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『投入盛花 實體寫真百瓶』 小林鷺洲 #日本ステレオ伝 004

『投入盛花 實體寫真百瓶』 小林鷺洲著 普文館 大正六年一月五日発行 (1917年)より

投入 Nageire — Wikipedia https://bit.ly/3VIXukK
盛花 Moribana — Wikipedia https://bit.ly/3KNsV7h

写真1
今上陛下御真筆謹寫 ※大正天皇
写真2
大菊
(1–3頁)

自序

花道に於て花格の保存上古は専ら(もっぱら)繪畫を用ひしも、近來寫真の應用せらるに至りしは喜ぶべき現象なり。されど斯の寫眞を視るに兎角枝振りの淋しき感あり。开は(それは)何故なるかと云ふに普通肉眼にて視るときは立派に出来上りたる花形も一個のレンズを用ひてこれ撮影するが爲めに、暗箱内の硝子面に映る枝振りは十文字、丈けくらべ、葉のかさなり等、古人の禁ぜられたる見苦しき様に寫るものなり。されば挿者は斯様の缺點の現はる々を避けんがために、殊更に撮影の結果の都合よき様に、心ならずも強ひて枝を伐り或は葉をすかす等の工夫を施し、従つて花形の大切な本體を損じ、真の妙味を失はしむるもの凡て皆之れなり。予これを憂ひ撮影上に就て腐心すること數年、玆に(ここに)不圖(ふと)感ぜしは双眼寫真機これなり。時に明治四十五年直ちにこの機械を購ひ試し視るに、從來寫眞の弊とせし彼の見苦しき缺點も、生け上げたる花形其の儘の姿に前後瞭然と浮び現はれて見ゆる故に、全く實物を見ると異ることなし。されば普通に挿し終りたる花を、其のま々撮影することの出来る完全無缺の寫眞機と云ひ得べし、この事は大正五年二月斯道の機雜誌「國風」第五巻第二號の誌上にこれを説きたり。
『西暦壹千八百三十八年ギリス人ホイートストン(Wheatstone)の初めて發明せしは、二つの平面鏡を直角に置きたるものより成る。(中略。)後壹千八百四十九年イギリス人ブルースター(Brewster)レンズを用ふる實體鏡を發明せり。これ現今行はる々ものにして第二圖に示すものこれなり。(下略。)』(日本百科大辭典)
大正四年十二月『投入と盛花』と題しせし册子を著はしぬ。然るに讀者は之に満足せずして該書(当該書)の發行者晋文館主を促して、前書よりも幾倍花形の多き册子の出版を希望せること甚だ切なり。玆に(ここに)於て晋文館主は予に新に花形寫眞百瓶なるものを著はさんことを請はる。
因て(よって)而來(じらい)約壹ヶ年間(1年)を間を費し、前述の双眼寫眞機に據り(より)四季草木の自然を主とし、其の性質風情を損ぜざるを程度として様々なる形を夫れ夫れ(それぞれ)瓶器に當嵌め(当てはめ)、寫眞と成したるもの即ち本冊子なり。初心者が斯道研究の一助ともならば予の満足これに過ぎず。
本書編輯に關しては小笠原利孝、酒井國太郎、所眞澄の諸先生の援助を蒙りたると、和合會、十日會、青翠會會員諸氏の便宜を興へられたる厚意とに對して感謝の意を表す。
大正五年十二月
著者識す
(4–6頁)

