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Design-led research(デザイン主導のリサーチ) / 「課題提起」のデザイン(1)

こんにちは、大です。

本記事では、私が通う Parsons School of Design / Transdisciplinary Design program で学ぶデザインアプローチについてご紹介します。

今回は、Design-led research(デザイン主導のリサーチ)というアプローチについてです。

Design-led research(デザイン主導のリサーチ)とは

これは、Design research という、「デザイン」と「リサーチ(研究)」を組み合わせた学際的なアプローチの系の一つです。「デザイン主導のリサーチ」という言葉のとおり、「リサーチ」が主眼になっており、私が通う Transdisciplinary Design program(以下、TDD)のコアとなるアプローチになります。

「デザイン」というと、グラフィックデザインプロダクトデザインなど、いわゆる「『見た目』のデザイン」を思い浮かべる方も多いと思います(決して、これらのデザインが「見た目」だけを扱っているわけではありません。念のため!)。

また最近では、「デザイン思考」「デザインシンキング」といったキーワードとともに、デザインの方法の一部をデザイン以外の分野で活用するという考え方が広まり、そうしたところからデザインに関心を持つ方も増えているのではと思います(私自身、役所で広報の仕事をしていた際にグラフィックデザインに興味を持つようになり、またちょうど同じ頃に佐宗邦威さんが書かれた「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」を読み、デザインスクールへの留学を意識しはじめました。)。

これらの、いわゆる「『見た目』のデザイン」や「デザイン思考」は、何かの問題や課題を解決する(ことに重きを置いた)「課題解決」のデザインといえると思います。

一方、私が通うTDDでは、問題の解決だけではなく、新たな視点や課題を提起することを重視しており、そのために用いるのがこの Design-led research(以下、DLR)というアプローチになります。その意味で、このアプローチは「課題提起」のデザインといえます。

Design-led research への取り組み方

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ではどのようにしてDLR=デザイン主導のリサーチに取り組むか。

結論から書くと、定式化された方法論はありません。

ここまで、DLRを「アプローチ」として紹介してきました。これは、DLRは、あくまで「デザインによってリサーチを行う」という、デザインへの「取り組み方」であるからです。

そしてTDDの学生には、デザインやデザイン以外の様々な理論、手法を学び、体得する機会が授業の内外で提供され、それらを通じて自身のメソドロジー=方法論を見つけることが求められます。

とはいえ、授業の中でよく用いられる「型」のようなものはあり、学生はそれを出発点にしながら、それぞれの考え方やスキルなどに応じて自分たちのメソドロジーを創り上げていきます。

では、DLRの「型」とはどのようなものか。上述のとおり、授業では「これがDLRの「型」である!」と教えられるわけではないので、私なりの解釈によるご紹介をしたいと思います。

Design-led research の「型」

以下の11のプロセスが、私なりの解釈によるDLRの「型」になります。実際には、この順番通りに進むことはなく、全てのプロセスを必ず行う訳でもありませんが、「基本形」の一つではあると考えています。

1. Start from curiosity  /  好奇心から始める
2. Creative session / 自由に想像・創造する
3. Research question developing / リサーチクエスチョンを考える
4. "How might we" question developing / "How might we" クエスチョンを考える
5. Primary research / 初期調査を行う
6. Hypothesis developing / 仮説を持つ

7. "Dirty" prototyping / 「即席」でプロトタイピングする
8. Quick prototype testing / プロトタイプをテストする
9. Insights analysis / インサイトを分析する
10. Iteration / 反復する
11. Materialization / 「形」にする

以下では、それぞれのプロセスについて簡単に説明していきます。

1. Start from curiosity / 好奇心から始める

TDDの各授業では、具体的なリサーチテーマがあらかじめ与えられることもあれば、学生が自らテーマを選ぶこともあります。いずれの場合も、リサーチの最初の出発点は、それぞれの「〇〇について詳しく調べてみたい」「△△はよくわからないけどおもしろそう」という「好奇心」からスタートします。そのため、同じテーマを与えられても、リサーチの方向性は個人やグループによって全く違うものになります。

2. Creative session / 自由に想像・創造する

リサーチの出発点が決まると、次はその出発点を「膨らませる」ため、Creative session というものを行います。これは、簡単に言うと「アイデア出し」のプロセスで、ここで出てきたアイデアが、次の「リサーチクエスチョン」を考えるベースになります。グループで行うことが多いですが、一人で行う場合もあります。

アイデア出しの方法は色々ありますが、TDDでよく使われるのは "Wheel of reasoning" という方法です(機会があれば、どのような方法かについても他のツールと併せてまとめて書きたいと思います。)。

3. Research question development / リサーチクエスチョンを考える

Creative sessionで出てきたアイデアを踏まえて、リサーチの方向性をガイドするリサーチクエスチョンを考えます。これも決まったルールはありませんが、リサーチの目的、手段、場所をコアの要素にすることが多いです。具体的には、

「この〇〇(=リサーチタイトル)の目的は、△△(=場所)において、××(=リサーチを通して実現したいこと)のために行う」

といったことを文章化します。その際、リサーチの期間、ターゲット、オーディエンスも併せて考えることで、より具体的な内容にすることができます。

ただし、これはあくまでその時点におけるリサーチクエスチョンであり、リサーチを進める中で何度も練り直すことになります。そしてそのプロセスこそが大事であり、最初の段階では「ある程度」のもので進めることが多いです。

