20Hzの交差点
「先輩、見つけました!脱法ハードコアです!」
ちくしょう、また輸入品(ヨソモン)か。
近頃は規制の穴をいいことに、誰も彼もが東南アジアのどこで拾ってきたか分かんねえようなサンプルを使ってやがる。
5年前、政府は巷に広がるドラッグを本気で潰そうと新たな法律を制定した。ドラッグが蔓延る元凶であるクラブで、政府が禁止したサンプリングCDを使った音楽は流せないという代物だ。噂ではAIが波形を解析して、刺激がある音を含んでいると判定されるとアウトらしい。
しかしその法律を作ったのがクラブのCも知らないジジイどもだ。サンプリングCDがいくつあると思っていやがる。
案の定禁止サンプルのリストは山のような数になり、いたちごっこが始まった。
「こいつは預かっていくからな。」
「そんな!昨日リリースしたばっかりなんですよ!」
アキバにいそうなメガネの男がしがみついてくるが、俺はその手を振りほどいて告げた。
「文句があるならお上に言うんだな。」
「先輩!こっちにも脱法サンプル使用の形跡が!」
「今行く」
「ん?なんだこれ・・・うわあああ!!!」
突如白目を剥いて痙攣し出した部下に駆け寄り、慌ててヘッドホンを外す。
「どうした岩下!しっかりしろ!」
しかし真面目な部下は涎を垂らして意識を失っているらしい。
「おい!いったい何があったんだ!このCDは……」
ジャケットには"L"の一文字。どこかで見覚えがあるような……
!!!
背後に気配を感じたが、気付いたときには遅かった。
周りの音が聴こえなくなったと思った瞬間、うねるような低音に身が包まれ、俺の意識は海の底へと沈んでいった。
さっきのメガネ野郎がニヤニヤしながら立っている。
思い出した、あの"L"は。
(続く)
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