見出し画像

秘密保持の残存期限「5年」は妥当だと言及した判例

事実の概要

  • Yは浄水器の開発・製造をXに委託することとした。

  • YはXと「取引基本契約書」を締結。その後さらに「開発委託契約」を締結した。

  • YとXは案件をすすめ、発明も生じたが、報酬等について食い違いが生じ、契約は合意解除された。

  • Xは上記発明に対して単独で浄水器の特許を申請した。

  • Xは特許取得後、Y社の製品が自己の製品の特許を侵害している、また契約解約で研究開発費等が無駄になったなどとして、関連製品の製造差止と、損害賠償合計2億5千万をYに請求した。


Yの主張

  • 基本契約、開発委託契約には、以下条項があり、解約後も有効である。そのため、Xの単独出願は、共同出願義務違反で無効である。(のでYは特許侵害にはならない)

基本契約
新たに発生する特許、実用新案、意匠等については、原告、被告の共同出願とする。なお、出願の手続は被告が行うものとするが、発生する費用は、原告、被告それぞれが折半することとする。

開発委託契約
第6条(工業所有権)
1. 本開発品に関しての工業所有権を取得する権利は次の通りとする。
(1) 商標および意匠登録は被告が取得し、被告が単独で所有する。
(2) 特許および実用新案は被告と原告の共同出願とし、被告と原告の共有とする。
2. 前項1、(2)の共同出願の手続きは被告が行い、発生する費用は被告原告それぞれが折半することとする。
第○条(有効期間)
1. 本契約の有効期間は、本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。
2. 前項の定めに関わらず、第5条(秘密保持)に関する定めは、この契約終了後5ヵ年有効とし、第6条(工業所有権)に関する定めは、当該工業所有権の存続期間中有効とする。

Xの主張

  • 契約の解除により、共同出願条項も遡及的に失効するから、条項は無効となる。そのため、Xが単独で出願したことは、共同出願義務違反にはあたらない。Yは特許を侵害している。

裁判所の判断

Xの単独出願は無効。Yは特許侵害をしていない。

  • 本件合意解約により、本件開発委託契約がどの範囲で消滅したものであるか、これは、基本的には、本件合意解約で表された原告と被告の意思表示をどのように解釈するかの問題である

  • 特定の契約を合意解約する際に、同契約中の一部の合意を存続させるにはその旨の合意をするのが通常であり、そのような特段の合意がない限りは、当該契約の全部を消滅させることが合意されたものと解釈すべきである。本件では、以下残存条項がある。

  • 前項の定めに関わらず、第5条(秘密保持)に関する定めは、この契約終了後5ヵ年有効とし、第6条(工業所有権)に関する定めは、当該工業所有権の存続期間中有効とする。

秘密保持条項について

  • 本件開発委託契約終了後も5年間その効力を維持するとする趣旨は、本件開発委託契約が終了してもこれまでの開発業務の遂行に当たり蓄積された種々のノウハウ等の営業秘密に関して契約終了後も相互にその秘密を保持すべき義務を一定期間存続させ、もって上記営業秘密の保有者の利益を保護することにあると解される。

  • もちろん、かかる秘密保持条項を契約終了とともに失効させたとしても、これらの営業秘密を目的外に使用・開示等をする行為は、多くの場合、不正競争防止法2条1項7号等の不正競争行為に該当すると解されるが、営業秘密性の立証が困難であり、また、繁雑である場合もあり得るから、本件開発委託契約の終了後も秘密保持条項の効力を維持することが、同契約の契約当事者(とりわけこの種の営業秘密を保有する立場にある原告)の利益に適うものと認められる。したがって、本件開発委託契約終了後も一定期間その効力を存続させることには合理性があると認められる

  • 他面において、その営業秘密に係るノウハウ等が陳腐化し、一定期間経過後は有用性や非公知性が失われる場合が多いと考えられるから、あまりに長期間にわたり当事者に秘密保持義務を負わせるのも合理性に欠けるものというべきであって、その期間を5年間とした本件開発委託契約の秘密保持条項の存続規定はその点でも合理的であると解される。)。

工業所有権条項について

  • まず、本条項は、開発委託業務が完了するなどその目的を達して契約が終了した場合を想定したものであると考えられる。

  • 本件では、本件浄水器の本来の開発業務は、すでに少なくとも特許出願が可能な程度に完成していたものと推認することができる。

  • Yは開発業務の費用を単独で負担しており、したがって、本件共同出願条項の効力を本件開発委託契約終了後も維持することも合理性を肯定し得るものというべきである。

  • XとYが本件共同出願条項の効力を終了後も存続させる意思の下に同契約を終了させるとの合意がされたものと推認するのが、原告と被告双方の通常の合理的意思に合致するというべきである。

得られた教訓と感想

秘密保持の期限、5年は良いとの指摘と合わせ、あまりに長期は不合理、とも裁判所が言っています。


https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=36739

いいなと思ったら応援しよう!