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公認会計士試験「合格率」を検証する(2/4)

※この記事は前回記事の続きです。初めての方は第1回からどうぞ!
※議論の厳密さを保つため、手続きに関する議論が多めになっています。推定の過程を信じていただけるなら、太字を辿るだけで大体内容は掴めます!

3.年齢

年齢が高いほど合格可能性が下がるという議論は直感的に受け入れやすいし、データもこの議論をひとまず支持している。「年齢別合格者調」を見ると、「平均合格率」に対応する各年齢層の値は20歳以上25歳未満で13.9%であるのに対し、そこから年齢層が上がるにつれて一貫して下がり、65歳以上はなんと0%である。

本記事では、25歳未満と25歳以上に大別して整理したい。データをこのように区切ることで、「25歳未満」は概ね会計士をファーストキャリアにしようとする大学生(か専念生)、「25歳以上」はキャリアチェンジを試みる社会人、と大まかに特徴付けられるだろう。

注意しなければならないのは、この比較では、純粋に年齢による効果(因果メカニズムとしては加齢による記憶力・集中力の低下等が考えられる)と、(社会人であることによる)勉強時間不足の効果とが区別できないことである。つまり、両カテゴリの比較は「若い×勉強時間多い」受験生と「若くない×勉強時間少ない」受験生との比較であり、両者の効果を分析上区別できない。また、本記事の「学習進捗度」は、次節で見るように「学習範囲をひととおり終えているか否か」⇒「短答試験を欠席するかどうか」に限定して操作化されており、こちらも勉強時間の効果を直接測定していない。

これは、専ら利用可能なデータの制約による。仮に受験生別の勉強時間データが入手できるなら、勉強時間の効果を正面から検証する(例えば、回帰分析に勉強時間を変数として放り込む)ことも十分考えられるが、今回はそれを断念した、ということである。

これ以降提示するデータの解釈にあたっては、ラベルと実質とに齟齬が生じていること、つまり「25歳未満」と「25歳以上」の差が、おそらく真の「年齢」効果よりも大きく見えることに留意してほしい。

(さらに言えば、地頭の良い者は相対的にヨリ成功しているので年を重ねてからキャリアチェンジのために会計士試験を受けようとする割合が少ない、という推論も成り立つかもしれない。この場合、25歳で区切ったデータには「地頭効果」も混入していることになる。これも可能性を指摘するに留め、分析上は無視する。)


25歳未満は出願者5875人に対し論文受験資格者は1644人、論文合格者は806人で、平均合格率は13.7%(適宜端数を丸めているが「約」は省略する。以後同じ)だった。25歳以上は出願者7647人に対し論文受験資格者は2148人、論文合格者は529人で、平均合格率は6.9%に留まる。「論文合格率」(=論文合格者/論文受験資格者)を見ると25歳未満が49.0%、25歳以上が24.6%と巨大な開きがある。

興味深いことに、「論文受験率」(=論文受験資格者/出願者)は25歳未満で28.0%、25歳以上で28.1%と差が無い。このことから、「40代の方は短答式試験を突破する力は20代とそれほど変わらない」と解釈している記事もあるが、この見解は誤っている。なぜなら「出願者」は「短答出願者」と「短答免除者」の和であることを無視しているからである。論文合格率が低ければ、それだけ(翌年の)出願者に占める短答免除者の割合が増える。必ず1未満である「論文受験率」の分子分母から同数(短答免除者)を引いて求められる「短答合格率」(=短答合格者/短答出願者)は、出願者数が一定なら短答免除者が多いほど必ず低くなる。

25歳未満での「出願者数に対する短答免除者の割合」が25歳以上に比べて低いという点については傍証がある。「学歴別合格者調」のうち「大学在学」カテゴリのデータを見ると、「論文受験率」が25.0%と全体平均(28.1%)や他カテゴリに比べて非常に低くなっている。一方「論文合格率」は53.2%と高い。一見、大学在学者は論文試験では半数も受かるのに短答試験で不利なのか?と思わせるが、これは短答免除者の割合が低いからということで自然に解釈できる。


短答免除者の年齢別内訳データは入手できないので仮定を置くことが必要になる。本記事では、出願者数が毎年変わらず、また年齢(その他の属性)によって「歩留率」(=短答免除者数/前年の論文不合格者数)も変わらないと仮定する。

2020年度の25歳未満の論文不合格者は838人、25歳以上の論文不合格者は1619人であるが、前年度24歳の論文不合格生が再出願すると今年度には「25歳以上」の短答免除者に分類されるため、今年度の「25歳未満」と「25歳以上」の短答免除者の比は、前年度の「24歳未満」と「24歳以上」の論文不合格者の比となっているはずである。24歳のデータも入手できないので、「20歳以上30歳未満」の論文不合格者(1385人)の平均に近い140人であったと仮定すると、25歳未満の短答免除者は549人、25歳以上の短答免除者は1382人と推定される。