4. "How might we" question development / "How might we" クエスチョンを考える

これは、リサーチクエスチョンと裏表の関係にあるもので、TDDでは本当によく使われるフレーズです(教授も生徒も呪文のように"How might we..."と唱えています。)。

リサーチクエスチョンが、クエスチョンと言いながら必ずしも疑問形になっていない一方、この"How might we"クエスチョン(以下、HMWクエスチョン)は、

「どのようにして私たちは〇〇をするか/できるか?」

という問いをストレートに立てます。この〇〇には色々な内容が入ってきますが、「××を解決する」というようなフレーズではなく、

「理解する(understand)」
「促す(encourage)」
「提示する(offer)」

というフレーズが入ることが多いです。

このHMWクエスチョンにもとづいて、以降のプロセスではリサーチの解像度をさらに上げていきます。

5. Primary research / 初期調査を行う

HMWクエスチョン、リサーチクエスチョンを基に、そこから出てきた疑問や必要な情報について、初期調査を行います。この段階では、デスクトップリサーチが中心になることが多いですが、場合によってはインタビューなどを行うこともあります。その際には、(当然ですが)質問を準備したうえで臨みます。

6. Hypothesis development / 仮説を持つ

初期調査がある程度進んできたら、リサーチで得られるであろう「結果」の仮説を考えます。その際には、

「もし〇〇(=リサーチのアウトプットとなるデザインプロジェクト)ということが起こったら、△△(=デザインプロジェクトが世の中に与える影響)ということが起こると私は考える」

といったように、最終的なアウトプットとそれがどのような意味を持つか、について考えます。これも、一度作って終わりではなく、何度も行ったりきたりしながら練り直すことになります。

7. "Dirty" prototyping / 「即席」でプロトタイピングする

初期調査がある程度進んだ、あるいは煮詰まってきたら、それまでに出てきたアイデアを形にするプロトタイピングをします。この段階のプロトタイプは、チーム(あるいは個人)が言葉や文字を使って考えてきたアイデアを「具現化」することが主眼であり、仕上がりのクオリティは重視されません。そのため、使わなくなった紙や新聞などなど、身の回りにあるようなものを使って「即席」で作ります。大学では、一応デザインスクールということで、教室には様々な材料やガラクタ(のようなもの)があるので、それらを自由に使って作ります。

プロトタイピングには色々な効果があると思いますが、個人的には、

メンバーの考えていることのズレを確認すること」
「頭の中でイメージするだけでは気づかなかった点に気づくこと」

が大きいと感じています。

8. Prototype test / プロトタイプをテストする

即席で作ったプロトタイプは、作って終わりではなく、「テスト」をします。近くにいる人を捕まえて感想をもらう、学校の中や外に設置して通りすぎる人の反応を見る、街に出てインタビューする、ワークショップを開くなどなど、様々な形で試し、頭の中や机上のアイデアが現実の世界にどう作用するか、についてのインサイトを得ます。

9. Insights analysis / インサイトを分析する

プロトタイプのテストで得たインサイトをはじめ、これまでのプロセスにおいて生まれた様々なインサイトについて、分析します。この分析の手法も様々ありますが、よく行うのはインサイトの種類ごとに分類しラベリングする「グルーピング」です。

ちなみに、メモとペンさえあれば簡単に行うことができるグルーピングですが、個人的にはこのグルーピングの際に各グループにどういうタイトルをつけるかが、その後のリサーチの質に大きく関わると思います。

10. Iteration / 反復する

ここまでで、リサーチプロセスを一巡したことになりますが、それまでのリサーチで得たインサイトをベースに、このプロセスを反復します(この反復を Iteration と呼んでいます。)。もう一度全てのプロセスを行うというよりは、実際には、必要そうなプロセスを行ったり来たりしながら練り上げていくようなイメージです。

この Iteration こそが、DLRの質をあげるうえで重要だと感じています。Iteration を重ねることで、より包括的、横断的な視点が生まれ、また、新しいアイデアとそれまでのアイデアが結びつくことで全く違うインサイトが生まれるからです。 

11. Materialization / 「形」にする

Iteration を繰り返しながら、最終的には、アイデアをデザインプロジェクトとして「形」にします。TDDでは、この「形」にする行為を materialization と呼んでいますが、その目的は、新たな視点や課題を提起することにあり、どのような「形」となるかは様々です。必ずしも3次元的・物理的なモノだけではなく、動画の場合もあれば、パフォーマンスなどの場合もあります。またプロトタイピングとは異なり、細部にもこだわって創り上げます。クオリティが高いほど、訴えかける力が強くなります。

また、誰にとっての新たな視点となるかを考えるうえで、「オーディエンス(=届けたい相手)は誰か」ということがmaterialization の段階では特に大事になります(それまでのリサーチプロセスで想定しているオーディエンスとは異なるオーディエンスになることもあります)。

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少し長くなりましたが、以上が、私なりの解釈によるDLRの「型」になります。次回の記事では、DLRの実践例として、実際の授業の様子を紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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