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【天元突破グレンラガン】グレンラガン対キルラキル展を100%楽しみたかっただけなのに【感想文】

「天元突破グレンラガン対キルラキル展」行きてぇ~~!!!

『キルラキル』は人生でベストテンに入る大好きアニメだけど『グレンラガン』知らねぇ~~~~~!!!!

観るかッッッ!!!!

というわけで『天元突破グレンラガン』を観ました。原画展がなければおそらく観る機会はなかったでしょう。

というのも、こんなネタバレを踏んでいたんです。

  • 青い髪の主人公が死ぬ

  • 弟分っぽいショタが「兄貴は死んだ!もういない!」と叫ぶ名シーンがある

要するに「終盤のネタバレ知っちゃってるからなー」と食指が動かなかったんですね。

それでも、キルラキルの原画が観られる展示会を100%楽しみたい想いから1週間ほどで本編と劇場版2部作を完走し、この感想文を書いています。今回は心に残ったキャラを何人かピックアップする形式で語っていきましょう。

ではどうぞ。


カミナ~死ぬのは知っていたのに~

「死ぬのは知ってた」がこんなに無意味なネタバレなことある?

私が“青い髪の主人公”と認識していたのはカミナです。兄貴と呼ばれているっぽいので男気あふれる活躍で仲間も視聴者もグイグイ引っ張り最終回直前で驚愕の死を遂げるそういうキャラだと思っていました。そもそも主人公じゃないし死ぬのは全27話中第8話って何?

『天元突破グレンラガン』公式サイトより

とはいえ、第8話まではカミナが事実上の主人公です。

シモンを率いて地上に飛びだし、広い世界を旅しながら人類を襲う獣人と戦うカミナは、まさに王道冒険活劇の主人公。勢いで全部なんとかしてしまう不思議なカリスマ性は多くの人を惹きつけ、大グレン団なる巨大なレジスタンスを結成するほどです。暗い地下で天井を破ろうと躍起になっていたカミナ自身が、太陽のように輝いていました。

彼の死は早すぎるタイミングにも驚きましたが、それ以上に「この男が地上を旅する物語をもっと見ていたい」という無意識の期待を裏切られたのがもっとショックです。今でもそう思っています。

シモンにヨーコ、大グレン団、そして視聴者とたくさんの期待を背負っていたカミナですが、その内面は悩み多く自信少ない青年でした。第3話でガイコツを目撃して死の恐怖に駆られたシーンはすごく印象に残っています。「え、お前命知らずじゃなくてそういう普通な感性あるの!?」みたいな。あるの、どころじゃなくずーっと普通な感性してると知ったのはもっと後でした。

カミナ「背ぇ抜かれちまったな」

第26話より

多元宇宙で成長したシモンとカミナが再会した時に思ったんですよね。「あ、こんなに小さかったんだ」って。あんなに大きかったカミナは本当は背丈も心も普通の青年だった。ただ「シモンの背中に笑われない男になろう」と意地を張っていたんです。

穴倉に閉じ込められた一件からシモンのすごさを知ったカミナ。彼の最期の言葉が「あばよ、ダチ公」なのも、カミナはシモンを弟分ではなく対等な友と見ていた証です。彼は太陽ではなく、シモンの光を反射して輝く惑星だったんですね。

意地だけであんなに怖がっていた死の淵から立ち上がり、ダチ公とともに最後の戦いに挑む。等身大は小さくとも、主人公ではなかったけど、主人公のように大きく眩しい。それがカミナという男なのだと思います。

死ぬとわかっていた男にこうも考えさせられるとは……『グレンラガン』の熱量を感じずにはいられません。

「天元突破グレンラガン対キルラキル展」キービジュアル

ところでなんだその展示会のポスターで流子と背中合わせに「オレがグレンラガンの主人公だぜ!!!」みてぇなツラは。

シモンとニア(7年前)~「アニキは死んだ!」は知っていたのに~

「アニキは死んだ! もういない!」
「だけど俺の背中に、この胸に! ひとつになって生き続ける!」

第11話より

事前に知っていたもうひとつのネタバレ「アニキは死んだ! もういない!」。観る前はこんな予想をしていました。

青髪の主人公が最終回直前に死ぬ
     ↓
弟分の脇役が最終回で覚醒する
     ↓
「アニキは死んだ! もういない!」
     ↓
そして最終決戦へ……

割と本編と似てますね。全27話の11話目でこの展開が来たことを除けば。半分ですらないってどういうこと?

