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【ポケモン バイオレット】ポケモンがこんな面白いことやってくれるんですか!?【感想文】

『ポケットモンスター バイオレット』本編をクリアしました。


「こんなことやらなくても面白いポケモンがこんな面白いことやってくれるんですか!?!?!?」

というわけで『ポケモン バイオレット』感想文です。よろしくお願いします。


宝探しという名の遭難不意打ちパラダイスオープンワールド~僕は失敗してもいいんだ!~

「こんな面白いことやっていいのか!?」などと書き出しといてなんですが、このゲーム最初の頃はかなり苦労しながら遊んでました。

「どこ行ってもいいよ」「攻略順も決まってないよ」「キミだけの冒険に旅立とう!」的なオープンワールドRPGは何度か経験ありますけど『ポケモンバイオレット』はまーーーーーー迷って迷って目の前まっくらの連続です。

ポケモンリーグに迷いこんで謎のおっさんにぶっ飛ばされ、

ポケモンセンターで「次のおすすめはロースト砂漠に潜むヌシ退治です!」言われるまま突撃したらクソデカテツノワダチに6タテされ、

財布を忘れてゆかいなハイダイさん追いかけたらフローゼルのすばやさ115からくり出す先制連打で今日はいい天気にしてくれやがったカラフジムトレーナーあいつなんなんだマジで!!!!!

よく考えたら「このレベルではこのクエストは受注できません」と教えてくれるゲームしかやってなかったので、本当にどこにでも行ける『ポケモン バイオレット』はトラブルの連続でした。この美しくも残酷な世界だぜ。

でも、そういう失敗をくり返すにつれてこれも旅のだいご味だと徐々に受け入れるようになり、いつの間にか楽しくなっていました。

失敗の思い出はいろいろあるんですけど、とくに印象深いのがベイクタウンに行くために四苦八苦したこと。地図を見ると四方が山と海に囲まれていて、道があるようには思えません。

「どう行けばいいんだ?」頭を悩ませながら、北から向かったり東から入ろうとしたり。トライアンドエラーのなかで滝が流れる山道を見つけて、

私「この山を登れば超えられるんじゃないか!? ミライドンで滝登りとかあるんじゃないか!?」
親切なNPC「この先は崖を登れるポケモンがいないと無理だよ」

答えは北側から入れる洞窟を抜けることでした。だいたい1時間ぐらいうろつきましたが、ほぼ徒労に終わったわけです。

でも、その徒労がやけに面白かったんですよね。「あ、ポケモンと冒険するってこういう体験の連続なんだ」と心で理解したというか『ポケモンSV』は失敗してもいい、失敗を楽しめるゲームだと呑みこめたんです。

本編をクリアしたいま振り返ると、それぞれのルートでメインを飾る3人+1匹も順風満帆とはいえないところから旅立っています。(うち1人は順風満帆すぎたとも表現できますが)

そんな彼らとともに旅立った主人公(プレイヤー)も数えきれない失敗をくり返す……そう考えると、うまくいかなかった数々のトラブルがとても愛おしく思えてきます。

でも不意打ちしてきた人たちはまだ根に持ってるよ。

俺は授業受けにきただけだぞ校長とおせんぼやめろや!テラスタルすんなや!ああああそのマスカーニャはあの日すげぇ悩んで結局選ばなかったニャオハのやつうううううう!!!!!!(目の前まっくら)

ネモ~ライバルってなんだろう~

※ネモ視点のweb小説未読です。この記事書き終わったら読みます

本作には3つのルートが存在し、それぞれに主人公と絆を結ぶメインキャラがいます。みんないいキャラしていますが、私に深く刺さったのはチャンピオンロードのネモでした。歴代「ポケモン」でいうなら何度も主人公と戦うライバルキャラにあたります。

「ポケモン」シリーズにおいてライバルは、当たり前にいる存在として描かれてきました。初代の赤緑からしてオーキド博士が冒頭でグリーンを「こいつがきみのライバル!」と言いますし、その後の作品でも一緒に旅立つ仲良しの友達をライバル呼びしますよね。

