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ヨーロッパ血液学会「血液疾患患者(血液腫瘍を除く)におけるCOVID-19ワクチン接種に関する専門家の意見」

 前回に続いてヨーロッパ血液学会からでている「血液疾患患者(血液腫瘍を除く)におけるCOVID-19ワクチン接種に関する専門家の意見」を取り上げます。

 前回は、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫などの血液腫瘍患者さんが対象でしたが、今回は血液腫瘍ではない血液疾患、例えば貧血や血小板減少の患者さんが対象になります。

  前回同様、和訳(+要約+解説)して記載します。

全般的な勧告

1) ワクチン接種によって、感染予防行動(マスクの使用、手指の消毒、ソーシャルディスタンスなど)を緩めてはいけません。

2) アナフィラキシーの既往のある患者さんでは、重篤な副作用のリスクと期待される利益とを慎重に比較検討する必要があります。

3) インフルエンザワクチンの接種は、免疫力の低い患者にも行うべきです。

4) ワクチン接種後にCOVID-19に対して抗体を獲得したかどうかの評価は、現在のところその意義が検証されていないため、日常的には推奨されていません。しかし、近い将来、それも解決されるかもしれません。

免疫不全の患者さん

1) 免疫抑制状態にある患者さんは、COVID-19 ワクチンに反応して抗体を獲得する確率が一般の人々より低いと考えられ、COVID-19 ワクチンによる防御効果は低くなる可能性があります。白血球数、リンパ球サブセット、免疫グロブリンなどは抗体獲得能力を評価する一助になるかもしれませんが、不確かです。しかし、いずれにしても免疫抑制状態だからといって、ワクチンには大きな副作用はないと考えられます。

2) 上記の前提を踏まえた上で、現在の知識に基づくと、免疫抑制患者さんではワクチン接種は一般的には有用であると考えられます。
 ただし、B細胞が減少する治療(例:CAR-T療法やリツキシマブ)や自家・同種造血幹細胞移植後は、可能であれば接種前に3~6か月の期間を空けたほうがいいかもしれません。


貧血の患者さん


1) すべての成人の鎌状赤血球患者さん、重度サラセミア患者さん、すべての脾臓摘出患者さんは、COVID-19ワクチンを受けるべきです。

2) 脾臓摘出患者さんが COVID-19 ワクチンを接種することは禁止事項ではありません。

3) 慢性的な鉄欠乏貧血患者さんにおけるCOVID-19 ワクチンのデータはまだ少ないです。COVID-19 ワクチンを投与する前に鉄欠乏症を改善することが望ましいでしょう。

4) 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症では、赤血球膜に対する自己抗体が発見されており、新型コロナウイルス感染症と自己免疫性溶血性貧血(AIHA)との関連が複数報告されています。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)患者さんはCOVID-19ワクチンを接種することを推奨します。しかし、ワクチン接種が自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を悪化させるかどうかはわかっていません。


血小板減少症または血小板機能障害のある患者さん


1) これらの患者さんにワクチンを接種することは、以下の2つの理由から推奨されます

・新型コロナウイルス感染症では血小板数が減ることが一般的であり、もともと血小板数減少あるいは血小板機能障害を持つ患者さんの出血リスクを悪化させる可能性があります。

・COVID-19患者さんでは、血栓症が起こることがあり、その場合抗凝固療法(血栓を溶かす治療)を行いますが、重度の血小板減少の患者さんではこの治療は出血リスクを助長するために行うことができません。


2) 他の予防接種[と同様に、COVID-19ワクチンはまれに免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病:ITPなど)の悪化や再発を引き起こす可能性があります。しかし、他の予防接種と同様に、COVID-19ワクチン接種の有益性は、感染のリスクを上回ると予想されます。

3) COVID-19ワクチンは筋肉内注射を行いますが、血小板減少の患者さんでは、注射部位に血腫(内出血し血の塊をつくること)を引き起こす可能性があります。しかし、血小板数が3万以上の患者さんでは禁止事項にはならないでしょう。

3万未満でも臨床的に重大な出血傾向がない場合には、接種は可能でしょう。あるいはワクチン接種の前に、免疫抑制しない薬剤(例えば、特発性血小板減少性紫斑病ではTPO受容体作動剤(レボレード、ロミプレート)など)で血小板数の増加を試みてもよいかもしれません。

血小板機能に異常のある患者さんでは、いままでの出血歴によって筋肉内注射が不可能かどうかがわかります。

心臓病や脳梗塞、血液疾患などで抗血小板薬を投与されている患者さんの筋肉内注射による血腫のリスクは低いです。

今後、筋肉内以外の経路で投与できるワクチンが登場した場合には、血小板減少の患者さんに優先的に使用されるでしょう。


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