ドラマ「きのう何食べた?」を見てカルボナーラを作った午後

 よしながふみさん原作の漫画「きのう何食べた?」は、2019年に西島秀俊さん、内野聖陽さんのダブル主演でドラマ化され、その後2021年に映画化、そして今秋、シーズン2が放送されている人気作品です。

 西島さん演じる筧史朗(かけいしろう)と、内野さん演じる矢吹賢二(やぶきけんじ)のゲイカップル二人のなんて事のない平凡な暮らしを描く本作。
 深夜の放送帯には飯テロとも呼べるような、料理をする際の細やかな描写が大きな魅力になっている、心温まる優しいドラマとなっています。

 私はシーズン1の放送から映画も見て、シーズン2を心待ちにしていたファンの一人です。

 とはいえ、放送時間が深夜のため、どうしても録画を溜めておいて後で見るということになってしまい、この週末は4話から6話を一気見していました。

 このドラマを観ていると、不思議と料理をしたくなってしまう。

 普段は、きつい、しんどいと思いながらやっている家事のひとつに過ぎないのに、「きのう何食べた?」を見ると、急に丁寧な気持ちで料理に向き合える。

 今回は、作中のカルボナーラが美味しそうで、うどんで済まそうと思っていた昼ご飯を急遽カルボナーラに変更。
 生クリーム無かったので牛乳で、ベーコンも無かったのでウィンナーで、ワンパンパスタで簡単にだけど作って家族で食べました。少し卵が固まったけど美味しかった。

 コンビニで買ってくれば、包丁もフライパンも汚さずに済む。外食に行けばもっと美味しいのは分かっている。でも自炊の良さって、安く済むだけじゃないものがありますよね。

 初めて一人暮らしをした18歳の時から今まで、振り返ると私の人生、九割が自炊です。
 お酒も飲まないし、友人関係も狭いし、あんまり余裕のある暮らしはしてこなかったので、四十前なのに高級レストランとか回らないお寿司とか行ったことない。
 それはちょっと経験不足でしょうか。笑われちゃいますかね。

 でも、その時々の食材をストックしておいて、冷蔵庫にあるものから何を作るか考える。適当に買っておいた食材の組み合わせから、レギュラー入りするようなメニューが生まれる喜びとか、子どもが毎日台所に来て、「今日のごはんは何?」と聞いてくれる嬉しさとか、他では得られない楽しさや喜びがあります。

 私は、このドラマの主人公・シロさんこと筧史朗に似ていて、毎月の食費を計算しながら、日々スーパーでお財布と格闘している主婦の一人なので、お魚ひとつ買うのに頭を抱えて悩むシロさんの気持ちに深く共感しながら観ています。

 「きのう何食べた?」は、ゲイとして生きることの悲哀を描いてもいますが、平凡な日常の中にある小さな幸せに気付かせてくれる優しいストーリーがじんわりと心を温めてくれます。

 今回は、第5話で洗濯機の排水溝を詰まらせて水を溢れさせてしまうところだったシロさんのために、ケンジは排水ホースを買ってきます。
 何かあったら今度はそれを使ったらいいよと、さも当たり前のように言うのですが、昔同じことをして元カレに怒られたことのあるシロさんにとって、それはとても嬉しいことでした。
 そして、シロさんが親子丼を作ろうとしていたのに玉ねぎが足りないことに気づき、自分が使ってしまったからと言って、ささっと買いに行ってくれるケンジ。

 そんなシロさんを思いやるケンジの行動に、シロさんは思わず「そっか、俺、今幸せなんだ」と涙ぐみます。

 カルボナーラを食べながら観ていた私も、つい涙がこぼれました。

 元カレと比べてケンジは優しいとか、元カレよりシロさんを想っているとか、そういうことじゃなくて、シロさんは本当に出会うべき人と出会い、暮らしているんだなと、それってものすごい奇跡で、本当の幸せだよなと思ったのです。

 人がどういうことで、どれくらい傷ついちゃうかって、それはその本人にしか分からないことだと、奇しくもケンジが第四話で口にしていましたが、ケンジはシロさんがどういうことで、どれくらい傷ついちゃうかちゃんと分かっている。

 一緒に暮らす人が、気持ちよくその日を過ごせるように、その人のことを想って行動する。

 出来そうで出来ない、ついおざなりにしてしまうようなことが、かけがえのない幸せにつながる。

 そういう日々の大切なことに毎回気付かせてくれるこのドラマ。
 見終わった後には、変わり映えしない平凡な日々の暮らしさえ、かけがえのない幸せなんだと思えます。

 シーズン2も残り半分。シロさんとケンジの暮らしを見守りながら、日々の暮らしに感謝する温かな気持ちで過ごせる冬を迎えられそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?