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【レポ】『タージマハルの衛兵』公演ガイドツアーin新国立劇場

2019年12月21日新国立劇場 小劇場にて舞台鑑賞者向けに行われた『タージマハルの衛兵』公演ガイドツアーのレポです。

公演ガイドツアーは新国立劇場主催の"演劇の作り手と観客の交流(ざっくり)"を目的としたギャラリー・プロジェクトの一環として公演毎に実施されているトークイベント。

実際の大道具なども交えながら、公演中の劇場にて『タージマハルの衛兵』の公演担当プロデューサーさんから舞台美術の説明や開幕に至るまでの足跡等のお話を伺いました。

※お話の順番などは前後しています。
※記憶とメモを頼りに書いているため話半分でご覧下さい。

『タージマハルの衛兵』の脚本について

2015年6月にオフ・ブロードウェイで発表された『タージマハルの衛兵』はアメリカの劇作家ラジヴ・ジョセフさんが手掛けた二人芝居。

ラジヴ・ジョセフさんは、お父様がインドにルーツのある方だそうです。 ※タージマハルは古いインドの皇帝が后妃のためにつくった墓標

2015年12月に上演された『バグダッド動物園のベンガルタイガー』から新国立劇場さんともご縁のある脚本家さん。

『タージマハルの衛兵』は、17世紀半ばのインドが舞台ですが、言葉づかい自体は街中で今どきの若者が話しているような、簡単な英語で書かれているんだとか。あえて訛りはNGとの注釈有り

日本語への翻訳作業は、2019年7月くらいから成河さんと亀田さんも参加して、演出家の小川絵梨子さん、翻訳の小田島創志さんたちスタッフ・キャスト交えて実施されたそうです(5時間やって5ページ進むかくらいのペース?の時も)※これだけの期間をとって俳優を交えて翻訳作業に取り組めるのは滅多にない事

ラジヴさんが今回書かれた『タージマハルの衛兵』には、どの言葉にも必ず裏の意味があり、それを日本語でどう表現するかが、とても大変だったとか。

例をあげると
・剣が手にくっついて離れない!=この状況から逃れられない!
・(前が)見えてない=物事が見えてない
みたいな隠喩が様々な所に。

一場でバーブルが言った台詞を、違うシーンでフマーユーンがまったく違う意味で言っている箇所などもあり、そういったラジヴさんが戯曲に込めた意図を最大限、汲もうと皆さん、奮闘されたそうです。言葉の音数も、英語からなるべく変わらないように意識されているとか。

「ことぜん」シリーズで上演されるまでの流れ

「ことぜん」シリーズ全体のバランスもあるので、Vol.1の演出家・五戸さん、Vol.2の瀬戸山さんが選んだ演目のライナップをみてから、『タージマハルの衛兵』を上演するかを決定。

上演へ向け動き始める前に演出家の小川さんは「成河さんと亀田さん。どちらかが欠けても上演しない。それくらい、どうしてもこの作品はお二人にやって頂きたい」と思われていたそうです。

お二人にオファーした理由は「(お二人が)天才だから笑」

実力もそうですが、題材や俳優さん同士の相性、声の感じなどのバランスも考えてとのことでした。

稽古場に張られた写真パネル

タージマハルに行ったことが無いスタッフさんが殆どなので、稽古場に大きなパネルを持ち込んで、タージマハルとはなんぞや!彼らのいたジャングルはどんな所だ!というビジュアルの共通イメージを写真で貼って共有していったそうです。皆で持ち寄ったので、もはやどなたが貼ったのかも分かりません笑!とのこと。

※パネルの超ざっくりイメージ

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1・タージマハルの写真

よく私たちが見ているいわゆるタージマハル!な写真や、絶対合成じゃない?と思えるくらい美しい月と共に写るタージマハル、川岸にある引きの写真など、様々なタージマハルのお写真に貼られていました。劇中に出てくる皇帝は後年、息子(三男)に地位を奪われ、幽閉先でタージマハルをみながら亡くなったそうです。