しかし「アニキは死んだ!」の熱さは全体の半分程度で描かれるシーンとは思えないほどでした。第9話から第11話前半までシモンがずーっと腐ってた分、開放感がすばらしかったです。わかっている展開も前置きが丁寧なら盛り上がれますねちょっと丁寧すぎて心がだいぶ削られたけど。

さて、「アニキは死んだ!」を掘り下げる上で外せないのが7年前シモンとニアの関係です。

『天元突破グレンラガン』公式サイトより
『天元突破グレンラガン』公式サイトより

第8話でカミナを失ったシモンは失意の中、雨の降りしきる谷底で謎のお姫様・ニアと出会います。それまでシモンの心情を表すかのような灰色だった画面が、ニアの登場とともに色彩を帯びていく演出だいすき。なんぼなんでも宗教画。

世界の中心を失った少年と世界を何も知らない少女の出会いに私のボーイミーツガールセンサーがギュンギュン鳴り響きました。失意の主人公を励ますのはヒロインの見せ場! なにを見せてくれるんだニア姫様とやら!

お前ら結婚してください。

カミナを失ったシモンは自暴自棄になり、ふさぎこみます。カミナはシモンがいたからこそ輝けたのですが、シモンはカミナの導きがなければどこに行けばいいかもわからない。お互いが太陽でお互いが月。そういうダチ公です。

カミナが大きすぎるからこそ彼以外の誰も気づけなかったシモンのすごさに気づき、カミナを知らないからこそまっすぐ見てくれた存在がニアです。ニアが何度も「あなたはあなた」とシモンに言葉をかけ続け、彼の心の壁をノックしてくれたおかげで「アニキは死んだ!」により強い説得力が出たのではないでしょうか。

ニアが決して都合のいい女神ではなく、ロージェノムに捨てられて自分が不明瞭になった女の子なのがまたいい。カミナを失って「アニキのようになれない」と俯いていたシモンと似ています。

大事な人との別れをきっかけに「自分は何者なんだろう?」とアイデンティティに迷った少年少女が答えを見つける。カップルの始まりなんてそれぐらいがちょうどいいんですよ。

いや本当にお似合いだよ……あと第10話でニアのピンチに大グレン団がガンメンで駆けつける中先頭が生身のシモンだったの最高すぎる……。

シモンニアお願いだから結婚してほしい。今でもそう思っています。

ヴィラル~声が猿投山渦と同じだからかっこよくなりそうとは予想できたのに~

私『キルラキル』で3番目に好きなのが猿投山渦(CV:檜山修之さん)なんですよ。こんにゃく屋さんのせがれの猿投山。本人至ってまじめなのにどこか抜けた感じになっちゃうけど決める時は最高にかっこいい猿投山。

『天元突破グレンラガン』公式サイトより

なのでヴィラルが初登場した時はびっくりしました。奥義開眼の男と同じ声の奴いるやんけ! その後もカミナとの決着にこだわる熱い一面を見せちゃったりして、もしかしてヴィラルはかっこよくなるのではないか? と薄々考えたあたりで7年後に、

そこまでカッコよくなるとは思ってねぇよ!? カミナの席に座るほどの男だったとは考えてなかったよ!!

