物語#12 守護神

この村には古くから伝えられている"伝承"が残っている。
「この村には"守護神"がいる。
村人は定期的に"守護神"に村で穫れた作物を献上しろ。
さすれば"守護神"があるゆる災いから我々を護ってくれる。」


これは僕が"守護神"に出会ってしまった話。

僕はユウタ。大海に囲まれた島々の村、「ムツノ村」で育った、まだ10歳にも満たない子供だ。

僕の出身地であるムツノ村はとても豊かで、澄んだ海からは海産物が多く採れたし、島には広大な森林地帯もある良い村だ。
だが村人たちは森に入ることは出来ない。
なぜなら村の掟で、森に入ることは"禁忌"とされていたからだ。

村長曰く、この村には"守護神"がいるらしい。
そして"守護神"が住む森は、「決して入ってはいけない不可侵な領域」であると。
幼子の頃から、そう厳しく言われてきた村人たちは掟を守り、誰も森に入ろうとはしなかった。

「ユウタよ。この村、いやこの島の森には"守護神"様が住んでおる。森には絶対に入ってはならんぞ。よいか…?絶対にじゃ!!」
僕も昔から子守唄の代わりに、村長の言いつけをひたすら聞きながら育った。
だが僕は、僕の好奇心に勝てず掟を破った。

ある夏の夜。日が沈み、村が寝静まった頃。
僕は家を、村を飛び出した。
そして新しい玩具をねだる子供のような気持ちで、僕は森へと走り出した。

森の奥には何があるのか。"守護神"とは何なのか。僕はこれから確かめる未知に期待を膨らませていた。
だが、まだ幼い子供である僕には森はとても厳しい環境だった。

今宵は満月。月明かりの光があるとは言え、真夜中だ。
空は暗く、前後や上下も分からない程、辺りは漆黒に染まっていた。
気がつくと自分の来た道すらも分からなくなっていた。
「迷子なった」と自覚した瞬間、先程までの威勢はすっかり消え失せ、森への恐怖が思考を埋め尽くし、今にも泣きそうであった。

恐怖で思考停止している頭で何をしたら良いのかを必死に考えていると、僕はある事に気づいた。
森は僕に「これ以上、奥へと進むな。」と警告していた。
だがそれを無視した僕は森によって迷子にされたのだ。
そして僕たちが敬う"守護神"はこの島のキングで、この森はキングを護る要塞であったのだ!と。

「絶対に入ってはいけない不可侵領域だ。」
耳にたこができる程に聞いたはずの村長の言葉。それを僕は森に入って、ようやく理解したのだ。

僕は森の中をがむしゃらに駆け回った。
村へと帰る道を見失った僕は、それしかできることはなかったのだ。
そして僕は昨日の降水の影響でぬかるんでいた地面に足を滑らせ、崖から勢いよく放り投げられて意識を失った。


………。……チョロチョロ。…チョロチョロチョロ。
どこからか聞こえる水の流れる音で、僕はようやく目を覚ました。
僕は地面にうつ伏せに倒れていたが、どこにも傷は無く、痛みも無かった。
とても崖から転落したとは思えない程に五体満足であった。

だが無傷とは言え、身体には力が入らず、立ち上がる事はできなかった。
僕は現在の状況の整理ができず、疑問を浮かべながら顔を上げた。
その次の瞬間、僕はついに"それ"を見た。

そこには大型の鳥類がいたのだ。村が家畜用に飼っている鶏や海辺にいるカモメとは比較にもならない程の大きな身体をしていた。
深い緑色の翼を持ち、凛々しい目と規格外に大きい身体を持つ鳥を見て、きっと守護神様に違いないと思った。
守護神様は僕から少し離れた所から、じっと観察しているかのように僕を見つめていた。

次第に僕の意識は薄れていき、ゆっくりと目を閉じた。


次に僕が目を覚ましたのは、自宅のベッドの上だった。
僕の周りには、心配そうに僕を見下ろしていた多くの村人たちがいた。
どうやら僕は村の入口で倒れていて、村長が発見し保護したらしい。
その後、僕は村人たちに「何か見たのか?」と問われたが「よく覚えてない」と返した。
なぜなら村の人たちに話したら、村長に怒られるのは目に見えているからだ。
そして村長から厳重に注意され、親にも こっ酷く叱られた。

「僕が見たものは夢か幻だったのだろうか。」
僕は村長の監視が厳しく、森へ入れなくなり、
それを確かめる事はできなかった。

そうして、僕のちょっとした好奇心から始まった騒動は幕を閉じた。


        ー守護神ー
古くから島に棲息している大型な鳥類。
ムツノ村が誕生する前から島の森林部に棲息しているので、少なくても寿命は数百年以上。

この個体は本当の神様ではない。
"守護神"というのは、村人たちが尊敬の意を持って付けた敬称で、本来の名称は別にある。

島全体を軽く覆う程の大きさの縄張りを持ち、縄張り意識が非常に高く、縄張りに入った外敵には容赦がない。
だが村人たちは定期的に餌を献上してくれる為、縄張り内で生活することを特別に許可している。

守護神と同じ種族である大型の鳥類は、この島から遠く離れた大陸で群れて棲息している。
この個体は、別種との縄張り争奪戦の最中、群れから はぐれてしまった。

その後、天敵が少ない この島に住み着き、村人たちが敬う"守護神"となっていった。

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