hacomono conferenceーレポート③コロナ禍を乗り越えた先に見据える総合の未来
【総合フィットネスクラブが創り出す会費外収入・新規事業の可能性】
最初のテーマは会費外収入について。コロナ禍、会費収入が激減したことで会費外収入の重要性を感じた施設は多いことでしょう。その会費外収入について、セッション内では各社における会員1人あたりの単価やその内訳、今後の方針などについて赤裸々に語っていただきました。
セントラルスポーツは高い会費外単価を確保していたものの、同社の桑田氏は「まずはメイン事業がうまく回るようにすることが大切」と、会費外収入を特別に意識した取り組みは行っていないと語りました。
続くSDエンターテイメントの山中氏は、本社が北海道という特徴を活かした物販が好評だとしつつも「会費が低めの施設は会費外単価も低めに出る。やはり満足度が影響していると思う」と述べました。
もちろん、会費が低めの小規模業態などはスタッフが常駐していない、そもそも物販スペースが取れないなどの要因はあるものの、山中氏も会費外収入はメイン事業での顧客満足度があってこそという考えのようでした。
それを受けて濱田氏も「退会率の低さで満足度を図る傾向が一般的だが、物販の売上などで図るほうがより正確かも知れない」と賛同します。確かにフィットネスクラブに限らずどんなサービスでも、店舗やスタッフに満足しているからこそ「あそこが(あのスタッフが)お勧めするものなら買ってみようかな」という気になるはず。会費外収入の向上を目指すのであれば、まずはメイン事業の顧客満足度向上に取り組んでから、という順番がポイントになりそうです。
続いて濱田氏は、「フィットネス」の概念について3社に次のように質問を投げかけました。
「業界からすると『フィットネス=運動』というイメージが強いが、物販含め、これからの時代はもっと広い概念で捉えて、フィットネスが生活拠点の一部になるように取り組んでいいように思う。皆さんは『フィットネス=○○』とした場合、何と考えますか?」
印象的だったのは山中氏の「フィットネス=ファッションである」という回答。
「トレンドがあって、それが一周回って戻ることもある。個性も重要だし、価格も高いものから安いものまで様々。これってファッションと同じ。毎日服を着るように、フィットネスクラブへ行くことも、もっと当たり前になればと思う」
日本のフィットネスもファッションのようにもっと自由な感覚で楽しめるといいのかもしれません。海外には、“より良い状態”を目指して身体だけでなく心の健康まで含めたトータルサービスを提供したり、ヘアサロンやネイルサロンを併設するなど、まさに「生活拠点」となるようなサービスを提供している施設があります。ユーザーがより気軽に通いやすくなるだけでなく、施設にとっては新しい顧客開拓にもつながることでしょう。
続く「新規事業の取り組み」については、東急スポーツオアシスの竹尾氏が「デジタルヘルス事業」を挙げました。コロナ禍、クラブに会員が来られないというペインポイント解消のために始めたデジタル活用により「様々なデータを取得できたことで、運用について今まで見えていなかった部分が視覚化できた」と言い、今後はそのデータを元に運営改善につなげていきたいと述べました。
昨今は、デジタル活用で様々なデータが取れるようになっています。導入企業から聞かれるのは、「想像と違っていた」という驚きの声。例えば、hacomonoを導入したフィットネスクラブ様からは、「深夜のチケット購入や入会が予想外に多いことがわかった」「(スタジオレッスンのチケットを)どなたがどれだけ購入しているかがわかり、モチベーションの高さや好みがわかった」などの感想が寄せられています。これらの事実は、施設として優先して取り組むべき部分を明確化し、効率的な運用改善につながることでしょう。
セミナーではそのほかにも、会費外収入の1つであるパーソナルトレーニングの今後や、各社がベンチマークしている業態、取り組んでいる他業種とのコラボレーション、さらには「メタバース」など気になるワードが次々と登場し、参加者からも多くの質問が寄せられました。3社とも、まだいろいろな試行錯誤の途中のようですが、少しずつ復調の兆しや新たな展開が見え始めたことを感じさせるセミナーでした。
【経験から学ぶ!総合フィットネスクラブにおける店舗運営の課題と解決策】
トップバッターとしてまず現状を報告することになったのはオークスベストフィットネスの山形氏。「話しづらい」と苦笑しながらも、率直に語ってくれました。それによると、現在はコロナが原因で退会された方たちが戻ってきてくれるような取り組みに力を入れているそうで、今年の1月から少しずつその効果が表れてきたことを感じていると語りました。
これについては東急スポーツシステムの比江島氏も同様のことを述べており、お2人の話からはいよいよ人々が動き出してきたことを感じます。長引く自粛生活でコロナとは別の健康問題を抱える方が増えていることや、また同時にフィットネス施設への信頼も少しずつ回復してきていることが影響しているのかもしれません。
なお、東急スポーツシステムでは昨年、新たな集客策の実施とDX化という大きく2つを実行しました。前者については、入会へのハードルを下げるため、それまでの6ヶ月縛りをなくしてみたり、利用エリアの切り売りなどを実施したそうです。
DX化については、hacomonoを導入してレッスンを事前予約制にしたほか、ジムにAI監視カメラを設置してスタッフを減らすことに挑戦したと言います。その目的は人員削減ではなく、安全監視をAIに任せることで、スタッフが顧客とのコミュニケーションに注力できる環境を作り上げること。そうして人だからこその手厚いサポート提供に現在も取り組んでいるそうです。
続いて発表したのはラストウェルネスの脇谷氏。コロナ禍、多くの退会者が出てしまったものの、「ここ約1年は入会が右肩上がり」という発言をして皆を驚かせました。高単価のパーソナルトレーニングやキッズスクールも好調だと言います。
取り組んできたのは、入退会のバランスを変えること。退会を抑制し、今までより少ない入会数でも会員数がきちんとプラスになっていくようなクラブ運営に力を入れてきたそうです。きちんとお客様が求める結果を出すことを前提に、具体的には、初期定着への取り組み、会員とのエンゲージメント強化とそれができる人材育成、DX化の推進などに取り組んだと言います。同社では、会員が施設に来られないときでも、アプリを通してサポートを提供しています。
コロナ禍、会員になりながらも利用していなかったいわゆる“幽霊会員”が一気に退会し、これまでのサポート不足を悔やんだ施設も多いはず。ラストウェルネスの取り組みは、サポートにより会員の信頼を得られれば、継続につながるだけでなく、極端な安売りをしなくともよいことを証明してくれた好例といえるでしょう。
なお、セミナーでは参加者から「退会抑止として効果があったものは?」という問いも寄せられました。どの企業も複数の取り組みを同時に実行していることもあって1つに絞ることは難しかったようですが、非江島氏は「『復帰しませんか?』と電話をしたら多くの方が『ちょうど辞めようと思ってたけど、電話をもらったから再開してみようかな』『辞めようと思っていたけど、もう少し考えます』などと言ってくれた」と、電話アプローチに一定の効果があったと教えてくれました。
やはり会員様と接点を取り続け、施設に通う優先度を下げないようにすることが重要なようです。
そのほか、DX化により感覚ではなくきちんとしたデータに基づきサービスを改善していくことや、運用体制を見直すことの大切さも話題に挙がりました。特に後者においてはどの施設でもすぐに取り組めるのではないでしょうか。もはや現状には合っていないにも関わらず、長年の習慣で「なんとなく」続けていることはありませんか? 今一度、見直してみると課題だった部分が一転して、施設をさらなる成長へと促すドライバーになるかもしれません。