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舞台『Oslo(オスロ)』感想(出演:坂本昌行,安蘭けい,福士誠治,河合郁人ほか)

ビックリした。物語の世界に取り込まれて、ものすごく面白かった(小並感

フラットなまなざしで、分かりやすく伝える事の難しさも、素晴らしさも、両方引き受けている”勇気"の貫かれた舞台だった。すごかった。

脚本の世界を舞台上に描き出すあらゆる演出、その時を生きる人間としてそこに在る俳優さんたちの熱演もものすごかった。

坂本昌行さんのテリエ・ラーシェン

最後のシーン、テリエさんがすごかった。

坂本さん演じるテリエさんが観客に語り掛けたあの瞬間、客席と舞台の境目がなくなってた。すごい。うわぁ。

客席・・・空間そのものを巻き込む力が尋常じゃなかった。

その後の物語を、テリエさんたち自身が見届けた上で、全て引き受けて語り掛けて来る感じがして、ただただ圧倒された。

テリエさんが指した先・・・今まで二人が、みんなが歩いて来た長い長い過去の道のりが反転して、最後は未来から差し込む一筋の希望がみえた。すごかった。スタンディングオベーション、わかる。

テリエさんみたいな人って、現実でも中々、スポットライトが当たりづらい人だと思うんですよね。

流れのキッカケを作って、場をセッティングして、粘り強く付き合うって、ものすごく根気がいるし、テリエさんのギブって目には見え辛くて。時に安易に揶揄されてしまうのも少しだけ分かる気がします。みんなの美味しく食べてるトリル飯だって、produced byテリエさん(ファホ研究所)、sponsored byノルウェー外務省ですよ!!(ダンッダンッ

テリエさんは等身大の人間としてそこに在るのが、凄い人じゃなくても変化のキッカケはつくれる!というメッセージのようで、とても愛おしいなぁと。モナさんや誰かを頼る勇気も持った人。

テリエさん実はバランス?在り方?が難しい主人公だと思うんですよ…決して傑物ではなくて、危なっかしい所もありつつ、魅力的で人間味溢れて他の役に負けない主人公としての存在感も必要で……だから初演のテリエさんが坂本さんで本っっっっ当に良かった・・・再演でもまた拝見したい ※まだ千秋楽前

「"君は"そういうの得意だろう」「ノルウェー人根性」「謙虚さを失うと肌がたるむ」とか、デリカシーのない発言がちょこちょこ漏れ出ていた時は、あぁあぁあぁテリエさん…………ってなってました。。(自分もやりがち

それでも憎めないのが本当に凄くて!!!

あとテリエさんがつい口にした差別意識(?)って、それぞれジャンルが綺麗にバラけてるんですよね。

この細かい被せ方って、裏返すと相手の何を尊重するべきかって何らかの規範が、脚本家のロジャースさんや、その周りの方々の中にあるんだろうなぁと。

もちろんテリエさんは平和を祈り、邁進する強い信念だってあるし、他にも小さく素敵な所がたくさんあって。

交渉の館でロビーの準備中、ウイスキーの黒ラベルの追加注文をお願いする時、一瞬、英語がしゃべれるトリルさんの方をみるんだけど、ちゃんとフィンさんに視線を戻して、たぶん簡単な英語とジェスチャー交えてフィンさんに「4ケースくれ」って言ってるのが好きです。

これ目立たないけど、母国語以外で会話する時にめちゃくちゃ大事だと思うんですよ!!!!トリルさんにバトンタッチしたら、フィンさんが透明人間になっちゃうから。

ここでは英語を使う!ってテリエさん自身が決めたルールを守った上で、フィンさんとも対等でいたのかなぁと。

「アメリカのやり方に対して、こっちは2日で大きな成果が出た~」みたいな時の台詞は、大義とは別に、仮説が検証出来た時の学者としての悦びにも聞こえました。

テリエさんが交渉の席から追放されたヒルシュフェルド教授に「上手くいかない事もある」的なトドメの一言を放ってた時は心がざわざわしました。あぁあ、そこは教授を労うか、そっとしておいて・・・。

