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#3 ムジナモは「光合成」をしていたか?

帰宅してからNHKの連ドラ「らんまん」の録画を見るのが最近の楽しみだ。主人公やそれを取り巻く人々の生きる姿が “Where there's a will, there's a way(意思あるところ道あり)” を体現しているようで励まされる。

さて、第17週に、牧野富太郎博士がモデルの主人公・槇野万太郎が、日本での自生を発見したムジナモに話しかけていた。明治23年の設定である。

「おまんは根がないのう。光合成だけで大きゅうなっちゅうがか」

ムジナモ

さて、ムジナモは「光合成」をしていたのだろうか? 疑問に感じたのは、戦前生まれの父が、自分たちは「炭酸同化作用」と教えられ「光合成」という言葉を知ったのはだいぶあとだったと言っていたからだ。

調べてみると、牧野博士がムジナモを発見したのは1890年(*1)で、米国の植物学者チャールズ・バーネスが「光合成(*2)」の用語の使用を提案したのはその3年後である1893年の学会だった(*3)。日本で「光合成」という用語が使われだしたのは戦中のころのようだ。

このころの用語の状況について鈴木善次教授による紹介を見つけたので引用する。

私の手元に、昭和13(1938)年出版(初版は昭和6年)の石川光春著『生物学大観』(内田老鶴圃)という本がある。何気なしにページをめくっていると、“新陳代謝の生理”という項の中で“光力的合成”という言葉を見つけた。(中略)光力的合成という言葉が当時一般に用いられていたのか、他の著書を調べていないので詳しくはわからないが、光合成という言葉が未だ定着したものになっていなかったことは確かである。
 もともと、Photosynthesis という言葉はバーネス(Barnes, Ch. R.、1858~1910)によって1898年に作られたそうである。それが光合成という訳語に定着したわけであるが、それがいつであるか。昭和18(1945)年の坂村徹の『植物生理学』(裳華房)にはすでに “炭素同化作用……光合成作用とも称せられる” となっている。

鈴木善次「科学の歩みところどころ 第12回 光合成の発見」

もっとも、ドラマの中で万太郎が「炭酸同化作用だけで大きゅうなっちゅうがか」などと言えば、視聴者は聞きなれない言葉に面食らうだろう。「光合成」は学術用語ではあるが、みんなが小学校で学ぶから、だれもがドラマのアカデミックな世界に自然に入っていける。「らんまん」はあくまでフィクションだ。

ところで余談だが、炭酸同化作用は「=光合成」だと思いこんでいたが、ほかにも「細菌光合成」や細菌の「化学合成」というものがある。つまり「炭酸同化作用⊃光合成」である。高校時代に勉強したはずなのだが。

もう一つ余談。牧野博士はムジナモの和名をつけるとき、その形がタヌキの尻尾のようなので、「タヌキモ」と命名したかったそうだ。しかし、すでにタヌキモという植物があったので、タヌキの別名でもあるムジナから「ムジナモ」と名付けたという(*4)。ムジナは、タヌキのほかにアナグマやハクビシンをさすこともある。ハクビシンの尻尾はタヌキやムジナよりかなり細くて長いのだが…。

○「タヌキ・アナグマ・アライグマ・ハクビシン入門 ――4種の動物の違いと暮らし」(文一総合出版「BuNa」)

*1 Wikipedia 「牧野富太郎」
*2 'Photo syntax' または 'photosynthesis'
*3 Wikipedia 「チャールズ・バーネス」
*4 Wikipedia 「ムジナモ」


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