この数値を用いて「短答合格率」を求めると、25歳未満は20.6%、25歳以上は12.2%となる。以上、一定の仮定の下ではあるが、25歳以上の受験生は、論文試験だけでなく短答試験でも不利であることが確かめられた。

(24歳のコーホート移動はデータを年齢で区切ったために人為的に生じるものであり、予備校単位で受験生を追跡する場合には生じない。予備校の「合格率」との比較を目指すなら、厳密には「25歳の短答免除者」のデータを「25歳未満」カテゴリに加えて計算するのが望ましい。しかし、そのためには更なる仮定を重ねることになるので、今回は断念した。もしそのような計算を行うと、平均合格率13.7%の集団(25歳未満)に平均合格率30%程度の集団(25歳短答免除者)を加えることになるため、平均合格率は上昇する。つまり、本文で採用した方法は、25歳未満の平均合格率を若干保守的に見積もっている。)

なお、「短答合格率」や「論文合格率」は分母に欠席者を含んでいるので、「実質短答合格率」(=短答合格者/短答会場受験者)や「実質論文合格率」(=論文合格者/論文会場受験者)とは異なる。欠席者の影響については、次節で検証する。


4.学習進捗度

本節では、欠席者の影響を検証する。本記事の冒頭では、出願者の「学習進捗度」に関わる指標として欠席者とお試し受験者を挙げた。しかし後者は検証が難しいため、その存在を意識はしつつも具体的な検証は行わない。


各回短答試験および論文試験の欠席者データは公認会計士・監査審査会から提供されている(第1回短答)(第2回短答・論文)。

第1回短答は出願者が9393人で、うち欠席者が2148人、会場受験者が7245人であり、「欠席率」(=欠席者/出願者)は22.9%であった。1139人が合格したので「実質短答合格率」(=短答合格者/短答会場受験者)は15.7%である。第2回短答では「当初願書提出者」が10191人だったが、試験延期により受験を取りやめた者が808人いたので、彼らを除いた出願者は9383人だった。うち短答免除者が1931人、欠席者が1836人、会場受験者が5616人であった。「欠席率」(=欠席者/短答出願者)は24.6%で、合格者722人のため、「実質短答合格率」は12.9%となっていた。

論文試験は410人が欠席しているので、「実質論文合格率」(=論文合格者/論文会場受験者)は40.3%であった。会場受験した者に限れば、そのうち4割以上が合格する試験だったことが分かる。


第1回・第2回短答の両方に出願した受験者がいるので、両者を区別しない「合格者調」のデータではその分の調整(名寄せ)が行われている。「合格者調」の合計欄で、名寄せ後の出願者は13231人、論文受験資格者は3719人である。しかし内訳を合計すると出願者は13522人、論文受験資格者は3792人となり、それぞれ291人、73人の差が生じている。

「合格者調」の注には、この差は試験延期による事前辞退者であると説明がある。おそらく、名寄せは第1回出願者と第2回の「当初願書提出者」を元にして行われている。事前辞退者808人のうち73人が短答免除者、218人(=291人-73人)が第2回のみ出願した短答出願者、残り517人(808人-291人)が第1回・第2回ともに短答出願した(第1回は欠席または不合格)者、であると考えられる。

仮に、第2回短答における事前辞退者735人(808-73人)を、準備不足で試験延期が無ければ欠席しただろうと考えて「欠席者」とみなした場合、第2回短答の「修正欠席率」(=(欠席者+事前辞退者)/(短答出願者+事前辞退者))は31.4%となる。

事前辞退者を除いた名寄せ後出願者(13231人)の内訳は知ることができないので、検証には事前辞退者を含めた名寄せ後出願者(13522人)を用いることにする。出願者(名寄せ・事前辞退前)の単純合計は19584人(=9393人+10191人)、名寄せ後・事前辞退前の出願者は13522人であるため、差の6062人が両回に出願した名寄せ対象者である。

「名寄せ後の欠席者数」は、名寄せ対象者の各回出席状況データが分からないため推定する必要があるが、これが意外に難しい。ここでは、各回の流れをトレースしながら仮定を設けて推定していく。

第1回出願者9393人には欠席者2148人・合格者1139人・不合格者6106人の3カテゴリが存在するが、合格者以外の者8254人のうち6062人が第2回にも出願した(=名寄せ対象者になった)。ここで、「第1回欠席者・不合格者の間で第2回に再出願する確率は変わらない」「第2回に出願した第1回欠席者・不合格者の間で試験延期により事前辞退する確率は変わらない」「第2回にも出願し、事前辞退しなかった第1回出願者と第2回にのみ出願し、事前辞退しなかった者との間で、試験を欠席する確率は変わらない」という諸仮定を置いて推定する。