だけどネモはそういう当たり前にいてくれるライバルではなく「ライバルってそんな簡単なものじゃなくない?」とあえて疑問を投げているキャラに思えます。

ライバルは「競いあえる相手」「対等な存在」といった意味を持ちますが、それらはネモにとっては求めても求めても手に入らない存在でした。

パルデア最年少チャンピオンランクの記録保持者で、トップチャンピオンのオモダカにも本気を出さないまま倒してしまったネモ。対等なポケモントレーナーは彼女にとってもっとも縁遠い他人です。

誰もがが当たり前に経験する敗北の悔しさと楽しさを一切味わうことなく、ネモは頂点まで駆け上がりました。そこで飽きてしまえばまた話は違ったのでしょうけど、ネモはポケモンバトルが大好きなので諦めきれないわけです。
この世に2人といない天才なのに、自分を1人のポケモントレーナーとして見てくれる人、全力でぶつかれるライバルが欲しかった。

過去作の主人公には当然のように与えられていた隣人を心から欲するネモは「ポケモン」における"ライバル"とは何かを見つめ直すキャラに思えます。

チャンピオンロードはジムリーダーを倒していく傍らで、ネモがひとりで立っているてっぺんまでよじ登っていく旅でもあります。

SV発売当時、ネモのセリフ「どんどん実っていく!」が実質ヒソカ言われてバズってた記憶があるんですけど、単なるパロディなんかじゃなくてネモ本人にとってものすごく切実なセリフだったんですね。
自分と同じ場所に登ってきてくれる人がようやく現れたかもしれない、という期待と希望に満ちた言葉です。

チャンピオンロードの最終戦がちゃんとネモで安心しました。彼女の「わたしのライバルになってください!」宣言、まさにその言葉が聞きたかった! それにしても言い方がプロポーズですよね。この子にとってはそれぐらいの気持ちなのでしょう。

チャンピオンロードはいわば、ネモとライバルになるまでの物語です。そのためにジムバッジ8個集めてリーグチャンピオンにならなきゃいけないんですけど、でもライバルってこれぐらい貴重でもいいのかもしれません。

自分と同じ目線で競争してくれる友だちを作るのはとても大変で、かけがえのないものです。チャンピオンロードだけでまとめるなら、主人公とネモは互いの宝物といえるのではないでしょうか。

これは余談ですけど、最終戦でネモが負けた後に「じゃあもう1回ね! 次はどの子で戦おうかな?」って言うのすごい好きなんですよね。
間違いなく本気だっただろうけど、たぶん全力ではなかったんだろうなと。パルデア地方の天才ネモの格をまったく落とさない良いオチでした。でも2回目なんてあるわけねぇだろレベル60なんて最初の6匹しかいねぇって!

ペパーとボタン~このフレンズ、矢印がデカい~

ネモで長々と語ったのでペパーとボタンの話もしましょう。この2人は形こそ違えど友情について考えさせられたキャラです。

まずは「本当に主人公が必要だったのか?」と言いたくなる平均レベル60オーバー天才トレーナーことペパー。レジェンドルートが初めてのクリアルートだったからラストバトルがあんな難しいなんて知らんかった。返してくれ私の5200円。新しいバッグ買いたいんだよ!

ですが、ペパーの境遇は5200円程度では埋まらないほど悲惨なものです。相棒のマフィティフが大ケガを負うわ、遊んでもらった記憶すらない父親が自分の知らないところで死んでるわ、その父親がパルデア地方の生態系を乱す研究を進めていたわ、とにかくずっとかわいそう。
AIフトゥー博士の通信がおかしくなって「なんか…… 違えじゃん」言いだしたときの重さたるや。

不幸のスパイスフルコースみてぇな人生を送ってきたペパーだからか、スパイス探しのなかで友達になった主人公との距離感が近い印象があります。
マフィティフの一件でトラウマになっているエリアゼロにも主人公を手伝うためなら乗りこみますし、ネモやボタンとの雑談でも「こいつは俺の友達だ!」と強くアピールする一幕があったりします。

