精神安定剤を飲みながら 24
地図の街での二日目の朝を、俺は地図の端で迎えた。何度か寝返りを打っていたのか、俺の頭の半分だけは地図の街の中にあったはずなのに、いつの間にか地図の街の向こう側に居た。
いつの間にか地図の街は朝を越えて昼になっていたらしい。地図の街の向こう側は昨日の地図の街と全く変わらないように見えた。映写機で幕に映しているわけではないから、白い靄がかかっているように見えているわけではない。ショーケースの中に街がすっぽりと入っているような感じだな。
地図の街の向こう側は真っ白だったという話をしていたが、改めて冷めた頭で地図の街の向こうを見渡してみた。地図の街の端っこは黒い線が引かれているという話はさっきしたよな。この黒い線は南端を表しているかもしれないという事もおそらく話したと思う。だからこの地図の街は、ここで終わっているという事になる。街どころか、世界の全てが終わっている。
さっきからおかしな話しかしてないんだが、これも考えればおかしな事で、俺はこの地図の街にやって来ることはできた。それは電車を使ってこの地図の街にやってきたからだ。しかし、その電車はこの地図の街の性質によって、しばらく使う事が出来ないとこの地図の街の駅員から知らされた。
俺がこの街に入ったのはどのような状況だったのか、改めて地図の端の黒い線を歩きながら考えていた。それはたしか、ある長いトンネルを越えてこの街に来ていたはずだった。どれぐらいの長さだったのかは分からないが、確かにこの地図の街にはトンネルを使っていたはずだった。
もしトンネルを使って入ることが出来たとしてなら、もしかしたら、トンネルを使えば帰れるんじゃないかと俺は思った。俺は地図の端の線を歩きながら、改めて昨日の地図を確認して、今度は電車の線路を目で辿って行った。昨日現れた道によって消されている部分はあるが、何とか電車の線路を地図の端まで追いかける事が出来た。この地図の街の線路は地図の西側から東側に、ほぼ真っすぐ引かれていた。さて、果たしてその両端にはトンネル、もしくは線路があったのか。あんたはどう思う。
……答えは今までと同じだった。そこには何も無かった。地図の街の端に入る前にその線路は消えてしまっていた。おそらくそこにトンネルがあったのだろうと思うが、この地図の街の地図の描き方なのか、上から見た時に隠れてしまっているものは、地図には描かれないみたいだった。
本当にそこにトンネルがあるのだろうか。それとも、この地図の街の様に山や谷、建物と言った高さのあるものが透明になってしまっているのか。それはまた実際に歩いてみないと分からないことだった。
また、どちらかの地図の端まで歩くのかともはや諦めの気持ちになってしまった。もうこのままこの街にしばらく滞在することも俺は考えていた。このまま地図の街の中心に戻って、食べ物や眠れる場所を確保して、いつの日か線路が開通して帰るということも良いのではないか。そんなことを考えていながらも、何故か俺は地図の街の端の黒い線から足を踏み外せずに、ずっと歩いていた。
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