そしたら、調印式の時にテリエさんも「僕たちの席は?」なんて言ってて、なーんだテリエさんもヒルシュフェルド教授と似た気持ち、少しは持ってるじゃないですか!!!!笑

脚本家のロジャースさん、こういう対比も描くのほんと愛おしい・・・。

でも、ちゃんとモナさんが説明してくれて、側にいてくれて、テリエさんもそうだよな!って空気になるのが、とっても良い。

安蘭けいさんのモナ・ユール

憧れ、理想、そんな言葉がすごく似合う安蘭けいさんのモナさん。

なのにちゃんと地に足ついてるんですよ・・・!(机バンバンッ

安蘭さんのモナさんは静かな闘志を感じるというか、パリッとしているのに、いなして受け止めて、時に打ち返す姿勢がとても美しくて、とっても清々しい。

公私共に愛情を持って支えてくれて、叱ってもくれるなんて最強じゃないですか…!わ、わたしもモナさんのチームに入りたい…!(挙手

なんていうか、アレやってコレやってとてんこ盛りですよね・・・本編を飛び出して、ストーリーテラーまで・・・モナさんに手を取られて、物語の際から、さっとその世界にエスコートして貰えた感じ・・・。

スーパーウーマン(概念)みたいになってしまう所を、そこまで託せる頼もしさが安蘭さんにはあって、器の大きさというか、しなやかさがすごい。

どっしりしてるのにとっても軽やかなモナさんなんですよ・・・さらに柔らかさもあって、人間としても魅力的で・・・なんだもう最強じゃないですか。

ノルウェーの冬の森にアブアラーさんとサヴィールさんが繰り出すシーン、日本語版もそうだったか失念しちゃったんですけど、英語の戯曲を読んでいたらモナさんが「次これ以上近付いたら離婚だからね!!」ってテリエさんを嗜めててめちゃくちゃ笑いました。

ドイツ人夫婦乱入で、どうしようもなくなった空気の後、みんなを叱り飛ばす(?)所とか、もうあんな風に言われたら、やれる事やるしかないな!!!って気持ちに自然とみんななっちゃうから!!(好き

最後のテリエさんが客席に語り掛けるシーン大好きなんですけど、あのシーン、モナさんも客席の向こうを一緒にじっと見つめていて

それが二人で同じものを見据える、この作品で貫いた夫婦の在り方な気がして、とても胸を打ちました。そういう関係性も好き・・・!

あと最初に戻るんですけど、銃を持って向き合う子供のシーンの安蘭さん演じるモナさんの語りが、本当に素晴らしくて。とても目をつぶって聴いても、状況がありありと浮かんで来るような臨場感で、だからこそ少年たちの対比が切なかったです。

エゲランさんとのコンビもむっちゃ良くて同窓生であり、すごくいい仕事仲間で、対等にやり取りする様が凄く心地よかった!

当事者じゃない人たちの中で、一番クビかけて臨んでたのって、この二人だと思うんですよ・・・。そのままガンガン出世してノルウェー政府の重鎮になって欲しい。

もうほんとに軽率なミーハーなのでオセロ観劇の次の日から、踵の高い靴を履き始めました(形から入るタイプ

慣れてなさ過ぎて足音がすごいです。少しだけ背筋は伸びるよ!!!

福士誠治さんのウリ・サヴィール

俳優の福士さんが大好きなので、どうしても長くなってしまうのですが・・・今回も・・・素敵でした・・・!(鳴き声

すごく主観的かつ抽象的な話で申し訳ないのですが、福士さんをはじめて舞台で拝見した時、色んな流派が混ざった不思議な太刀筋の方だなぁと感じて。

舞台に立つ方では珍しいな、と。他の俳優さん達からは、それぞれ咲かせた花の下に育った畑(?)みたいなのが見えた気がしたんですよ・・・。

後から俳優の福士さんが多方面でご活躍の方だと知って、あぁ、福士さんから色んな土の香りがしたのはそれでだったのかと。

だからなのか、美しい芯があるのに何処かファジー・・・、とてもバランスの良いアンバランスさ、みたいな相反する印象が福士さんの表現にはあって、すごく目が離せなかったんです。自分からは、それがとてもユニークな豊かさにみえました。

今回は、その不思議な太刀筋が全然なくて。すごく何というか、在り方がスッとしていて、あぁ、あの福士さんに感じていた色んな要素って、だんだん溶けて、福士さんだけの筋になって行くのかなぁと感じました。

だからサヴィールさんも物凄く好きになってしまった……!!(バンバンッ

役柄が合っているというよりは、作品と他の役への寄り添い方が、特に美しく感じたというか。 ※最新作が代表作であって欲しい個人の見解

バリバリ緊張して、めっちゃ周りを牽制してた所から、他の人と接する中で、サヴィールさん自身も変化して、周りの人との向き合い方も変わっていくのがね………本当にね………好き…!