よく考えなくても、エンディング後にペパーが家に帰ってもおかえりを言ってくれる人間はいないんですよね。家族関係が希薄な分、友達への思い入れがどうしても強いのでしょうか。
ペパーが「俺たち友達だよな!」言うたびに「もちろんだよ!」と頷いて彼が嬉しそうにはにかむ顔を眺めたいだけの学園生活だった。

友情の重さでいうなら、ボタンも間違いなくヘビー級です。というかスター団の絆が強すぎる。

1度も会ったことのないボスの復帰を望んで退学上等かますメンバーに、彼らを思って犯罪行為のハッキングに手を染めるボタンの覚悟。友情のためなら人生だって投げ捨てようとする向こう見ずな姿は青春していました。

スターダストストリートではスター団メンバーの心情をとても丁寧に描いているのでわざわざここで話すこともないのですが、しいて言えば初登場でスター団のしたっぱに勧誘されたボタンの心境は気になります。

最初はいじめられっ子たちが団結していじめっ子と闘うためのスター団が、巡りめぐって力ずくの勧誘を行う不良集団になってしまった。
自分がボスとも知らずに「スター団に入ればお星さまのように輝ける!」なんて言ってくるしたっぱに対して、

ボタン「…………別に」

ボタン、どんなテンションの「別に」なんだそれは……。

ミライドン~伝説のポケモン is 普通のポケモン~

楽園防衛プログラムとの最終戦で"7匹目"のポケモンに気づいた瞬間、あなたは何を思いましたか? 私は「ポケモンでこんな面白いやつやっていいわけないじゃん!」でした。

それまでゲーム上は無意味だったUIが最後の最後に意味を持ってプレイヤーを直接ぶん殴ってくるインパクト。こんな粋なメタ演出を天下の任天堂が世界に誇る王者コンテンツでやっていいのかもう誰も勝てねぇじゃん負けました。

この瞬間までミライドンに抱いていたイメージは「アギャス」「サンドウィッチ大好き」「いぬ」「岩山の先端に登ると謎の空間にはさまって永遠に動けなくなるかよわいいきもの」「だけん」ぐらいで、要するに仕方ねぇなぁかわいいねこの旅のマスコットがよ♡と思っていたのですが、見事にすべてひっくり返りました。われ進行度99まで大人しくて優しいごく普通の一般ポケモンが最大最後のピンチに立ち上がるのだいすき!

そう、普通。ミライドンってすごい平凡なポケモンだと思うんですよね。

「ポケモン」シリーズは「金銀」以降、その作品を代表する伝説のポケモンがパッケージを彩ってきました。「BW」ではイッシュ地方の神話に登場するレシラムとゼクロムだったり「剣盾」だとガラルを人とともに救った英雄のザシアンとザマゼンタとか。

「パッケージを飾る伝説のポケモンはものすごく特別な伝説の存在なんだ」

そんな印象をずっと持っていたので、ミライドンの出自が「タイムマシンで現代にやってきただけのモトトカゲの未来の姿」という真実は衝撃でした。私もモトトカゲ愛用してるけどこの子はそこらへんの道路でゲットしたごく普通の愛し子だけど!? それと同じ種族!? 赤緑でブーバーとエレブーがパッケージ担当してるようなもんじゃない!?

楽園の守護竜こと2匹目のミライドンが現れたのも印象深いですね。伝説のポケモンが2匹もいて、しかもうちのミライドンはいじめられて大穴から逃げ出したと聞いたときは「あ、この子は本当にただのポケモンなんだ……」と受け入れた覚えがあります。

フトゥー博士の手でたまたま時を超えただけの、出自も種族も性格もなにかも平凡なミライドン。
そんな普通のポケモンが主人公と一緒に冒険していくなかで怖い相手に立ち向かう勇気を手にして、生態系の崩壊という世界の危機を食い止めたのが『ポケモン バイオレット』のラストバトルなんだと思います。

これまでは伝承や神話で「すでに伝説」と崇められていたのが伝説のポケモンでしたが、ミライドンは主人公との旅を通して伝説のポケモンへの一歩を踏みだしたのです。 これも「伝説」の新しい解釈なのでしょう。

ザ・ホームウェイ~4人のクソガキが線路を歩かなくても『スタンド・バイ・ミー』になれる~

4人のクソガキも線路もなしでこんなに『スタンド・バイ・ミー』してる画像あるか?

