統合失調症の私が伝えたい5つの事Vol16

23 孝也、常夫との再会
 
春休みになった。私は大智と亮純を連れて、京都、金沢、そして東京への旅に出た。京都では、やよい達や中学・高校時代の仲の良い友達とその子供たちと、湯ノ花温泉に泊まった。久しぶりにみんなに会えて嬉しかった。大智も亮純も、とても楽しそうだった。私も、久しぶりに友人たちと会って、嬉しかったし、楽しかった。

金沢では、房恵の弟の武の家に泊まった。武の孫たちと遊ぶ大智と亮純を残し、私はタクシーで、金沢刑務所に向かった。そして孝也と面会した。テレビドラマに出てくる面会室と同じ光景だった。私は少し緊張した。
久しぶりに会う孝也は、少し痩せていた。丸刈りの頭。幼い頃のように純粋で、優しい目をしていた。

「孝ちゃん」
私は泣いた。
「お姉ちゃん、ごめんな。ごめんな」
孝也も泣いた。ほとんど何も話せなかった。ただ、幼い頃の孝也との思い出が、心に廻った。
「体に気を付けて」
「お姉ちゃんも」
そんな言葉を交わして、面会室を後にした。
 
武の家に戻ると、大智と亮純が、武の孫たちと無邪気に遊んでいた。突然私は二人を抱きしめた。
「どうしたの?お母さん?」
大智が訊いた。
「泣いてるの?お母さん?」
亮純が訊いた。伝ってくる涙を手の甲で拭いながら、私は、
「泣いてへんよ。泣いてへんよ。」
と、繰り返した。

(この二人との幸せだけは、壊したくない。この二人だけは、何があっても守らなければ)
私は、強く思った。
 
東京では、常夫と房恵に久しぶりに会った。常夫たちは直樹を頼り、東京に引っ越していた。直樹は東京で、会社を辞めて、カフェを経営していた。常夫は少し白髪が増えて、痩せたようだった。
「大きくなったなあ。二人とも」
常夫は、嬉しそうに言って、二人の頭を撫でた。

東京では、直樹の奥さんにも初めて会った。直樹よりも6歳年上で、私と同じ年だった。美人で優しくて、素敵な女性だった。彼女は男の子を産んでいた。私たちはみな揃って、ディズニーランドに行った。大智も亮純も、そして常夫も嬉しそうだった。私たちは楽しい時間を過ごした。
直樹と房恵は、カフェだけでなく、焼き肉店をオープンする計画をしていた。
「開業資金が、あと500万足りひんねんよ」
と、房恵は言った。
「お姉ちゃん、隆道さんに借りてもらえへんかなあ?絶対返すし」
と、直樹が言った。私は隆道に、電話で頼んでみた。
「500万か・・・」
隆道は、しばらく沈黙したが、
「わかった。振込口座を聞いといて。明日にも振り込むから」
と言ってくれた。


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