最初に来たヒルシュフェルド教授たちがすごくフラットな人たちだったから、サヴィールさんがイスラエルの代表で来た時は面食らいました。

それくらい福士さんのサヴィールさんが前半戦からの空気をガラッと変える、オスロのスパイスになっているんですよ…!エキゾチックなBGMと共に颯爽とやって来るのが凄く良かった。

「和平交渉、お前行ってこい」って2日前にいきなり言われて、あの場に立てるサヴィールさんすごくないですか??

2日コースで飛行機の中、周りに資料を見られないようにしながら血眼になって論拠を組み立ててたら大変そうだな……「もっと早く言ってくれ!!!!!」

・・・って思ったんですけど、リアルなサヴィールさんの手記をみたら6日前にエルサレムでペレス外務大臣(私服)からワイングラスを渡されがてら「週末オスロどう?」と告げられたみたいで。良かった!!リアルではもうちょっと準備する猶予あった!!笑

プライベート的な場でオスロ行きを命じるのって親愛なるサヴィールよ・・・と誠意をみせつつ、実質「場合によっては死んでくれ」宣告もしてる気がします。政治家の人って、そういうとこーー!!※政治家に対する偏見

もちろん劇中で提示された情報がすべてなので、2日じゃどうやったって細部は間に合わなくて、ヤケクソであの場に立っててもそれはそれで面白いな………いやイスラエルの人だから、そんな事はないか。

脚本家さんも教科書みたいに正確なものじゃなくて、演劇として良いものがつくりたい(※意訳)的な事を書いていたので、時系列を大胆に変更したのはサヴィールさんを必死にさせるためなのかなぁと。どうなんだろう。

一人プレッシャーを与えられたまま単身乗り込んで来て、徐々にPLOの人たちやテリエさん達と心を通わしてくれるのが凄く良かった・・・。

建国したての国とはいえ、30代でイスラエルの外務事務局長を任されるってことは相当、優秀でリアリストだと思うんですよ。

そんな人が自分の立場からどうしたら良いか、何が出来るかを必死に考えて、「世界を変えよう!」って一幕の最後、年上のアブアラーさんに手を差し出すんですよ・・・めちゃくちゃ熱いじゃないですか・・・。休憩前、一幕を総括するサヴィールさんのセリフ、ものすごく興奮した。

あとお茶目だけど腹を割ってみたら、まるごと良い人!って訳でもなくて、選ぶ話題もアウトそうな所がいっぱいあるのが、すごくリアル。近くにいたら絶対、ハラハラする。

アグレッシブだから、引きの立場にいたテリエさんを物真似合戦(言い方)に引きずり出す訳だし、やっぱり作品における刺激的なスパイスなんだろうなと。

アラファト議長の真似をする時の、決して大仰ではない針の目を縫うような繊細さとテリエさんや他の人たちとの対峙は余りの緊張感で息を呑んだし、この福士さんが他の演者さん達とつくり上げる空気が本当に好き。。。。

ラビン首相に扮したテリエさんに頬を添えられた後、サヴィールさんが力なくその場に片膝をついて、唯一心の柔らかい部分が露わになったような姿が何とも言えなかった。どんな気持ちだったんだろう。

自分でやった事を引き受ける、とても大切な、必要な時間にみえました。

目立たないけど、サヴィールさんの酔っ払いの所作とか、戯けた物真似とか、細かい所も抜群に素敵でした・・・あと色んな国の言葉もすごく良かった・・・仕事出来そうだった・・・(語彙力のなさ

相島さん演じるペレス外務大臣の絶妙なニュアンスを残した物真似再現度、最高じゃないですか…?