凡例

一、卷頭の今上陛下御眞筆は大阪朝日新聞附錄の謹寫なり。
一、本書の草木は一月より十二月まで季候の順に從ひ配列せり。
但し温室にて咲きたる花ものは季候の順位を變じたるものあり。
一、本圖の解説は添附せる實體鏡を眼に掛けたる儘片眼にて讀むを便利とす。
一、本書解説の紙面に限りあれば長きに亘るものはこれを省略し、同種にして説明の短き箇所へ前記省略したる部分を記せり。
一、本書中の寫真撮影の際花と器物との調和上理想的ならざるものは其の缺點を説明にて 補へり。
一、本書解說中格花(流儀花)に近きものには生けの語を用ひ、投入には入れの語を用ひ、景花、意匠花、茶席花、盆花、獨樂花、新式盛花等には挿すの語を用ひ、花盛物には盛るの字句を用ひて區別せり。
一、本書寫眞版を作るに使用したる草木は、得難き珍奇なる種類を成るべく避け、普通一般に用ひらる々ものを主としたり。
一、本書の花圖に用ひたる草木に同種のもの あれども花形は全部變化せり。これ等變化の形を他の草木に應用せられたし。 一、實物の大なる花も小なる花も一定の寫眞版に撮影したれば、實際花格の大小は讀者の判断に委す。
一、本書花圖中、花枝の十文字、丈けくらべ等に見ゆるものも、實體鏡を用ひて驗すれば枝先の長短前後等明瞭に識別し得。
一、各植物花色の眼に映じたると寫眞になりたるものとは相違せるを以て實物と對照せらるれば色彩の配合上參考となるべし。例へば紫色は白色に、牡丹色、黃色は葉と同色に、赤色は黒色等に寫るが如きこれなり。
一、本書の花圖にして瓶器に對し花體の大きく見ゆるものあり、これ等の如きも實體鏡を以て視る時は斯く感ぜす。
一、各花瓶に入れたる草木の止めやうは、枝の太細長短又は器物の変はりたるに從ひ異なるを以て、夫れ夫れ方法を附記したり。
一、既に名稱を熟知せる草木の選出には卷尾に附したる索引に據らうべし。
一、本書の挿絵は鈴木雲溪畫伯の手に成り、寫真は北信館主人香生氏の手に成れるものなり。
(1–6頁)

投入盛花

實體鏡使用法と臨機の處置 一
第一法 一
第二法 二
第三法 二
第四法 三
注意 三
形態上より見たる蔓の春きかた 四
甲圖 ひだりまき 四
乙圖 みざまき 四
插法の位置 五
百瓶解説
第一圖 マツ 六
第二圖 ウメ、シュンラン 九
第三圖 マツ、センリヤウ 一〇
第四圖 ヨウヅメ、ハボタン、シユンラン 一三
第五圖 マツ、ツバキ 一四
第六圖 ウメ、ツバキ 一七
第七圖 マツ、シュンラン 一八
第八圖 ヂンチヤウゲ、ハボタン 二一
第九圖 ヒラド、マガリツト、シュンラン 二二
第一〇圖 ツバキ 二五
第一一圖 アセビ 二六
第一二圖 モモ、アブラナ 二九
第一三圖 イブキ、アセビ 三〇
第一四圖 マツ、フクジユサウ 三三
第一五圖 アヲキ、ハボタン 三四
第一六圖 ヒガンザクラ 三七
第一七圖 マツ、ツバキ、ユキヤナギ 三八
第一八圖 ハモクレン、バイモ 四一
第一九圖 サクラ、アブラナ 四二
第二〇圖 マツ、ツバキ 四五
第二一圖 ユキヤナギ、キレンゲツツジ、アネモネ 四六
第二二圖 モモ、イブキ、アブラナ、ヒガンザクラ 四九
第二三圖 レンゲツツジの青葉、テウセンギク 五〇
第二四圖 ボケ、シユンラン、ボーゲンベリア、キンクワウクワ、バ井モ 五三
第二五圖 カキツバタ 五四
第二六圖 ムロ、カキツバタ 五七
第二七圖 ウンゼンツツジ 五八
第二八圖 レンゲツツジの青葉、アネモネ 六一
第二九圖 フヂ 六二
第三〇圖 ヤマブキ 六三
第三一圖 ヒガンザクラ、カキツバタ 六六
第三二圖 ヤマブキ 六九
第三三圖 ヤブサンザシ、テウセンギク 七〇
第三四圖 イトヒバ、テンヂクアフヒ 七三
第三五圖 サクラ 七四
第三六圖 フヂ 七七
第三七圖 ニハウメ、ボタン、テウセンギク 七八
第三八圖 サクラ、ツバキ、ヒヤシンス 八一
第三九圖 カヘデ、ボタン 八二
第四〇圖 フヂ 八三
第四一圖 マツ、バラ 八六
第四二圖 サクラ 八九
第四三圖 コデマリ、ボタン 九〇
第四四圖 ヤマザクラの若葉 九三
第四五圖 アシ 九四
第四六圖 ヤマブキ、ボタン 九七
第四七圖 マツ、シヤガ 九八
第四八圖 コデマリ、モクレン、バラ 一〇一
第四九圖 コデマリ、フランスギク 一〇二
第五〇圖 カヘデ 一〇三
第五一圖 ツツジ 一〇六
第五二圖 コデマリ、ボタン、ハウチハマメ 一〇九
第五三圖 フト井、カキツバタ 一一〇
第五四圖 ノイバラ、メダケ 一一三
第五五圖 カヘデ 一一四
第五六圖 ツゲ、アクシバ、ノイバラ、ツツジ、ヤナギ、マツ、シシガラシ、コシダ、シヤウジヤウバカマ 一一七
第五七圖 シヤクヤク 一一八
第五八圖 アマリース 一二一
第五九圖 コシダ、テウセンギク 一二二
第六〇圖 ボタン、コデマリ、セキチク、フランスギク、ハウチハマメ 一二三
第六一圖 マツ 一二六
第六二圖 シマヨシ、ヒツジグサ 一二九
第六三圖 シャクヤク 一三〇
第六四圖 バラ 一三三
第六五圖 スカシユリ、ギブソヒラ、イキシア 一三四
第六六圖 アジサ井、ヲグルマ、センノウ 一三七
第六七圖 アクシバ、アジサ井 一三八
第六八圖 シャクヤク 一四一
第六九圖 ユキヤナギ 一四二
第七〇圖 アマドコロ、シャクヤク、スカシユリ 一四五
第七一圖 オモダカ、トチカガミ ウキクサ 一四六
第七二圖 サツキ 一四九
第七三圖 アサガホ一五〇
第七四圖 キク 一五三
第七五圖 ハス 一五四
第七六圖 アサガホ 一五七
第七七圖 ユキヤナギ、カハラナデシコ 一五八
第七八圖 ハス 一六一
第七九圖 ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、ヲミナエヘシ、フヂバカマ、キキヤウ 一六二
第八〇圖 アクシバ、コシダ、カハラナデシコ 一六五
第八一圖 ヲミナエヘシ、フヂバカマ、ナツハゼ、シラヤマギク、ワレモカウ、キキヤウ、ハギ、コシダ、ヒカゲカヅラ 一六六
第八二圖 マツ、サルトリイバラ 一六九
第八三圖 ハマギク 一七〇
第八四圖 マツ、ヲミナエヘシ、アクシバ 一七三
第八五圖 キク 一七四
第八六圖 ソテツ 一七七
第八七圖 ナンテン 一七八
第八八圖 オモト 一八一
第八九圖 ツツジ、ヤブカウジ 一八二
第九〇圖 マツ 一八五
附録 はちす形花止め 一八六
植物名索引 一八七
*目次終了、この後本文
(1–3頁)

