統合失調症の私が伝えたい5つのことVol14

21 孝也の逮捕・現実逃避
 
 そんな幸せな日々を房恵からの一本の電話が、もろくも壊した。
「葉月ちゃん、孝也が捕まった」
 最初は、何のことか意味が分からなかった。
「覚せい剤と恐喝で、警察に捕まったんよ」
房恵の声は、震えていた。

(覚せい剤と恐喝?警察に捕まった?)
それらの言葉が、ぐるぐると頭の中で渦巻いた。そして、私が留年した時に教子が言った言葉が、頭の中で、響いた。
「お寺の奥さんは、みんなの見本にならんといけんのんじゃけえ」
(どうしよう?隆道になんて言おう?檀家さんに知れたら、どうしよう?)
まず、隆道に言わなければ!でも、何て言えばいいのだろう?結局私は隆道に本当のことを言えなかった。
 
孝也は、高校を出てから、職を転々として、金沢で、やくざになっていた。そこで、覚せい剤に手を染めた。そして、やくざの組事務所がやっていた高利貸しの取り立ての仕事で、ずいぶんと乱暴なことを言い、その取り立ての音声を録音されて、警察に捕まったのだ。
 
孝也の件から目をそらすように、私は、英語の仕事に打ち込んだ。荒野の事件を考えたくなかったのだ。仕事に打ち込んでいると、孝也の件から目をそらすことができ。そして夜、無邪気に眠る大智と亮純の顔を見ては、涙をこぼした。

(言ってはいけない。誰にも言っていけない。言ったら、この子たちの寝顔が見られなくなってしまう。この暮らしが、壊れてしまう。)
私の胸は、張り裂けそうだった。今から思えば、この頃から、私の心は壊れ始めていたのかもしれない。

隆道にもやよいにも何も話せないまま、時が流れた。孝也は、金沢刑務所に収監された。懲役3年だった。冬になり、雪がちらつくのを見たら、私は、孝也の事を思った。
(寒いだろうな。どうしているかな?)

私は、孝也に手紙を書きたいと思った。孝也への心配が募り、とうとう私は、幸也が捕まってから一年後に隆道に、孝也の事を打ち明けた。
「そうか・・・」
抑えた声で、隆道は言った。
「あなたを見ていたら、何かがあったのだとは思っていた」
とも言った。
 
次の日から隆道は、頻繁に飲みに行くようになった。隆道なりに、孝也の件から、目を逸らしたかったのかも知れない。私は、そんな隆道に何も言えなかった。
 
孝也には手紙を書いた。孝也からも返信が来た。白い封筒の裏には、「金沢 公一・・・」と書かれていた。それが何を意味するのか、町の皆にばれないかと、私は不安で仕方なかった。それでも、孝也との手紙のやり取りは、私に安らぎを与えた。私は孝也の事を思った。不思議と幼い頃の孝也の姿が浮かんだ。
(会いたい!孝也に会いたい)
私は思った。


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