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25年間ありがとう。

 2023年5月14日。我が家のおばあちゃん猫のハナが天寿を全うしました。

 25年前、当時住んでた家の外で早朝から猫の激しく鳴く声が聞こえた。
喧嘩している声ではなく、産まれたての赤ちゃんが鳴く声。母と姉が家から飛び出して声の聞こえる方に向かうと、カラスに囲まれた猫がいたそうだ。

 抱き抱えて家に連れて帰ってきたその猫は右目の眼球が飛び出していて、当時まだ幼かった僕はショックを受けた覚えがある。
病院へ連れて行き、ひと通りの検査をして、その日のうちに家族となった。

「ハナ」

 名前の由来は分からない。いつの間にか決まっていた名前。母と姉で決めたであろう"ザ・日本の猫"という名前。家族みんながそう呼ぶから僕もそう呼んだ。

 ハナは毎日のように母猫の母乳を求めて、僕の下唇に吸い付いてきた。
おかげで僕の下唇は小さくぷっくり膨らんだ箇所が何個もあった。
学校で友人に指摘されて、ムッとしたり、恥ずかしかったり、そんな覚えもある。

 程なくして、ハナが右の視力を完全に失っていると母から聞かされた。
飛び出していた眼球こそ元通りになったが、右目は見えていなかったらしい。
確かに右側からオモチャを見せても少し反応が遅かった。
それでも、目に障がいがあるなんて分からないほどに元気に遊ぶハナ。

 猫アレルギーの友人が猫アレルギーを発症してまで会いに来るほど、ハナは愛されていた。

・・・

 僕は18歳になり実家を飛び出した。約10年間も好き勝手やって久しぶりに実家に帰ると、ヨボヨボのハナが居た。
昔から食べても太らないスリムな体型の猫ではあったが、23歳になったハナはただのガリガリだった。

 目ヤニは付いてるし、毛並みにも艶が無くなった。何より目付きも少し悪くなった。ひと目で見てわかるほどに高齢猫。
それなのに、大きな声で鳴く。網戸越しではあるけど庭に訪れる野良猫に対して威嚇するくらいの元気はあった。

 そんなハナだったけど、今年の5月に入ってから急激に体調が悪くなった。
まっすぐ歩けない。
歩いている途中で腰が抜けたようにへたってしまう。
だからトイレまで辿り着けず漏らしてしまう。
ご飯を食べてもすぐに吐く。
だけど吐ききれず、よだれが垂れっぱなし。
声もだんだんとガサガサして小さくなっていく。

 猫は、人知れずひっそりと亡くなろうとする。
自分の死に場所を探して、普段は寄り付かないところを行ったり来たり。
ゴールデンウィークが明けてからハナにもそういった兆候が見られた。

 最後の日、何かを悟った母と姉がソファの真ん中で眠るハナを挟んで、夜遅くまで起きていた。

 1998年5月10日。25年前の母の日。
そして、ハナが家に来た最初の日。

 2023年5月14日。母の日。
たまたまかもしれないけど、この日を選んで息を引き取ったと思ってしまう。

 ハナは、特に母に懐いていた。
母のいるところにハナは必ずいた。
ハナは愛されていた。これまでもずっと。これからも記憶の中でずっと。

25年間ありがとう。おやすみなさい。

我が家のにゃんこへ献上いたします。