精神安定剤を飲みながら 15

俺が老人の家の中の片づけをしている時、街の中心側の方向から数人の何かを来た人たちがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
その人たちは何かしらの防護服なのか、全身真っ白い姿で顔の部分に黒い遮光ガラスを付けていて、前後に並んで前に居る人たちが地図を確認しながら、後ろの人に何事かを伝えている。
その後ろに付いている人たちは何か大きな機械を引っ張っているらしい、徐々にその姿が大きくなるにしたがって、その防護服の人々は左右に一定の幅を開けて歩いているらしいことが分かった。
地図を持って前を歩いている防護服の男が、老人と俺に話しかける。
「どうもどうも、すみません」地図を持った防護服の男は頭を下げているらしいが、防護服自体が大きすぎるのか、その動きはよくわからなかった。
「ある程度動かしてはいるけど、どうかね」老人は家の敷地の左右に振り分けた家具を見回しながら防護服の言った。
「もう少し幅が必要ですね、これ動かしましょうか、手伝いますよ」防護服の男は、先ほどまで二人がかりで動かしていた木製の引出しを指差してから、率先して引出しの片側を持った。老人と俺はそれに従って、引出しに手をかけた。
「いやぁ、ありがとうございます」あらかたの作業を終えて地図を持った防護服の男は後ろで待機していた男たちに何事かを伝える。そしてまた、足並みをそろえる様にして歩き始めた。
通り過ぎる時に後ろの男たちが引いている大きな機械から、黒い線が出ていることに気づいた。学校で見たライン引きがあるだろ。それがなんか、大きくなったような感じだと思ってくれればいいし、普通の街によくあるような道路に線を書く時の様な感じの機械だと思っても良い。
つまり、その男たちはおそらく地図の街の地図を作っていたんだな、現実上に。なぜか。まあ、理由は分からないが、老人が持っていた地図と同じように地図を作るからだったんじゃないかと、今となっては思う。
「なんか、大変ですねぇ」と俺は、黒い線を引きながら遠ざかっていく防護服の男たちを見ながら、老人に話しかけた。しかし、返って来た答えはやっぱり「昔からそうだった」としか答えなかった。
さて、老人の家を出てからどうしようか考えていた時に、何か、その地図には昨日の地図と大きな違いがあるなと気づいたんだ。ああ、その地図っていうのは、その日の朝に届いた地図の事だからな。地図って言葉が多いから、よくわからなくなるかもしれないが、これから話す地図は、老人に渡された地図の話だ。
街の中心部らしところっていうのは、地図を見れば何となくわかった。線が密集しているところがおそらくそうなんだろう。けど、その地図には、大事なものが無かったんだ。おそらく地図の街にとっては大事じゃなかったから、そうなってしまったのかもしれないが、少なくとも俺にとっては大事な物が無かった。
街の中心から、俺が乗って来た駅が無くなっていたんだ。

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