精神安定剤を飲みながら 25

俺は地図の端の黒い線の上を歩いていたが、どうやってこの地図の街から出ればよいのかも思いつかないままだった。思いつかないままの俺の視界はちょうど半分に分かれていた。俺の顔の左半分が真っ白な世界で、その右半分はいくつもの黒い線が引かれた地図の街だった。
そうやってしばらく歩いているうちに視界が左と右で違う事に混乱するようになってきた。どうして黒い線の上を意地になって歩いているのだろうか。このままどちらかの世界に動いて歩いても良いような気がしてきた。どうせ地図の街の端を示す黒い線は変わっていないのだし、それを目印にして少し離れて並行して歩いて行ってもいいんじゃないか。
ではどちら側を歩けばいいのか。そんな取るに足らないことでまたしても俺はどうすればいいのか答えを出せなかった。別にどちら側を歩いていてもいいのだ。
地図の街の中を歩いていても、おそらくは山か谷の樹木生い茂る場所で、そこは地図の街の住人の所有している土地かもしれないが、俺の周りを見渡しても誰かが住んでいるというような雰囲気は感じられなかった。
地図の街の外を歩いていても、ただ真っ白い世界を歩いているだけで、右側が投射されたような地図の街がひたすら先まで続いているだけなのだ。俺の周りを見回しても誰かが住んでいるという雰囲気は感じられなかった。
俺は歩きながらしばらく悩んでいたけれど、どうにも半分ずつの世界に頭が混乱し始めてきたので、まずは地図の街の中に入って混乱を鎮めようとした。とっさにそうしたのは自分がまだこの地図の街の中にいる実感だけでも得たかったのかもしれない。あまりにもすぐそばにある真っ白な世界は、さすがに俺が生きている世界には体験したことがないものだった。
そうしてしばらく地図の街の中を歩いていた。そのうちに俺は次第に喉の渇きが気になるようになってきた。あまりの自分の混乱ぶりに、誤った判断をしてしまった事に気づいた。飲み水は生きるために必要なものであるはずなのに、どうして今までその準備をしてなかったのだろう。俺はそのことに航海士、一度街に帰ることを考えた。
大丈夫、一日がかりで歩けばまた街に戻れるし、そこで地図の街の抜け出すための対策を考えればいいのだ。俺はそう自分に理由を付けて、もう一度、街の中心地まで戻ることにした。今までの時間はなんだったのかと、こうして振り返って思う事もあるが、しかし、こうして実際に見て見なければ、分からない事もあるのだ。
地図の街の中心に帰る時、俺がどこまで地図の南端側を歩いていたのか、印をつけてから帰ろうとふと思いついた。地図を開いて地図の街の南側の端を、今いる自分の位置を確認している時に、それを見つけた。幅の広い細い二本の黒い線が緩やかに曲がりながら、地図の街の南端の黒い線に繋がっていた。
道の可能性も考えたが、それよりも幅の間隔が不安定だったし、なによりもそのような形をしたものは地図の街以外の街の地図でも見たことがあるような形だった。俺はそれを見た時の、直感、というかひらめきに感謝している。
この二本の黒い線は、川を示しているんじゃないか。

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