21話ラストの宿命合体口上、何度も見返しました。シモンの「あれをやるぞ」だけですべてを察して合わせるヴィラルのベスト戦友っぷり。即席なのにあの口上の完成度、さすがグレンラガン誕生を見届けた初めての敵なだけありますね。

なにより嬉しかったのが、グレンの正パイロットが決まったことでした。

カミナが死んでからキタン→ロシウ→ヨーコ→ロシウ→(7年後)キノンとパイロットがしょっちゅう変わってましたし、グレンに乗る強い動機があったわけではありません。話の都合でカミナの席がおざなりに消費されているように思えて、どうにもモヤモヤしていました。

そこにカミナのライバルだったヴィラルがカミナの後継になった瞬間の気持ちよさときたら。ロージェノムから「人間の運命を見届けろ」と告げられたヴィラルが当事者ど真ん中たるグレンラガンに乗るのも運命への反逆を感じます。

これが(CV:檜山修之さん)の男の潜在能力。ヴィラルのカッコよさを存分に堪能させていただき、

ヴィラル「甘い夢を見たものだな」

第26話より

そんな切ない奴になるなんて思ってねぇよ。

アンチスパイラルの策略によって多元宇宙に囚われたヴィラルが過ごしたのは、広大な草原の中で妻と子に囲まれる、戦いとは無縁の世界でした。子どもに花冠をもらったパパラルの穏やかな顔つきときたら「お前、そんな顔できたのか……」ですし、夢の終わりに気づいて戦いの螺旋に戻る瞬間の凶悪顔には「お前、いつもの顔の裏にこんな夢を隠していたのか……」ですよ。1分足らずでやっていい掘り下げじゃないよ。

不老不死の体を授けられた獣人は、自分と同じ時間を歩む伴侶も自分の遺伝子を継ぐ子も絶対に得られません。ゆえに甘い夢なんですけど、戦いと矜持にすべてを費やしてきたヴィラルがあの風景を甘いと感じること自体が哀しい。しかも最終回でみんな老けてるのにこの人だけ20年前のまま前線で働いてますしね。いずれは友すら失うんですよこの人。なんなの。

幸せになれとは言えないけど、せめて幸せを目指して生きてほしい。そんな気持ちで今はいっぱいです。

ところでこれは余談ですが、多元宇宙って幻ではなく実在する並行世界ですよね。となると、ヴィラルを見送ったあの奥さんとお子さんは二度と帰ってこないお父さんを待ち続けるのでしょうか。

ロシウ~「こいつなんとなくグレンに乗ってるな」ぐらいにしか思ってなかったのに~

「グレンのパイロットはコロコロ変わるし強い動機も感じられなかった」言いましたけど、私にとってその最たる存在がロシウでした。

彼が登場した第5話は『グレンラガン』の重い部分を示す先駆け的エピソードでしたが、その後は特に目立つこともなく、なんとなくグレンに乗ってる奴、ぐらいの印象でした。実際キタンがパイロットから降りた代理で乗っていたらタイミングよくシモンが立ち直ったのでそのまま継続していたわけですし。

『天元突破グレンラガン』公式サイトより

そんなロシウが急に味を出してきたのは第3部、7年後の世界が始まってからです。

螺旋王の支配に風穴を開けた人類は、7年で月に行くまで文明を取り戻します。首都もそれに応じて高層ビルが立ち並ぶ立派な大都市に生まれ変わった一方、早すぎる発展に中身の社会が追いついきません。レジスタンス上がりの大グレン団は政治に向いてなく、頼りのシモンもデスクワークでは似たようなもんでした。

そんな中、若干17歳にして事実上の行政トップになったのがロシウです。17歳!? 書いててびっくりしたわ。発展が早いのも考え物ですね。

第3部ではアンチスパイラルの脅威と100万の人類の板挟みにあいながら、シモンを捕まえるなど非情な行動を選びつづけたロシウ。特にシモンの裁判で「市民を納得させるためには死刑にするしかない」と彼が言いだしたのは象徴的です。

