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5年前のできごと。

もう5年も経つのに、今でも忘れられないできごとがある。

あれは2015年5月下旬のことだった。この日、私はひどく苛立っていた。夕方突然、「明日、仕事で電池を使うから、今から買いに行く」と、夫(当時、彼氏)が言いだしたからだ。

この日は、親友夫婦と久しぶりに食事する約束をしていた。もちろん、夫も知っている。日中、十分に時間があったはずなのに、なんで前もって準備をしないんだろう。そしてなぜ、このタイミングなんだ。考えると、だんだん腹が立ってきた。けれどもそうは言っても、仕事なんだから仕方がない。待ち合わせ時間を確認し、私は夫に「いいけど、急いでね」と、ぶっきらぼうに伝えた。

しかし夫はマイペースな性格なのだ。化粧もせず、せかせか準備している私をよそ目に、のんびりと服を選ぶ夫。

「オシャレする必要ないよ!」
「急いで!って意味分かってんの!」

いつもの私だったら、きっとそんなセリフを吐いている。スイッチが入ったときの私は、次から次に悪口が頭に浮かぶ。だからと言って、勢いのまま言葉をぶつけたりはしない。そんなことしたって、何の解決にもならないのは、頭では分かっていた。

私は、一時的な気持ちを落ち着かせるように、大きくため息をついた。夫は心ばかりか、肩身が狭そうにしていた。

大体こういうときは、不思議とイヤなことは続くものだ。予感はやはり的中した。母が働く電器屋に着くやいなや、夫は「おなかが痛い。トイレに行ってくる」と言って、その場を離れた。また戻ってきたかと思えば、「仕事先の人から電話が入った。ちょっと離れる」と言い、店の外へと出て行く始末。待てど暮らせど夫は戻ってこない。しばらくすると、店内では、閉店を知らせる「蛍の光」が流れはじめた。

もう何がどうなっているんだ。なぜ電池1本買うだけなのに、こんなに時間が掛かるんだ。マイペースにもほどがある。私のイライラと焦りはピークに達していた。

仕事中の母を見つけた私は、「もう徳ちゃん(夫)がーーー!!」と、勢いに任せて話そうとした。けれども母は、私の話をさえぎるように「まぁまぁ。ゆっくり待ってなよ」と私を軽くなだめ、あっけなく、その場から去っていった。母にも話を聞いてもらえない。ムシャクシャする。今日は、なんてついてない日なんだ。

閉店間際。あたりを見渡すと、すでに他のお客さんは誰もいなくなっていた。音楽までも止まってしまった。もう最悪。ネガティブな気持ちを抱いたまま、これから食事をするなんて。いっそのこと、夫を置いて帰ろうかと思ったそのときだった。

「お母さんがお世話になっています」

店長が私に挨拶をしてきたのだ。状況が理解できないまま、しかし外ズラがよい私は笑顔で会釈した。店長はそれだけ言うと、一輪の花を私に渡し、どこかへ行ってしまった。使わなくなった花を閉店作業で回収し、私にくれたんだ。そんなふうに思っていた。今日は変な1日だ。そんなことを考えていると、次々に店員さんがどこからか現れ、一輪の花を渡しては、笑顔で去っていった。

頭の中がまっしろになった。思考停止とはこういうことか。ポカンと口を開けたまま、大きく瞬きをした。

しばらくすると、私の友人、家族、職場のひとがそこにいた。そこで私はようやく気づいた。

「あ…。私、プロポーズされるんだ」

途端に涙が溢れてきた。みんなの優しさと、夫のきもちが嬉しくて、もう涙が止まらなかった。

そのときの動画がこちら。

「プロポーズは豪華な船の上で!」
「フラッシュモブをして欲しい!」

当時私は、ドラマのようなプロポーズに憧れ、よくこんなことを口にしていた。そのことを(泣きながら)思い出していた。夫はそのことを覚えてくれていたんだ。実際このときは、本当にドラマの中にいるような、夢のような時間だった。

1人との出会いが。1日のできごとが。そしてたった一言が。人生を大きく変えることがある。結婚に関心がなかった私を「このひとと一緒に、これからの人生を歩んでいきたい」と変えた瞬間だった。

私は今日に至るまで、この日ほど、幸せな涙を流した日はない。帰宅後、私は夫にガチガミ言ったことを謝り、そして感謝のきもちを伝えた。

あれから5年。夫はあの頃と何も変わらない。そして私も変わらない。

わぁぁーーーー!!が、、、頑張ります!!