阿部雅世×工藤秀之 「ムナーリの本をつくる。日欧の極小出版社がめざす未来」 『ブルーノ・ムナーリのデザイン教本 』(トランスビュー)刊行記念

現地から、スカイプでコッライーニの方とつなぐそうです。これはすごいことだな、と思っています。

本はモノですから、流通させなければ誰の手にも取られない、ということで、流通させやすい形におさめる、というのが一つの本をつくる上で販売上の技術でもあったりもします。それは、現代の大きな流通の中では、「どこも飛び出たり、穴が空いたりしていない、フラットな冊子」という形です。

逆に言えば、そうでない本は、こと流通の現場では嫌煙されます。多くの本を混載して詰めて送るため、超大判であったり三角形だったりするような規格外の本は扱いづらいですし発送効率も悪い。穴が空いていたりデリケートな加工をしている本は、どんなに丁寧に扱っても破れが発生しやすいですし、そのクレームは流通が負うことになります。なにより、一冊の本だけを丁寧に扱うこと自体が、大きく発送作業の効率を下げることになります。これが時には、特殊な運賃を出版社に請求するレベルまでになってしまうことにもなるのですが、ただそれが一概に横暴だったり、流通が出版に理解がないという、(まぁそう感じるケースも事実多いのですが)、ことにはなりません。実際に手間だし、コストもかかるからです。
加えて、出版社自身も、例えばカバーが汚れただけならカバーを変えて再出荷すれば良いのですが、カバーがない本が汚れてしまうとそのままロスにするしかありません。規格外のデザインにチャレンジした本は、それだけリスクがあるのです。

穴の空いた本、大きすぎる本、カバーがない本、バーコードが本体でなく外れやすいオビについている本、そういうものをつくるのは出版と流通においてはチャレンジで、それでもやるんだという勇気と責任を持った人だけがそのハードルを超えてきます。

『空想旅行』と『点と線のひみつ』は、小さな判型にもかかわらず、表紙に精緻な加工(先程の基準だと「穴の空いた本」)が施された本です。
もともと、ムナーリの本自体がイタリアで非常に凝った作品、それは内容だけでなく、本それ自体を手で持ち開くところまで含めてトータルにデザインされたもの、として出版されていて、安易に日本版だからとそのデザインを、読書体験を変更することは難しいそうです。かと言って、日本で売る以上は日本での流通に対応しなければならない。

そういう駆け引きの中で一冊の(今回二冊ですが)本が生まれています。
いま、この形で日本で出版できたのは、大口の流通ではなく、直取引をメインに行っている「トランスビュー」だからなのかもしれない、とか、そもそもイタリア現地ではだれがどのようにつくり、流通させているのか、とか。そういうことを、聞く機会が生まれました。ということで、とても楽しみにしています。



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