2・ジャングルにいる色とりどりの鳥たち(フラミンゴがいた気がする

3・衣装の設定画

4・「進撃の巨人」のサイズ表
「タージマハル、超大型巨人の60mがサイズが近いです!」というスタッフさんのアイディアの元、タージマハルの大きさを想像できるよう巨人の身長設定が貼ってありました。

5・お二人を支えるスタッフさんみんなの顔写真

あとはメモにはないのですが、稽古に入る前のアイスブレイクに関してのお話もあった気がします。

舞台監督(福本伸生さん)

各分野のプランニングは勿論、専任のスタッフさんがおられるのですが、スタッフ全体の統括的な役割を担うのが舞台監督さん。

普段は暗視カメラの映像などが見られる舞台監督卓に待機されて、開幕時の合図や本番中のきっかけを出したり、上演中に何かトラブルがあった際に最終的な判断を行う責任者的なポジションの方です。

ブタカンと略されるよりは、ブカンさんとかの方が耳馴染みが良いそうです。

手には、血のりの後がうっすらと(小道具の切り落とされた手をたくさん塗っていたので、残っていたらしく

音響(加藤 温さん)

あの客席を巡るような羽音をつくられたのは音響の加藤さん。

小川さんから鳥が羽ばたく音に関して、どうしても奥行きのある形で聴かせたいというオーダーがあり、2時間くらいあった音響単独の仕込みの時に何台ものスピーカーを使って、ずっとこの音の定位を調整されていたとか。

美術(二村周作さん)・照明(松本大介さん)関連

本当はそれぞれ独立したパートなのですが、切っても切れないのでご一緒に。

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当初から演出家の小川さんの中でタージマハルの建物本体は絶対に出さないと決めていたそうです。

さらに劇中の二人はヒラ衛兵なので、きっとメインの門の警備すらさせて貰えていないと考え、端っこの何もないガランとした所の警備をしている設定とのことでした。(多分、ガランとした感じを出すために、照明も二人の登場シーンは、フマ&バブだけが浮かび上がるように他の箇所の明度をかなり落としていたように記憶しています

演出家の小川さんとほかのスタッフたちで、叶えたい理想も踏まえながら具体的なアイディアを出し合い、今回の美術になっていったそうです。

大道具:黒壁

基本的には脚本のト書きを踏襲しているので、「横に壁」と書いてあるなら建てましょう!という事で、実際のタージマハルでも使われているレリーフを用いた黒壁に。

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壁の亀裂は攻撃を受けて来た古い壁である物理的な表現はもちろん、分断などの暗喩も含んでいるんだとか。

大道具:背景幕/照明

小川さんの「闇に吸い込まれていくのをやりたい!」というリクエストを叶えるべく、前から照明を当てると壁にみえ、横から透かすとジャングルにみえる素敵な背景をスタッフさんが制作。

照明プランナーの松本さんも、あの手この手で頑張りました。

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(おそらく光を通す下地の表面にランダムでネット(網)をのせ、ザラザラとした紙か布?と塗料を重ねて土壁っぽい凹凸を出していたのと、葉っぱを模した素材を貼り付けている箇所もあって、透かした際の明度の違いなどで葉っぱが重なったジャングルの森っぽく見せていたんじゃないかなと。)

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大道具:血溜まり

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血溜まりのせりは、電動だと危険&止まった際にリカバリーが利かないため大道具さんが二人がかりで後ろに引っ張ってるそうです(人力)。

血を溜める溝をつくるために、本来の舞台面から少し底上げをして溝をつくっていました。客席からよく見えるように舞台に傾斜をつくると、開場~2場に至るまでの間に血が流れ落ちてしまうので今回は平たく制作されたとのこと。

事前につくったセット上の排水溝だけでは、穴が小さく排水能力に限界があり、劇中で出演者の二人が掃除し切れないことが発覚し、後から改造したそうです。

つかっている血糊はなんと約60リットル!血糊は値が張るのでので、水で薄めたり、一部、バケツに貯めたものを再利用しているとのこと。血の赤を見せるために溝の床面はグレーだったのですが、主演お二人の劇中でのお掃除力がどんどん上がってしまい、掃除が進むにつれグレーの床が露出して来るようになったので、途中から床を赤い塗料で一部塗ったそうです。