国民感情のために司法を利用せざるをえない未成熟すぎる社会や、まじめなロシウがこんな滅茶苦茶を通すしかない状況のひどさはよく覚えています。このあたりは本当に息苦しかった。

「人類をなるべく多く生かす」目的のために奮闘するロシウですが、落ちてくる月は彼には重すぎました。シモンとも大グレン団とも決別し、最善を選び続けた結果、彼が残せた成果はアークグレンに搭乗した17万6千人。全人類100万人から多くを救おうとしたのに犠牲の方がはるかに多い。

スケールは違えど、彼が「人類が住める場所を作りたい」と夢見て出ていった村とまったく同じ。あべこべです。

そうして残した17万6千人すら宇宙空間で待ち伏せていたムガンに攻撃される中、ロシウはこう呟きます。

ロシウ「これが僕の限界なのか……!」

第21話より

人類の限界、ではなく、僕の限界と漏らしたんですねロシウは。自分なりのやり方で人類を救おうとしたけどそれではだめだった、という悔恨が滲んでいるように聞こえました。

これは想像なんですけど、すべての壁をドリルで突き破るシモンのやり方を特等席で見ていたから「自分にこのやり方は向かない」「なら自分はこうしよう」という気持ちがロシウに芽生えて、大グレン団にはできない彼のオリジナル(政治)が生まれた気がします。

シモンがあれだけ悩んで迷ってようやくたどり着いた「俺は俺だ、穴掘りシモンだ」に自力でたどり着いちゃったわけです。聡明。

ロシウはグレンに乗っていたおかげでシモンの背中を通して自分を見つけられたんじゃないか、と今は思います。そのやり方は7年後では人類滅亡一歩手前の大失敗だったんですが、さらに20年後には螺旋の空に散らばる星と話し合いができるまでに至りました。

長い目で見ればロシウのやり方は間違いではなかったのです。墓穴掘っても掘り抜けて突き抜けたなら俺の勝ち、ですね。

シモン(7年後)~宇宙を救った男なのに~

シモンの話はさっきしましたけど7年後のシモンの話もしたいのでします。

『天元突破グレンラガン』公式サイトより

「アニキは死んだ!」は『グレンラガン』知らない人も知ってる看板シーンではありますが、個人的には7年後のシモンの方がよっぽど語りたいことが多いんです。こっちのネタバレに一切触れず生きてこられてよかった。

第3部「穴なんか掘らなければよかったのに」

『グレンラガン』の第1部(カミナの死まで)と第2部(螺旋王撃破まで)はシモンが壁を突き破る物語です。

シモン「お前が壁となって俺の前に立ち塞がるなら! いつだって風穴空けて突き破る! それが俺のドリルだ!」

第15話より

このロージェノムへの啖呵がそのまんまですね。心のドリルさえあればつまらない村も大切な人の死も人類を抑圧する支配者も超えていけるのです。

しかし、その先の第3部(月落とし阻止まで)では「お前は本当に壁を破るべきだったのか?」という問いがシモンを執拗に襲います。障害を壊し続けてたどり着いた場所は本当に理想郷だったのか、と。

それは螺旋力に端を発するアンチスパイラルだけでなく、急速に発展した社会もそうです。

総司令として立場ある人間になったシモンは、さまざまなしがらみの中で生きていきます。『螺巌篇』では記念式典よりアニキの像造りで笑顔を見せているぐらいですから、英雄の座はよっぽど窮屈だったのでしょう。

ですが、シモンはそれらの壁を今まで通り破れません。アニキの死や螺旋王の支配はわかりやすく超えるべき壁ですが、100万人を生かす秩序は壊すべきではないからです。

愛するニアを助けるため、市民を守るため、そんな動機ですらグレンラガンは容易に使えず、出撃すればむしろ罵倒される始末。ロシウが「グレンラガンは力の象徴なのだから出撃したら市民が不安がる」と言ってきた時はあまりにもやるせなかった。なんでもドリルでぶち破ってきたグレンラガンがなぜこんなに縛られてしまうのか。

