【元サッカー選手 早坂良太の自伝:サガン鳥栖②】
【昇格】
苦しい練習に耐え、みんな一丸となり、念願のJ1に昇格することができました。
この年に自分に課していた個人的な目標はシーズン10点。
なんとか、シーズン最終節に達成することができました。
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この昇格を決めた年は、通常のシーズンではありませんでした。シーズン開幕前に東日本大震災が発生し、週末にサッカーの試合があるという日常がなくなりました。
私自身も初めて「サッカーなんてしている場合では無いな」と感じました。
その当時は九州に住んでいたので、日常の生活はそのままなので現実味がありませんでしたが、父の実家が宮城にあり親戚と連絡が取れず心配でした。
震災からの復興をスポーツの力で、ということでJリーグも再開されました。
日程は例年よりも過酷でしたが、チームも個人も結果がついてきます。
ただ過密日程の影響により、自身の身体に異常をきたしだします。
それでも昇格を決めれて人生を変えるチャンスだと言い聞かせ我慢してプレーし続けました。
シーズンの終盤の方はベットから起き上がることも辛く、毎日痛み止めを飲んでいました。
目標であるJ1昇格を達成できましたが、その後自身は4ヶ月休むことになります。この時の復帰に向けたリハビリは精神的にとても辛かったです。
私が発症したグロインペイン症候群というものは、全治というものがありません。人それぞれ症状が違うので、一概に全治が分からないのです。
具体的な目標値がないことに対して努力をすることが苦手なので余計に難しかったです。
休むと痛みが引き、動くとまた痛みが出てくるの繰り返しです。
色々な治療を受けに行ったり、自分で超音波器を購入して毎日ケアしたり身体の動かし方を勉強しに行ったりしました。
人生は常に物事の捉え方と考え方が大切です
この苦しかった時間で身体の奥深さと、一人一人身体にも個性があることを知れたのはとても面白かったです。
この自分の身体と徹底的に向き合った時間が、結果的に35歳まで現役を続けることができ、怪我ではなく自分の意志で引退が決断できるようなサッカー人生につながったと思います。
復帰し、ようやく自分の求めていたJ1の舞台でサッカーができます。対戦相手には日本代表の方やTVでよくみた選手がいます。
苦しいこともありましたが、全てが新鮮で充実した時間を過ごしていました。
当時のチームは、相手よりもハードワークをして、技術で勝てないところを走力でカバーするという考えでした。
地方のお金のないクラブとしての戦い方としては間違っていませんでしたし、このスタイルで強豪を倒すことの充実感もありました。
しかし、相手にも研究されるようになり、徐々にハードワーク以外の武器もプラスアルファしていかないと、継続性は難しいと感じるようになってきました。
でも、上手くいっている時に人は中々変化できません。
ハードワークをするモチベーションを維持することの難しさは自身が一番分かっています。
プロは勝利が全て。
勝つという目標のためだけに、不確定要素を取り除く。
しかし、徐々に自分の中で、腑に落ちない感覚が生まれてきます。
勝つことだけが全ての答えになっていくことに、違和感を感じたのです。
勝つためだったら何をしても良いのか。
昔から、サガン鳥栖を応援していただいていたファンの方はわかると思いますが、その後色々なことが目まぐるしく起き、一緒に戦った仲間や、尊敬する先輩が不本意にチームを離れていきます。
もう1度、自分自身と向き合う必要性をふつふつと感じてきました。
そもそもサッカーって何でやってたんだっけ??
確かに、プロは結果が全てです。では、その結果は試合の勝敗だけなのだろうか。
事実、勝つことによって影響力が増してお客さんも増えました。
私は、地方のお金のないクラブが、全員でハードワークして、強いチームを倒すのがとても好きでした。
サッカーのエリート街道ではない自分を、自己投影していた部分もあるかもしれません。
学生時代は未熟でできなかった、隣にいるチームメイトが、走れず苦しんでいたら代わりに走って助ける。
そうやってみんなで力を合わせて相手を倒してきました。
J2からJ1に昇格し、スタジアムが満員になるようになり、注目度も全国区になり、日本代表に選ばれる選手も出てきました。
ただ自分自身の中の疑問は大きくなってきました。
チームとは何だろうか?選手とは?仲間とは?ファンとは?勝敗とは?良いサッカー、悪いサッカーとは?
【Key word】
価値観、ファン、スポンサー、理想と現実、個人の目標とチームの目標の合致
【あとがき】
もう一つ自分の中で考えさせられる出来事がJ2時代にもありました。
当時J2のホームゲームで負けた試合後に、選手に向かって大きな声で罵倒している人がいました。最初は気になりませんでしたが、見ると隣の小さい子どもが不安そうに罵倒している大人の顔を覗き込んでいます。
この状況ってどういうことだ??何かポジテイブなことを生み出してるか??
この大人はどのような感覚で罵倒しているのだろうか?
そして隣の子どもは、身近な大人に罵倒されているプロを目指すのだろうか?
この出来事と、チームの存在意義の疑問の答えは、グラウンドには無さそうだったので、大学院に学びに行くことを決めました。
スポーツ社会学、特にファン心理、チームを支えている人たちの求めるものを学びにいきました。
Jリーグでは毎年大規模なアンケートをスタジアムでとっています。
そのサマリーは毎年もらって見ていたのですが、アンケートを見ていると6割の人がサッカーをしたことがなく、7割の人がフットサルをしたことがないと書いてありました。(Jリーグ観戦者調査サマリーレポート)
スタジアムに観戦に来る人は何を求めてきているのだろうか?
最近プロ野球はスタジアムを自前で運営しています。
そしてお客さんを入れてしっかり利益を出しています。
ヒントはそこにあるかもしれません。サッカーもそのような流れにならないとチームとして発展しなくなると思います。
大学院は練習の合間に行ける時間は限られていましたが、とても楽しく充実していました。
選手をしながら卒業することを目標にしていましたが、監督の方針により、カリキュラムが組めず途中から休学するしかなくなり、その後移籍を決断したことで退学しました。
自分なりに、この答え探しも再開したいと思っています。
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