實體鏡使用法と臨機の處置

本書に挿入せる左右二個の同一写真は左記第一法に拠りて視らるべし。されど若し賞體鏡紛失せし際は第二法、無三法、無四法を取られたし。
第一法
本書に添附せる實體鏡は、板面の両端の小穴へ細き打ち紐の如きものを通し、両端を結びて輪型となし、これを左右の耳に普通眼鏡を懸けたるように掛け、本寫眞の右圖を右眼に、左圖を左眼に対せしむれば圖は二個に見えるものなり。而して眼と寫眞との距離を其の人の眼の度(遠視眼と近視眼)にあはすれば二個の圖は相會して一個となり、殊に奥深く生けたる花は枝の前後瞭然と浮き出でて、恰も花會に臨みて實物を眼前に現るの感あらしむ。「著者は視力普通にして眼と寫眞との距離曲尺四寸五分にして適度なり」
第二法
内円の直係一寸二分位、丈け四寸程の竹筒を二本(厚紙を以て製作するも可)を用いこれを普通双眼鏡の如く紙にて其の二筒を貼りつなぎ、而して兩眼鏡にて視る如く右圖を右眼に左圖を左眼に対せしめ、其の人の眼の度にあはすれば二個の圖は相會して一個となりて見ゆるなり。「著者は視力普通にして眼と寫眞との距離曲尺一尺二寸を適度とす」
第三法
右圖を右眼に、左圖を左眼に対せしめ、而して巾三寸程の薄き板或は厚紙の如きものを用ひ、丈は其の人の遠視眼と近視眼とによりて適度の寸法を定め、此の壁を鼻と本圖二個中央との間に入れるべば眼に映じたる二個の圖は相會して一個となりて見ゆるなり。「著者は視力普通にして眼と寫眞との距離曲尺一尺四寸を適度とす」
第四法
右圖を右眼に左圖を左眼に対せしめ、これを凝視する時、最初一個の圖は四個に見え、尚も見詰むるときは其の四個中、中の二個相會して三個に見ゆ、同時に三個の内中央の一個は前述第一法記載の通り實體鏡にて見るが如く花の枝の前後瞭然と浮かび出でて殆ど實物其の儘の姿に見ゆるなり。されどこの方法は初心の人は練習を積むに非ざれば効果を得ること容易ならず。「著者は視力普通にして眼と寫眞との距離曲尺二尺一寸を適度とす。」

