「ハチマキと砂時計」⑥17歳の引退試合

陸上部の引退試合は、6月のT校戦。
絶対に見に行こうと決めていた。

そんなことができる立場ではない。
わかっていたけど、
どう思われてもいいから
最後の佐野くんの走る姿を見たかった。

それは、高校に入学してすぐに
佐野くんを好きになって
頑張って!一番になって!
という思いで応援してきた私の
勝手な使命感だった。

「今日もハチマキしてたよ」
と教えてくれていた子は、佐野くんのことが
好きだった。
他にも何人か、佐野くんを好きな子はいた。

だから、私が行ったらヒンシュクを買う。
多分、あの子もあの子も、、

なんであなたが今更来るの?

でも私は行かなければならない。

T高校へ行くと、グランドの端っこに
佐野くんがいた
気づかれたいような
気づかれたくないような
微妙な気持ち。

でも佐野くんの本番は、
グイって前に出た気がする 

なぜ次が本番かってわかるかって、
ハチマキを締めるから

さっとバックから取り出して
ぎゅっと締める。

私の作ったハチマキ。。
イニシャルが違えてごめんね。
1年の時、下の名前の読み方がわからなくて
もう、これかな!と勝手に決めて
刺繍しちゃった。
作り直す!と言ったけど
「これでいい」と頑固に言われて。

その間違った名前のハチマキを
本当に3年間、大事な試合でつけてくれたんだね。


佐野くんが走る。
一歩を大きく踏み込んで、
最後に足が大地から離れた瞬間
本当に空に飛んで行きそうなくらい
高く飛ぶ

あ!!
砂場に着地した瞬間
佐野くんが動かなくなって、
周りの人が集まってきた

どうしたの?

着地の時にぶつけたのか
佐野くんは鼻を抑えながら、立ち上がった

笑ってる。大丈夫みたい。よかった。

きっと満足いく結果だったと思う

よかったね。お疲れ様。
私は自分の役目を終えたような気分で
そのままうちに帰った。

最後に見れてよかった、本当に。

夕方、
佐野くんから電話があった。
私がいたこと、やっぱりわかってたんだな。

「怪我してたみたい。大丈夫だった?」

「鼻血でちゃっただけ。最後なのにかっこ悪かったな。」

「ハチマキしてくれてありがとう」

「見に来てくれてありがとう。あのハチマキ締めると気合が入るんだよ」

私たちは17歳だった。
こんなに小さい私たちが、
こんなに相手を思いやれるのに
どうしてもっと一緒にいられなかったの?

当時の私たちが大人びていたんだろうか。
今の私たちが子供っぽいんだろうか。

神様は、一生のうちで
私たちが一緒にいられる時間を
若いころの一時だけでなく
分割して少しずつ、少しずつ、、
与えてくれているみたいだ  

だからきっと私たちの時間はもっとある 
生きてゆく限り。

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