※『スタンド・バイ・ミー』がわからない人は「4人の男の子が死体を探しにひと夏の冒険をするものすげぇ下品で爽やかな青春映画」だけ覚えて帰ってください

ゲーム「ポケモン」の歴史は名作映画『スタンド・バイ・ミー』へのリスペクトの歴史というと過言ですが、そこそこ言ではあります。

たとえば「ポケモン 赤緑」で主人公の家のテレビを調べると「おとこのこが 4にん せんろのうえを あるいてる…」というメッセージが出るのですが、もちろん『スタンド・バイ・ミー』でもっとも有名なシーンのオマージュです。
さらに2020年9月に公開されたミュージックビデオ「GOTCHA!」の冒頭では線路の上を歩く4人の少年が登場します。少年たちのデザインは微妙に違うのに持ってる荷物はそのまんまなのがまたガチっぽい。

こういった目に見えるわかりやすいパロディを超えて「複数の子どもが自分たちだけでひと時の冒険をして家に帰る話」という『スタンド・バイ・ミー』のコンセプトをやりとげたのが『ポケモン バイオレット』です。おそらくスカーレットもそうなのでしょう。

私が遊んだことのある「ポケモン」って、エンディングを迎えたらスタッフロールが流れて、続きから始めると自分の部屋にいるんですよね。冒険が終わると家に帰りはするんですけど、道のりを完全に省略していたんです。

本作では最終ルートのタイトルが「ザ・ホームウェイ(帰り道)」になっていますし、エンディングムービーでは4人と1匹が帰路につく一幕が描かれるほど“帰る”行為を大切にしています。
『スタンド・バイ・ミー』でも4人の男の子が家に帰るシーンは余韻たっぷりに描かれていて、彼らの成長を実感できる作りになっています。「たった2日の旅だったが、なぜか町が違って見えた。小さく感じたんだ」は象徴的なモノローグです。

よく考えたら「冒険に出かける」と同じぐらい「冒険から家へ帰る」って大事ですよね。『ポケモン バイオレット』も『スタンド・バイ・ミー』もその一点をとても大切にしているように思えますし、だからこそ上の画像を見た私は「スタンド・バイ・ミーじゃん!!!」と感じとったのでしょう。

最後に~ポケモンがこんなに最善を尽くしてくれるんですか!?~

「ポケモン」はこれまで多くのものを積み重ね、さまざまなモチーフを取り上げてきました。
この感想文で見てきたものだと「冒険」とか「ライバル」とか「友情」とか「スタンド・バイ・ミー」そして「家に帰る」。全部「ポケモン」がその長い歴史のなかで大なり小なり描いてきたテーマです。

そして「ポケモン」に脈々と受け継がれてきた要素を徹底的に深掘りし、再解釈を盛りに盛ったのが私にとっての『ポケモン バイオレット』です。ライバルは得難いものですし、伝説のポケモンは言い伝えに登場する威厳あるポケモンじゃなくてもいいんですよ。

20年以上かけてじっくり育ててきたテーマを分解して新しい意味を与えるなんて今の「ポケモン」でしかできないですし、面白いに決まっています。むしろ「ポケモン」がここまで手の込んだ作劇をするってずるくないですか? こんなことしなくても絶対に面白いコンテンツなのに、ここまでやったらめちゃくちゃ面白くなっちゃうのは当たり前じゃん! 王様が最善を尽くしたら誰も勝てないんだよ!

なので、最後にこう言いたい。

「ポケモンがこんなに面白いことやってくれるんですか!?」と。

「冒険が終わってお家に帰ったのにDLC「ゼロの秘宝」ではいったい何をやるというのか、絶対にまた楽しめる奴じゃねぇか対戦よろしくお願いします!!!」と。

今回はこのへんで。ではまた。


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