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「馬よ花野に眠るべし」

作家の水上勉さんが応召され、輜重隊に所属した時の体験をもとに書かれた小説です。

私が所蔵する初版本の帯には「まるで馬と夫婦になり、果てはそいつと心中までしたような、元輜重兵善六の哀しくも心温まる馬男ケッサク人生双六!」と書かれてありますが、内容はそんなコミカルなものではなく、

「馬とは何か」

「馬と生活するとはどういうことか」

「馬と人生を共にするとはどういうことが」

が書かれている、とても美しく、切ない物語です。

「天皇陛下より賜りし軍馬」が、終戦を迎え、馬搬、馬耕、御神馬、時代劇出演、そして馬車馬と役割を変える姿は、戦後日本の「馬」の役割をも物語っています。

馬が好きな方、これから馬を飼おうと思っている方、馬と共に暮らしたい方、すべての人に読んで欲しい小説です。


「どうせ、向こうが闇の世を生きるのやったら、今日まで仲良かった馬と一緒に、明日から暮らしたかて、かめへんやないか、わしは、この馬が好きなんや」

「善六は、音をたてないように近づいて、戸の隙間から漏れてくる月明かりに、栗毛の肌が寝息と共に濡れたように輝くのを見ていた。畜生ではありながら、人間よりも無心に、自分の気持ちを安めてくれる、もう一つの生きものがそこで眠っている。善六は、頬を引く涙を拭きもやらず、敷島のわきへ来て、横になった」

私は、この二つの文を読むたびに目頭が熱くなるのです。

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