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むち打ちになりたくないので、今日も道路をぶった斬る
飛び出してきた自転車に、横殴りみたいにふっ飛ばされたことがある。どうやらむち打ちになったようで、首を固定するカラーをつけることになった。
視線を動かす、振り向くといったことをするのに、腰から上をまるごとグリンッとひねらなくてはならないのがあまりに億劫で、むち打ちというよりも「首を動かせないこと」に心底凝りた。小回りを失うと、大回りでカバーするぶんエネルギーを消耗する。
それでカラーが外れたあとも、身体をむきだしにして移動するときは、自転車だろうが徒歩だろうがすこぶる慎重になっていた。おかげで今のところ無事故で過ごせているが、困りごとが無いわけではない。
道路の向こう側に渡るタイミングが掴めないのだ。
家の周りが住宅街なのだが、そのせいもあって自転車の通行量が多い。特に出勤・退勤のピークタイムはちょっとしたラッシュが起こる。
信号も横断歩道もないので、自分で自転車の間を縫って移動しなくてはならないのだけれど、少しでもタイミングをミスったら一瞬でむち打ち、カラー行きである。やだやだ。
そんなわけでわたしは、体当りしたら到底敵わないような乗り物たちがびゅんびゅん往来する場所で、毎度のごとくひるんでいる。
けれど、横断しないわけにはいかない。さもないと、目的地に辿り着けない。
そういうときは左右を見て、自転車や車が来ていないことを確かめてから、おおきく一歩ズン、と踏み出し、「わたし今からこっちに進むわよ!自転車ごと体当たりとかやめてよ!」の意思を全身でもって示したあとに、道路を真っ二つにぶった斬るようにして一直線に道を渡る。必要に応じて、小学生にまじって手をあげたりもする。
大股でずんずんと道を横断するこの人間の中にあるのは、ただの首を痛めたくない切実な臆病心なのだけど、事故に遭わなくて済むのならずうずうしく道路を闊歩するし、手の一本や二本、喜んで掲げる。
いい加減、もう何百回と歩いたこの道に慣れてもよかろうと思う自分と、なかなか安堵しきれない自分。二人のわたしが二人三脚をするようにして、右、左、右、左、と歩みを進める。
身体の記憶はどう頑張っても切実なままだ。切実でなくなってはくれない。
こんな人わたし以外にもいるのかな、きっといるだろうな、と思いながら、わたしは今日もびくびくと道路をぶった斬る。
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