結局シモンはアンチスパイラルの人類殲滅システムに対し、ロシウに委ねて自分は刑務所に入ることを受け入れます。最終的にはヨーコやヴィラルたちのおかげでシモンはアンチスパイラルと戦う決意を固めるのですが、その直前のあるセリフが心に残っています。

シモン「やったな、ロシウ」

第21話より

自分を切り捨てたアークグレンを静かに見送り、四方を壁に囲まれた刑務所で終わりを受け入れようとしたシモン。ロシウが見つけた彼のやり方を尊重したからこその姿ですが、見ている方は気が気じゃなかったです。

第2部までは穴を掘るすばらしさを熱く語り、第3部でその罪をこれでもかと見せつける。今思うと感想文を書くほど『グレンラガン』にのめりこんだのは第3部からかもしれません。

それはそれとしてあの窒息しそうな息苦しさは勘弁してほしい。精神的な生き埋めだよ。

第26話の「行くぜダチ公」で泣きそうだったけど最終話までとっておこうと我慢したのに

本作の最終話は大グレン団とアンチスパイラルの戦いが決着する第27話ですが、シモン個人の物語に焦点を当てるのであれば、最終話はその手前の第26話ではないか? というのが私の感想です。

「その背中を追いかけて ここまで来たんだ』

『空色デイズ』より

シモンを主人公とする『グレンラガン』は、カミナに引っ張られるように地上に出る第1話から始まりました。その後もシモンは何度もカミナに影響を受けて成長と挫折をくり返し、7年後の裁判所でも「アニキならどうする」と考えます。「俺は俺だ」と気づいても、世界を救っても、シモンの根っこはカミナを追いかける弟分だったわけです。

多元宇宙で偽物のカミナをぶん殴り、「だぜ」口調でカミナと語りあえた第26話は、シモンにとってアニキからの卒業式でした。

カミナを追いかけ続ける目標ではなく、タメ口で言葉を交わせる相手と見られるようになった。人類を救って、宇宙の果てまで来て、永い旅を経て、ようやくその背中に追いついた瞬間です。

先ほどもちょっと言及しましたが「背ぇ抜かれちまったな」「ほんとだ」のやりとりが本当にいいですよね。死んだ兄より年上になってあんなに大きいと感じていた身長をいつの間にか追い抜いていた弟なんてわんこそば感覚で食べられますよ。

シモン「行くぜ、ダチ公」

第26話より

そして極めつけの「あばよ、ダチ公」に返す「行くぜ、ダチ公」。最初からシモンを対等なダチ公と見ていたカミナの友情に、ようやくシモンが追いつきます。カミナに引っ張られて始まったシモンの物語は、彼が真の自立を示すことで美しく幕を閉じたのではないでしょうか。

このシモンとカミナのやりとりは初見で「まだ泣くな! まだ泣くな!」みたいな気持ちでぐっと堪えた覚えがあります。まぁ直後の「甘い夢をみたものだ」で涙腺が異次元の角度で抉られたんですが。なんだこの二段構え。理想のコンビパイロットだね♡

宇宙を救った男だぞ



今さっき「シモンの物語は綺麗に終わってる」言いましたね。

でも物語が終わろうと人生は続くんですよ。

その人生がこれか?

天を創るドリルを持つ男のその後がこれか???

世界を救って宇宙を救って未来への風穴を開けた男への報酬が愛する人との一瞬の結婚式だけなのかっつってんだよ!!!!