注意

一、第一法だより第四法までの方法を行ふに寫眞帖は光線の来る方向へ真正面に固定し置きて視られたし。動揺する処に置く時は見え難きことあり。手掌に持ちて視るも又同じ。
一、第一法より第四法までの方法を行ふに未熟なるとき寫眞と眼との距離を適度に定めたる後、最初片目にて例へば先ず右眼ならば右圖を凝視し、而して後他の一方閉ぢたる左眼を徐に開く時は熟練すること早し。
(4頁)

形態上より見たる蔓の巻かた

甲圖 ひだりまき 左旋
乙圖 みぎまき 右旋
(5頁)

挿法の位置

向寄
左方 右方
前寄
(6–7頁)

第一圖解說

[マツ]本圖は題して三保の松原と申します。 富士の掛軸に調和するやう、子マツを砂の盛つた中に挿してありますが、盛盆の木地にマツの影が映ってある所は海原とも見えまして砂が陸路膨際とさへ思はれます。斯様な景色を作る場合に使用いたします盆は縁の低いものが 圖として廣い所のやうに見え、これに引きかへ縁が高いと圖が狭く見えます。マツの止めやうは小形のはちす形花止めを用ひ栓止めとし、其の上に静砂が振りかけてあります。さうして砂に霧水を吹きかけて置きますとマツ は水氣のある間は萎れません。或る古書に、この種のものを盆花と稱し、又「秋の末より砂を入れ、冬は是を盆態と云ふ」とあります。 (第十四圖、第七十九圖,第八十六圖、参照。)
※この後90図(186頁)まで解説が続きます。
(186頁)

附録

はちす形花止め

(187–194頁)

植物名索引

(195頁)

奥付

大正六年一月二日印刷
大正六年一月五日発行
著作者 小林鷺洲
発行者 山田英二
東京都神田區三崎町三丁目一番地
印刷者 金綱彌
東京都小石川區久堅町一〇八番地
博文館印刷所
東京都小石川區久堅町一〇八番地
発行所
東京都神田區三崎町三丁目
普文館
電話本局一〇九一 振替東京六二二番

小林鷺洲(こばやし

本名 小林治兵衛
(未確認)1865年(慶応元年)生まれ 1940年(昭和15年)没
商号 新花道家元鷺洲
官報(1922大正11年) https://dl.ndl.go.jp/pid/2955056/1/20
府下千歳村下祖師谷一一七(1916205/1/182)
Google Gemini
(引用元不明)
小林鷺洲は、明治・大正時代の華道家、華道研究者です。
* 1865年(慶応元年)生まれ
* 1940年(昭和15年)没
* 江戸時代後期に成立した「投入盛花」の復興に尽力し、その著書「投入盛花」は、現代の投入盛花の基本書の一つとされています。
* その他にも、多くの華道に関する著書を著し、華道界の発展に貢献しました。
小林鷺洲の功績としては、以下の点が挙げられます。
* 投入盛花の復興:江戸時代後期に成立した「投入盛花」は、明治時代に入って衰退していました。小林鷺洲は、この投入盛花を復興するために尽力し、その著書「投入盛花」は、現代の投入盛花の基本書の一つとされています。
* 華道研究の推進:小林鷺洲は、華道に関する文献を収集・研究し、その成果を著書にまとめました。これらの著書は、華道史や華道理論の研究に大きな貢献をしています。
* 華道教育の普及:小林鷺洲は、華道教室を開設し、多くの人々に華道を教えました。また、華道に関する講演会や講習会も開催し、華道の普及に努めました。
小林鷺洲は、20世紀前半における華道界を代表する人物の一人であり、その功績は今日なお高く評価されています。
小林鷺洲に関する資料としては、以下のものがあります。
* 著書:『投入盛花』『盛花新撰』『華道教授要訣』など
* 研究文献:『小林鷺洲研究』(藤井宗貫著)『華道史』(安藤正雄著)など


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