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諦めなければ…という呪縛

前回の記事に書いたが、僕は引退試合を7連続KO負けからの勝利という形で締め括ることができた。


だが、我が事ながらそれを手放しで喜ぶ、また称賛してもらう、ということが本音の部分でしづらい点もあったので書いていこうと思う。


そもそも僕が引退することを決めた理由に“脳のダメージ”というものがある。


俗に言うパンチドランカーというもので
、有名な症状としては記憶力の低下だったり頭痛だったり…また性格が攻撃的になってしまったり人格が変わってしまうこともあると言う。

Wikipediaの記事


現時点での特段の自覚症状はない。記憶力は若干気になる部分もあるが、格闘技をやってない友人でもそのぐらいのうっかりはあるかな、ぐらいのレベルだ。


僕が怖いと思うのは脳にダメージを受けて数年してから症状が出ることも多いということ。


そして人格の変化というのは一番怖い。自分が自分でなくなってしまうということだから。


そういうことはKO負けをする度に頭によぎってはいたが、まだここでは辞められないという思いが勝っていたので続けてきた。


自分の中に格闘技にそういったリスクがあることは当たり前だという考えもあったし、自分は大丈夫なはずだというどこか短絡的な考えもあったように思う。


2019年、橋本悟選手にKO負けしたときは自分でも打たれ脆くなってることを感じざるを得なかった。以前だったら倒れないような攻撃で倒れてしまう。


控室で当時の加藤会長にも「もう辞めて良いんじゃないか」と言われた。この時点で5連続KO負け。身体のことを心配してだったと思う。


そこで、自分自身でも辞めようかと思った。


しかし「それでもまだ諦めきれない。諦めなければ報われるはずだ。」という思想が勝ってしまった。


が、その後の復帰を決めた試合前の練習でも思うように気持ちが上がってこなかった。こういう気持ちでやるのだったらプロとしてもお客さんに失礼だし、リスクを犯してまで続けるべきではないと思った。


最後にしようかと思ったその試合では開始早々に脹脛を筋断裂し、30秒ほどでKO負け。


さすがにそれで終わりでは周りの人たちに申し訳ないと思ったので最後に引退試合はやろうと思った。


この怪我のことだったり、コロナの影響で引退試合が中止になったりもして「神様が辞めるなって言ってるんじゃないですか?」と言われることもあったが、自分では神様がもう試合しなくて良いと言っているように感じた。


これだけKO負けが続いていても、引退すると宣言すると「何で辞めちゃうんですか?」と言う人もいた。


それは上記のようなダメージに関しての知識もなく、純粋にまだ観たいという善意で言ってくれていることはわかったが、それでも勝手なことを言うな、という気持ちは正直あった。応援してもらってきた立場だからそうは言えなかったが。


だが、仮に第三者目線で同じ場面を見たら僕はその人のことを怒ってしまうかもしれない。無責任なこと言うな、と。


僕自身、客観的に見れば辞めるべきと思っていても「諦めなければ…」という思想に縛られ続けてきてしまった。


だが、こと脳にダメージを受ける競技においてその思想は危険なものになり得ると思う。


今回良い幕切れをさせてもらって「諦めきれないで良かった」という風になっている。ここに書いてきたように考えていた自分も試合直後は続けてきて良かったとしか思っていなかった。


だがそれだけの美談にしてしまうのも違うかなと思った。


僕は7連続KO負けしていたが運良く最後の試合で勝つことができた。


だが運が悪ければ最後もKO負けして障害が残るような結果になっていたかもしれないし、今回勝ったけど将来的に何か障害が出るかもしれない。


僕は今回辞めると決められたが、もし続ける選択をして勝つことはあったとしてもダメージを重ねていって、それでも諦めずに続けることが尊いことなのか?


やはりどこかでストップはかけなきゃいけないのではないか。


選手本人はなかなか冷静な判断ができないと思うし、それで良いとも思う。冷静な判断で、正論だけですべてを決めていたら何も産まれないとも思う。


僕自身、冷静な目で振り返ると橋本悟選手に負けた時点で辞めるべきだったと思うが、そうしていたら今回の試合・これまでのストーリーはなかった。


だから周囲の人や業界としてはその辺りのことを考え、歯止めをかける役割をした方が良いのではないか。


皆が喜んでくれていて、自分自身も嬉しかったので、そこに水を差すようで書くか迷ったが書かせてもらった。


選手としては続けてきて良かったと思うし、仮に将来障害が残っても後悔はしないと思うが、自分自身が今後指導者になったとしたら辞めさせられる人間になりたいと思うので。


ワガママで申し訳ない。

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