失礼しました。

でも、たぶんしょうがないんですよね。ギミーがあの場で言ったように、螺旋力を使えばニアを蘇らせることはできるのかもしれません。でもそれをやってしまえば、

「じゃあキタンは?」「じゃあ大グレン団のみんなは?」「じゃあロージェノムは?」「じゃあカミナは?」

ここまで話が広がるでしょう。

死んだ人がいつまでも残っていたら穴は埋まり、次の人の邪魔になるとシモンも言っています。なにより宇宙を崩壊させるスパイラルネメシスに繋がるのならば、アンチスパイラルとの最後の約束も無に帰してしまう。

だから最初のひとりを蘇らせてはいけない。それが助けるために宇宙まで飛びだした女性でもです。

さらにシモンは英雄としての名誉をすべて捨て、名無しの穴掘りとして世界を放浪する道を選びます。自分が政府に向いていないと身に染みたのもあるでしょうし、彼の強すぎる螺旋力は二度と表舞台に出すべきではありません。未来は後世に託して退場するこの選択も、理屈で考えれば当然です。

ニアを止めず、自分は無名として生涯を全うする。シモンは正しいことをしました。

正しいのだから何も悲しむことはないのです。

正しいのだから。

だからってこれはなぁ!!!!!

本当に久々だったんですよ男女カップルで結婚してほしいって思うぐらい好きになったの! アニキの後ろで隠れていたシモンと彼自身を見てくれたニアの関係性にハマった!

メシマズ料理をぺろりとたいらげる相性の良さも大好きだし後期OPでニアの薬指に指輪着いてるカットが本当にうれしかった!

ニアが悪堕ちしても「シモンならなんとかしてハッピーエンドだろうからドーンと構えておくか……」とか侮ってた!  本人たちが納得してるならと呑み込むべきなのはわかってますけど!

結婚してほしかった。

シモンとニアに幸せになってほしかったんだよ……私は……。

『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』パッケージ(画像はAmazonより

穴掘り「花だ」

『天元突破グレンラガン 螺巌篇』より

せめてあなたの幸せを祈ります。

『天元突破グレンラガン』~ノリと熱さと勢いがすべてのアニメと思っていたのに~

ここまでキャラを中心に語ってきました。最後は『グレンラガン』そのものへの所感を語ります。

「グレンラガンはノリと熱さと勢いで全部ぶっとばすアニメである」

最初に挙げたネタバレとは関係なく、私がなんとなく抱いていた『グレンラガン』へのイメージです。小難しい話や悲しいドラマもあるけど、なんだかわけのわからないパワーで全部乗り越えるぜ! みたいな。

見終わった今も全部外れているとは考えていません。螺旋力の源が感情であるように、この作品にはノリの偉大さ、言葉にならない熱さ、逆境を突破する勢い、すべてが詰まっています。感情の力強さをうたうアニメです。

ですが、感情と同じぐらい、それを制御する“理性”も大事だと説いています。螺旋王をノリと勢いで倒したら巨大な壁にぶつかりました。ニアを蘇らせる選択を拒みました。すべてを感情の赴くままに振る舞う態度はスパイラルネメシスを招く禁忌だと作中で明言しています。

強い感情がきらめく熱血展開があるからこそ「それだけではいけない」と自制する理性が際立ち、するどい光を放つ。最後にシモンは“感情”と“理性”の狭間で後者を選びました。それはまぎれもない“理性”の肯定といえます。

人間の可能性や想いの強さを言祝ぐ人間賛歌はいくつか見てきましたが、逆に可能性の暴走を理性によって抑えたのが『グレンラガン』です。心のドリルの使い道をコントロールする力が人間にはある。シモンとニアの別れに情緒を破壊されても吞み込み名無しの幸せを祈る力が人間にはある。これも賛歌のかたちかもしれません。

最後に


『涙の種、笑顔の花』を無限リピートしながら書いてきました。いかがだったでしょうか。

長々と語ったので終わりはコンパクトにしましょう。『天元突破グレンラガン』とても面白かった。出会えてよかったです。

でも「原画展やるから」程度の覚悟で観るのはやめた方がいいと思いました。来世では正座しながらリアタイで観ます。

では今回はこのへんで。私は「天元突破グレンラガン対キルラキル展」観に行く予定を組みます。あばよ。


※本文で引用しているポスト含む当時の感想はこちらにまとめています。


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