しかし帯状疱疹やインフルエンザワクチンへの反応も、過去に感染したことがある場合もあり、その記憶を介した反応であることが多いです。しかし新型コロナウイルスに対する反応は、新たな免疫反応を必要とし、免疫不全患者さんがどの程度そのような反応を起こすことができるかについては、あまり知られていません。

 免疫不全患者さんにCOVID-19ワクチンを投与する前の検査として、血球数、B細胞とT細胞、免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA)、破傷風と肺炎球菌の力価などを測定することが考えられますが、これらのパラメータがCOVID-19ワクチンに対する反応にどのような影響を与えるかは不明です。

Q. 免疫不全患者における弱毒生ワクチンの安全性と有効性について、どのようなことがわかっていますか?

 弱毒生ワクチンには、病原性のある株に変化するリスクがあり、特に免疫不全患者さんではそのリスクが高いと言われています。新型コロナウイルスの弱毒生ワクチンに同じような大きなリスクがあるかどうかは不明ですが、理論的な懸念があるため、免疫不全患者には生ワクチンを避けるべきです。また、一般的な弱毒化生ワクチンの潜在的なリスクとして、ワクチンを接種した身近な人にウイルスが感染する可能性があります。新型コロナウイルスの生ワクチンは、インドとトルコでしか製造されていません。

Q. mRNA/DNAや他のウイルスを使ったワクチンを投与した場合のデータはないとのことですが、免疫不全患者さんにおける懸念事項は何ですか?

 ファイザーとモデルナのワクチンはmRNAベースのワクチンです。アストラセネカとジョンソン・エンド・​ジョンソン/ヤンセンのワクチンはアデノウイルスベクターを用いたワクチンです。これらのメカニズムを利用したワクチンは、これまでにも提案されており、がん治療への応用もあります。理論的には、アデノウイルスベクター・ワクチンを投与したいくつかの動物モデルで報告されている、炎症反応の亢進が懸念されます。また、mRNA/DNAワクチンによって誘発される自己免疫疾患の発症も懸念されています。

 慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群の患者さんや、同種造血細胞移植後の患者さんは、他の免疫介在性合併症を起こしやすいことを考えると、これらの患者に新型コロナウイルスに対する抗体ができることで、免疫増強や全身性の炎症反応が起こることが懸念されます。

 現在までに報告されているワクチンの副作用は下記です。

注射部位の痛み(~60%)、発熱 (~50%)、頭痛 (~42%)、倦怠感 (~28%)、関節痛 (~24%)

Q. COVID-19ワクチンについて、免疫不全者を対象とした試験は行われていますか?

 COVID-19ワクチンについて、免疫抑制状態にある被験者を対象としたデータは発表されていません。

Q. 免疫不全患者さんがワクチンの臨床試験に参加しておらず、COVID-19ワクチンに反応する可能性が低い場合でも、ワクチンを受けるべきでしょうか?化学療法、移植、抗体療法、脾臓摘出術などを行っている場合、どのようなタイミングで受ければよいでしょうか。より高用量のワクチンや複数の種類のワクチンを使用すべきでしょうか?

 造血幹細胞移植やCAR-T療法を受けている患者さんへのワクチン接種については、別のnoteで詳しく説明しています。

 免疫不全患者さんが ワクチンを接種する際のリスクとベネフィットは、地域での感染率を考慮した上で、個々に判断する必要があります。

 COVID-19ワクチンの接種を予定している場合は、免疫抑制療法、移植、脾臓摘出の予定日の少なくとも2~4週間前に接種することをお勧めします。患者さんが免疫抑制療法を受けている、または受けたことがある場合は、免疫を獲得できる可能性を高めるために、治療を中止してから6ヵ月後にワクチン接種を検討してください。

 造血細胞移植後、不活化ワクチンは一般的にリスクの増加が少なく、移植片対宿主病(GVHD)を引き起こしたり悪化させたりすることはありませんでした。

 ほとんどの専門家は、期待される有効性が一般の人々よりも低くても、ワクチン接種を推奨しています。

 重要なことは、ワクチン接種をしたとしても、マスク、ソーシャルディスタンス、頻繁な手指消毒などの必要な予防行動が変わることはないということです。

 また、インフルエンザの二重感染の可能性を減らすために、免疫力の低い患者さんにもインフルエンザワクチンを接種すべきです

 最後に、すべての医療従事者と家庭内接触者は、インフルエンザに関する推奨事項と同様に、免疫不全患者さんを保護するために、COVID-19ワクチンが入手可能な場合は、受けるべきです

 免疫不全患者さんが過去に新型コロナウイルスに感染していたかどうかは、ワクチンを接種するかどうかの判断に影響しません。しかし、もし過去に罹患していた場合は、ワクチン接種によって、2回接種の2回目と同様に副作用が増加する可能性があります。

 詳細が明らかになるまでは、同じ患者に異なるCOVID-19ワクチンを接種すべきではありません。抗体価を測定することは、将来的には反応を評価するのに役立つかもしれませんが、さらなる情報が必要です。現時点では、承認されたCOVID-19ワクチンの接種回数を増やしたり、投与量を増やしたりすることは推奨されません。

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