舞台下部から照明を差すために客席から見えない所で、一部素材はビニール的なもので透明になっていました。電源系統があるため、防水テープを貼るなどして工夫していたそうです。

テープは漏水時に境目を見るためなのか色付きだったように記憶にしているのですが、今思うとバケツの青色と記憶が混ざっているかもしれないです…(演者さんの集中力を切らさないために普通なら黒色にする気もする

大道具:籠いっぱいの手

ト書きに書いてあるから、出さないといかんでしょう…!と、スタッフみんなで頑張って籠と切り落とされた手をいっぱい作った所、来日した脚本のラジヴさんに「こんなに見たのははじめてだよ!(ワーオ)」と言われて、ズザーッとなったそうです。ラジヴさん!!!!!!海外での上演時は結構、籠はある体で済ませているとか。

籠は購入すると高いので、一部はレンタル品。ただ、レンタル品に汚しを入れる訳にはいかないので、赤い塗料を混ぜた木工用ボンドなどを柔らかいネット(網)に堅めて、それを被せる事で血まみれにみせていたそうです。

切られた手の血はみんなで塗っていたそうで、スタッフさんたちの手(主に爪の間)には赤い塗料のあとが。

血糊の落とし方

スタッフさんの手には赤い塗料のあとがあるのに、劇中で血まみれになったバブとフマの顔から血が綺麗に落ちているのはなぜですか?と質問が飛び、プロデューサーさんから具体的な返答が。

まず「顔の血糊は一回で綺麗に落としたい」との小川さんの希望があり、上演前にヘアメイクさんによるレッスンが設けられたそうです。

2019年10月タイミングで「今日からこの順番で保湿して下さい。本番からやり始めたのでは乾いた皮膚に血糊で染み込みます」と化粧水の使い方からをみっちりレクチャー。

「こんな事やったことない笑」by成河さん・亀田さん

ぷるぷるに保湿した肌へ粉を叩いて皮膚の上に層を作り、その層を洗い流すことでとぅるっと綺麗に落としているんだとか(物理

その様子をみた周りの女性スタッフさんたちも、主演二人にならい肌ケアに気を使い始めたので皆さんお肌がぷるぷるだそうです。

あと、魔法のタオルとメモしてあるので、何か吸水性の高いタオルを使っていらしたんだと思います・・(想像

「海外ではどうされているんですか?」とラジヴさんに尋ねたところ「みんな大変みたい!」との返って来たとか。ラジヴさん!!

大道具:腕切り台

意外に軽い素材で出来ているので、砂袋を入れるなど工夫しつつ、演者さんとスタッフさんに重いていで持って頂いたとのこと。亀田さんの腕切りマジックは企業秘密(的なことをおっしゃっていたような

大道具:いかだ

こちらもせりと同じく二人がかりの手動です!大活躍のネット(網)を利用して葉っぱなどの立体感を出されていました。

「いかだ上の芝居が見えづらい」というフィードバックがあったため、プレビュー公演の後に傾斜をつくって八百屋舞台にしたとのこと。

いかだごとの作り直すのは難しいので、平面の上に△の形にした板を重ねて傾斜を作っているように見えました。

舞台床・袖

暗転時の位置どりのためにたくさんの蓄光テープでバミリ(目印)が思ったよりたくさん貼ってありました。分かりやすいように役割によって貼る形を変えていると思います。

舞台袖にはサイトラインと呼ばれる「この一線を越えると客席からみえるよ!!」という線が引いてありました。きっかけなどをみるためにどうしても皆さん一歩でも前に!となるそうで、目立たせるためなのかかなり太めの線でした。

感想まとめ

上演に至るまでの過程や舞台装置について具体的に知る事が出来て、はちゃめちゃに楽しい時間でした。

こういうイベントのレポって、うろ覚えでかっこ書きした言葉に対して、「さもご本人がおっしゃっているかのように書いているけど、実際はこの言い回しじゃなかったらどうしよう…」「ニュアンスが変わってないかな…」と謎のプレッシャーを感じて(自意識)、中々公開ボタンを押せずにいたのですがテレビ放送もあったので…。

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