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仕様の説明が不足していたため、契約不適合を指摘できなかった判例

登場人物

  • 原告 「X社」 図書館から書籍の電子化作業を受託した元請け

  • 被告 「協力会社」 図書館の仕事をX社から再委託された協力会社 障がい者を雇用し自立支援を目的とした会社

事実の概要

  • 図書館は書籍のスキャン作業をX社に委託し、X社は協力会社に作業の一部を再委託した。

最低保証金額関連

  • 契約の際、協力会社は代金の最低保証金額などを盛り込んだ「確認書」を作成しX社に送付していた。

  • しかしX社は「当社法務担当と調整しましたが、契約関連についてはグループ内での統一フォーマットがあるため、当社書式でお願いします」と返答し締結しなかった。

  • その後、X社書式で業務委託契約を締結。(最低保証金額の記載はない。)協力会社は作業を開始した。

  • 作業中も、協力会社は「確認書」の締結を依頼したが、X社は締結しなかった。

業務基準関連

  • 図書館とXの契約において、入札時の仕様書では以下の記載があった。①可読であること②色調、明るさ、コントラストが原資料に忠実であること③階調が再現されていること④欠損、汚損がなく正しくスキャン、トリミング、回転補正されていること⑤原資料に対して傾きが2%未満であること⑥画像の漏れ、重複がないこと

  • X社は協力会社に仕様に関する説明をせず、契約書内に仕様の記載はなかった。

  • ①可読であること については、当初基準はなかったが、作業途中で基準となるサンプル画像がXから協力会社に交付された

  • 作業が完了。X社はデータの納品を受け、協力会社は代金を受領した。

  • Xは図書館にデータを納品したが、検収時のサンプリング調査において、エラー率が12.9%となった。

  • X社は協力会社にやり直しを依頼したが、協力会社はすでに経費が報酬を超え赤字であったことなどを理由にこれを拒否。X社が不備対応を実施した。

訴訟の内容

  • Xは、やり直しで必要となった経費2億876万円の支払いを求め、協力会社を訴えた。

  • 協力会社も、最低保証金額で計算した報酬の残額3億4477万円の支払いを求め、X社を訴えた。


X社の主張

  • 協力会社のデータに不備があったため、結局作業を最初からやりなおす事になった。協力会社の出来高はなく、支払った代金2億876万円すべてが損害である。

  • 報酬の最低保証には合意していない。

協力会社の主張

  • 委託開始前、採算が取れないため受託に難色を示していたところ、X社の課長と係長が協力会社を訪問し「最低保証も含め協力会社に損害を負担することのない報酬とすることを約束する」と口頭で伝え、口頭で最低保証に関し合意が成立している。

  • 最低保証を前提に作業員の増加や日祝日勤務、24時間対応をおこなっており、最低保証がなければこのような指示に従うことはなかった。

  • 協力会社は、Xの指示に基づいて本件業務を行っていた。指示に忠実に従い、指示に反することは無かったから、債務不履行は発生していない。

  • 成果物が図書館の求める品質に適合していないとしても、その原因はXの指示・品質管理の不足にあり、協力会社の不完全履行ということはできない。

裁判所の判断

協力会社の債務不履行はない。また、報酬の最低保証の合意はない。双方支払いは必要ない。

最低保証の合意について

  • 契約書に最低保証金額の条項が盛り込まれておらず、最低保証が成立したということはできない。

  • 口頭で合意したとの証言はあいまいで信用することができない。

業務基準について

  • Xが仕様書の条件を協力会社に伝えた形跡はない。五月雨に一部条件を伝えたのみである。

  • しかし、協力会社の親会社がこの業務の入札に別途参加しており、協力会社も、その入札のための提案書を作成し提出しているから、仕様書の内容を了解していたと推認される。

  • ①可読であること②色調、明るさ、コントラストが原資料に忠実であること③階調が再現されていること④欠損、汚損がなく正しくスキャン、トリミング、回転補正されていること⑤原資料に対して傾きが2%未満であること⑥画像の漏れ、重複がないこと

  • 上記仕様書の条件のうち、①~④は基準が具体的でなく、社会通念上の作業水準により行うことが求められる。⑤⑥については、これに従い実施する義務を負う。

  • 図書館とXとのメールやりとり等の経緯に照らすと、検収の段階になって仕様がXの想定を上回ることが明らかになったといえる。

  • 図書館の検収の基準は、社会通念上の作業基準を上回っていると言わざるをえない。そうすると、検品で図書館が不備を指摘したからといって、仕様書の合意に反し、協力会社に債務不履行があったとするのは困難である。

  • 納品物全体のうちどれだけ不備があり、どの程度やりなおしが必要であったかについてもXは明確に特定・立証できていない。

  • 損害を認定できず、因果関係があると認めることもできない。

得られた教訓と感想

  • 顧客が提示した仕様が曖昧であった場合、仕様が明確になるまで顧客と調整して協力会社に依頼しないと、協力会社の責任を追求することができず、自社の追加費用でやりなおしする可能性も出る。


東京地判平成26.3.26 平23(ワ)36569

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