アブアラーさんがテリエさんに殴りかかろうとした時に、サヴィールさんは止めに入ろうとせず、だいぶ距離をとって逃げてたから、大胆ではあるけど基本は坂本さんの言う通り怖がりな人でもあるのかなぁと。

シンガーさんが出てきた後は、ちょっと離れた所から、いつでもPLOの人たちとのフォローに入れるように会話へ切り込むタイミングを伺ってたので、ケアの部分も担える人にみえました。

会議中、シンガーさんのこと背中からバーンッて打つ真似してませんでした???なのにドイツ人夫婦乱入の時は、シンガーさんを促して、フォローしてあげてて面白かったです。なんとかする事にめっちゃ懸命~!

ペレス大臣の前では、手を前に閉じてぜんぜん動かないし、ベイリン副大臣に対応を投げてたので、なんかそこの力関係の差は結構、ある気がします。物真似であんなにいじっといて!笑

今回はもーーーーー本当に他のキャストさんたちの声も素晴らしく豊かで、福士さんこの中にどんな感じで入って来るんだろう・・・?と思ったら、本当に!!!音が!!!!素敵で・・・!!!!

すごく言葉のひとつひとつが生き生きとしていて、相手に渡す最後の息まで血の通う音になってた。益岡さんのアブアラーさんとの激論もものすごく鳥肌が立った。すごかった。

気持ちの伝わる言葉の温度とは別に、明瞭な音で届くのがものすごく好きなんです…………いやもちろん自然な発話であることが大前提なんですけど、言葉をそのまま素直に聴けば、その世界に連れて行ってもらえるんですよ…(鳴き声

他の方の感想で、「口跡」って単語を見かけてワクワクしました。知らない概念・・・!いつもと違う客層だから、色んな方の感想が読めて面白かったです。

河合郁人さんのロン・プンダク&ヤン・エゲラン

舞台に立った時の所作が、本っっ当に洗練されて美しかった・・・!!

河合さん、2017/6/2のMステでA.B.C-Zさんが披露した「テレパシーOne!Two!」の、ちょっとおかしい(褒めてる)難易度の全力パフォーマンスが凄すぎて、食い入るように見たのを覚えてます・・・!あれを歌って踊れるアイドルって日本にいたんですね・・・!? いま検索してどこにもPV上がってなくてビックリしたんですけど、アレをみんなが知らないのって人類の損失じゃないですか??(主語が大きい

Mステの時の河合さんの「忍っびっ寄る~~~~!!!」の歌い方が、とっても印象的だったので爪痕も残してくれるパフォーマーさんなイメージ。

河合さんの素敵なところって爪痕も残しつつ、キャッチボールのボールをあえて横にも・・・3人目の人に渡せる所でもあるんだろうなぁと。

相手から振られたものに打ち返す、だけじゃなくて、みんなで面白く出来る方というか。場における軽やかさとホスピタリティがすごい印象です。

今回はその軽やかさやホスピタリティがギュッと詰まったようなお芝居にみえて、とってもチャーミングでした。

教授/准教授コンビは、本当にもうニコニコみちゃいましたよね・・・。二人とも、研究室に紙資料の地層が出来てそう。着るものにそれほど頓着がなくて、髪の毛ボサボサで、カジュアルリュック持ってるの分かる。研究棟の奥にいそうだし、副査を頼んだら快く受けてくれそう…(幻影

どういう経緯で推薦されたのか気になる。ニッコニコしてるけど、彼らだって命がけですよね。何か現状に思うところがあって、この交渉に臨んでいる訳だから、とても勇敢なコンビなんだろうなと。

でも在り方はすごくフラットで、良いほうのアカデミックの人!!!なイメージ。教授/准教授コンビがいなかったら、本当に好きなことしか言わない大人たちの集まりにきっとなってたから……………緊張感のある中の癒しだった………………。

ロンさんが空気を読まずに交渉部屋にドア開けて入ってくとことか最高でした。空気を割れる人大好き!

あと、ロンさんのすごく好きなシーンが、ヒルシュフェルド教授たちが和平交渉の席から追い出された後、「外の空気吸いましょう(?)」ってヒルシュフェルド教授を連れ出してくれたとこー!!