名寄せ後にも(短答に)欠席したと扱われるのは、「第1回に欠席し、第2回に出願しなかった者」(571人)、「第1回に欠席し、第2回に出願したが事前辞退した者」(135人)、「第1回に欠席し、第2回にも出願して事前辞退はしなかったが欠席した者」(355人)、「第2回のみに出願し、事前辞退はしなかったが欠席した者」(470人)の4カテゴリに属する者である(カッコ内は推定値)。合計すると1531人となる。これに第2回のみ短答出願し事前辞退した者218人を加えると、名寄せ後の「短答欠席又は事前辞退者」(以降、単に「欠席者」とする)は1749人であるという推定値を得る。

1749人の年齢別内訳についても仮定が必要になる。ここでも、25歳未満と25歳以上で欠席又は事前辞退する確率が変わらないという仮定を置くと、25歳未満の「欠席者」は806人、25歳以上の「欠席者」は943人と推定される。

また論文試験では、論文受験資格者3792人から事前辞退者73人及び欠席者410人が生じている。欠席又は事前辞退する確率は年齢によって違いはないという仮定を置くと、25歳未満からは事前辞退者21人・欠席者179人、25歳以上からは事前辞退者52人・欠席者231人が生じる計算になる。よって論文会場受験者は25歳未満が1444人、25歳以上が1865人となり、「実質論文合格率」(=論文合格者/論文会場受験者)は25歳未満が55.8%、25歳以上が28.4%であったと推定される。


数字が錯綜してきたので、2020年度試験で何が起こったかについての推定結果を、改めて整理したい。

2020年度における名寄せ後の出願者13522人のうち、25歳未満は5875人(うち短答出願者5326人、短答免除者549人)だったのに対し、25歳以上は7647人(うち短答出願者6265人、短答免除者1382人)だった。短答試験では事前辞退又は欠席により25歳未満806人・25歳以上943人が脱落し、会場受験者は25歳未満4520人・25歳以上5322人であった。短答合格者は1861人(うち25歳未満が1095人・25歳以上が766)人であり、短答免除者1931人とあわせた論文受験資格者は3792人(うち25歳未満が1644人・25歳以上が2148人)となった。
論文試験においても事前辞退もしくは欠席により25歳未満200人・25歳以上283人が脱落し、論文会場受験者は3309人(うち25歳未満1444人、25歳以上1865人)だった。最終的には1335人(うち25歳未満806人、25歳以上529人)が合格した。


これでも複雑なので、「100人の出願者」で例えてみる。100人の出願者のうち、短答受験者は86人、短答免除者は14人。13人が短答を欠席するので、短答受験者は73人(うち25歳未満34人、25歳以上39人)である。短答合格者は14人(25歳未満8人、25歳以上6人)なので、論文受験資格者は(25歳未満が12人、25歳以上が16人の)計28人だった。最終的には、25歳未満が6人、25歳以上が4人の計10人が論文式試験に合格した。


ここで、名寄せ後の「短答合格率」(=短答合格者/短答出願者)は16.1%、年齢別にみると25歳未満20.6%に対し25歳以上が12.2%だった。ここで、これらの「ひっくるめた」数値が各回の数値とは異なることに気を付けるべきだろう。名寄せにより「ひっくるめる」作業は机上の数字操作によるものであり、得られる数値は(たとえ生データが入手できてより正確に計算できたとしても)解釈がなかなか難しい。「合格者調」のデータを使って「短答合格率は~%」等を論じる、また数値を学習戦略の参考にする場合には相当の注意が必要だろう。

なお、ひっくるめた後の「欠席率」(=短答欠席者/短答出願者)も計算してみると15.1%となる。名寄せ後の欠席者数推定にはかなり多くの仮定が必要なので推定値の信頼性については注意が必要な上、これも解釈が難しい。ただし、ひっくるめた「欠席率」が、各回のそれよりも低いのは間違いないと思われる。

欠席者数の推定値を使って計算できる「実質短答合格率」(=短答合格者/短答会場受験者)は18.9%であった。年齢層別に見ると25歳未満が24.2%、25歳以上が14.4%である。


ここで、CPAの「合格率」により近い指標を作ってみる。「論文合格者/(短答受験者+短答免除者)」を仮に「C値」と名付ける。分母は「出願者-短答欠席者」でも求められるが、これは、CPAのいう「カリキュラム修了者」と大体同じと考えてよいだろう。2020年度において、全体の「C値」は11.3%、25歳未満は15.9%、25歳以上は7.9%であった。

25歳未満の「C値」に注目すれば、主要な変数のうち二つ(年齢と学習進捗度)を不十分ながらコントロールしたと言えるだろう。ここで、ようやく比較の土台が整ってきたことになる。

CPAの「合格率」(37.1%)と25歳未満の「C値」(15.9%)とを比較すると、「平均合格率」(10.1%)よりは差が縮まったものの、依然として2倍以上の開きがある。まだ「地頭」の効果を検証していないが、2倍強という差は「所属予備校」の効果を謳うためのセーフマージンと言えるだろうか?

この点を、次節にて検証する。

(続きます)


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