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ユーラシア大陸、その何処かの上空にて

妹とパリに向かっている。

彼女はディズニーが大好きな、いわゆるDオタで、どうしてもパリのディズニーランドに行きたいのだと言う。けれどお世辞にも治安が良いとは言えない場所に海外渡航経験の少ない女性一人で行くのは、ちょっと命知らずが過ぎる。そこで同行者として、わたしに白羽の矢が立った。

羽田空港に集合したとき、姉妹とも仕事終わりのままですっかりよれよれになっていた。妹に荷物預けの列に並んでもらい、その間にわたしが二人分のお茶を買ってくる。妹はジャスミンティー、わたしはルイボスティー。

冬の乾燥でからからになった喉を潤しながら、互いの近況を話す。わたしはわたしで、本来なら自分の領分とは言い切れないような仕事や責務を三人前くらい抱える状況に陥っており、控えめに言ってもままならない日々が続いていた。その相談をしたら彼女は、うええ、と言って眉をひそめる。

「それさ、他の人がその人自身のやりたいことを、想像力をもたないままに押し進めてるおかげで、ゆりちゃんのやりたいことが犠牲になってるよね」
「まあわたしたちってさ、こういう家族のもとに産まれたからさ」
「うん」
「近くにいる人が困ってたらもれなく想像力が働いてしまうし、何かせずにはいられない人間じゃん」
「そうだね」
「同じような人と一緒にいないと、わたしはいつまでもやりたいことができないのかもしれない」

妹が事前にオンラインチェックインをしてくれていたお陰で、飛行機の搭乗手続きにはそんなに時間がかからなかった。座席についたら、彼女がうとうとしつつも狭いスペースで寝づらそうにしているので、少しだけ横にずれる。「いやいいよ」「いいからいいから」というやり取りをしたあと、妹は小さく「ありがとう」と言って、手足を少しだけ伸ばした。

寝やすい体勢を見つけたらしく、すうすうと寝息を立てはじめた妹を横目に、旅行に行くことが決まった日のことを思い出す。

姉と一緒にパリへ、と言う彼女に、Dオタ仲間の友達と行かなくていいの?と尋ねたら「だって友だちと行ったら、準備から当日の案内まで、全部あたしがやることになる」という返事が返ってきた。

誰かの力になるのは得意で、けれど自分の好きなようにやるのがどうにも不得手な姉妹だ。他者から何かを求められすぎたとしても、嫌ならば嫌と言って撤退してしまえばいいのに、それが今ひとつ上手くできないまま、この歳になった。

けれど、決して仲睦まじい日々ばかりではなかった妹とさえ今こうして互いが心地よく過ごせるように励むことができるようになったのだから、他の人ともきっと、という気持ちがある。そして、居場所を共にするならば、それは愛のある時間であってほしい、あってくれ、とも思う。

日本を出てまで、こんなことを考えている。他者と共にいること、そして自分が自分であることからは、どこまで行っても、それこそフランスに高飛びしても逃げられない。むしろ場所が変われどわたしはわたし、ということをより強烈に見せつけられるだけだろう。

逆説的だけれども「どこまで行っても逃げられない」ということを悟るような心持ちになってからのほうが、旅行そのものを楽しむことができるようになった気がする。死なばもろとも、ではないが、逃げられないならずっと一緒にいてやろう、くらいには思えるようになったのかもしれない。

さっきだって、映画を見ていたらラストシーンでこんなことを言われて参ってしまった。どこにいたって最後には「お前はどうなんだ」という問いに戻ってくる。


どんな人生を過ごすの?




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