精神安定剤を飲みながら 22
地図の街の端を想像するのは難しいとは思う。俺だって誰かにこんな話をされて信じられるかと言われれば絶対に信じないだろう。こうしてあんたに言葉で説明しても、ここでお互い酒を飲み飯を食っている現実という壁が、そんな街の事を考えさせなくするだろう。
確かにずっと続いていると思っていた夕暮れの向こう側が、ただの真っ白な世界というのは誰だって信じられない。しかし、俺はそれを見てしまった。夕暮れとこの世界の間に触れてしまった。だからこそ、この記憶が本当に存在していたという事を、地図の街の人以外にも伝える必要があった。
地図の街と作られていない白い世界の間は、感触の無い絹の幕で覆われているような感じだった。映写機に映した映像と言えば想像できるかもしれないし、俺が初めて地図の街を訪れた時に感じた印象、最近はプロジェクションマッピングとか言うんだったっけな、それだと思えばいいのかもしれない。
だが、その境には何も投射する物が存在しないんだ。そしてその風景を映すための映写機も周りには存在しない。映し出すための物が何もないはずなのに、目の前には夕暮れから闇に変わっていく風景があり、そのすぐ奥には真っ白なほどの何も描かれていない世界が、急に迫ってくる。その変化に最初は目がおかしくなってしまうかと思って後ずさりしたよ。
暗い場所から明るい場所の移動で、俺は目が眩んでしまった。実際に目が眩んでしまったのと、現実感の無さでも目が眩んでしまった。俺はその場に座り込んで、俺が今置かれている状況を整理しようとした。しかし、そんなこと地図の街の端を実際に目の当たりにしてしまった俺にできるわけが無かった。あまりにも今俺たちが飯を食べている現実とは違いすぎるんだからな。どこから手を付けて解決すればいいのか、俺にはもう分からなくなってしまった。
その場に座り込んで、そのうちに寝転んでしまった。地面にそのまま寝るのが汚いとは思ったが、もうどうでもよくなってしまった。そもそも、ここは真っ白な地面で出来ている地図の街だから、土とかそんなものもないだろうし、いや人や物はあるんだから、おそらく埃はあるのかもしれないな。
……老人と出会った時に畑で作物を育てていたと言っていた。畑で育てるには土が必要なはずだ、確かに。そこまでは考えていなかったな。……おそらくはあの地図の街でも作物は育てられるように出来ているんだ。あんたは後付けて考えていると思っているのかもしれないが、別に、そう思われても構わない。
これから地図を抜け出す時の話をするんだ。もっと後付けの説明をこれから沢山しなくちゃならないんだからな。
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