ヒルシュフェルド教授だって、しょうがない事だと心の何処かでは知っているはずで、それでもどうにもならない気持ちに対して、いっとき誰かが誠実であって欲しい。。。

エゲラン外務副大臣は「嘘だろ!!??」がすっごい印象に残っていて、あれ大爆発が起きる「嘘だろ!!??」ですよね。好き~!!

結構、偉い人なはずなのに、テリエさんとモナさんにソファでめっちゃ詰められて可哀想だったし、とっても面白かったです。

一番、関係ないのに危ない橋を一緒に渡って、アメリカ含めた国内外まで気を配ってくれるむちゃくちゃ仕事の出来る良い人だった。

俳優としての河合さん、歳を重ねる毎に違った魅力を魅せてくれることが確約されてそうな方だから、それをリアルタイムで追いかけられる今、河合さん推しの方は本当に幸せだと思います。

ご縁があった時に少し拝見するだけでも、こんなに素敵さがバシバシ伝わって来るんですもん・・・。

全員がメインキャスト級

脇を固める方々…脇というよりもうほぼ全員メインキャストで、役者としてのチャームがどうとか言うより、役として生きる在り方がどなたも美し過ぎました……すごかった………。

会話劇であの尺、まったく集中力切らさず魅せ続けるの、とんでもないことだと思うんですよ。もちろん交渉の合間は、すこし細かくシーンを刻んで緩急をつけたりとか、他にも細かく本の構成や演出の効果もあったとは思うのですが、トロルとトールのお二人までもうほんと誰も隙がなくて。おもしろすぎてビックリした。

特に相島さん!!!!初日!!!!教授とペレス外務大臣、同じ人だって!!!!!!ぜんぜん気づかなかった!!!!!!家に帰ってパンフレットみてビックリした!!!!!

確かに振り返ってみれば、音の痕跡は一緒だった。すごい。

相島さんはVS魂でも、あまりにチャーミングでしたね……あんなに生き生きとバラエティの空気を獲りに行く舞台俳優さんはじめてみました。ミキさん達から投げられたボールを剛速球で返す、百戦錬磨の素敵なおじさまでした。

文学座・青年座・無名塾・新国出身者さんたちの圧倒的フィジカル・メンタル理解・・・・・・・・・役者という生き方が身体になっていた。。。。。。

初日、日本初演で誰も観たことのないお話だから客席の空気もちょっと固かった気がしたんですけど、初速、石田圭祐さんのホルストさんと那須佐代子さんのマリアンヌさん夫婦の響きで、舞台上の空気を客席の端っこまで一気に広げて来てビックリしました。

お二人がぐぐっと柔らかく広げた空気の中に、テリエさんとモナさんの緊張感あるわちゃわちゃがサッと入って来て、電話の所からむちゃくちゃ面白かったです。

そう…那須佐代子さん、すごかった。役の立ち位置的に伏せてらっしゃった気がしたんですけど、その伏せ方のバランスがなにか達人のそれだった。いやその空気は那須さんだけじゃなくて皆さんに感じました。

石田圭祐さんのホルストさんは、親しみ易いけど、政を担う者としての存在感が一線を画していてとても素敵でした。頼れるけど、ちょっと蚊帳の外に置かれた上司感。

横田栄司さんのベイリン副大臣は、変な意味(?)じゃなくてお腹と背中を触ってみたくなるというか、歩く楽器みたいな…トランペットみたいな音色の方。選挙に勝ったらの抜き方、格上げしよう!の差し込み方、もうなんかこっち(客席)もベイリン副大臣に振り回されていた・・・・・・。

益岡 徹さんのアブアラーさんは若い頃はさぞかし浮名を流したのかな・・・それともあしらわれていたのかな・・・女性への踏み込み方が面白かったです。アラファト議長とも少し立ち位置が違いそうですよね。財務担当ならPLOの現状に誰より自覚的な方なんだろうし。パレスチナへの憂いと誇りのある情熱的な人にみえました。

劇中でアブアラーさんがPLO本部に電話してなかった件……あれが本の中で、どう機能しているのかが捕まえられていなくて・・・あの嘘って何処かに繋がっていました・・・?(おそるおそる

石橋徹郎さんのアスフールさんはピュアピュアのピュアでした。あの中で、なんなら教授たち以上にアスフールさんが一番ピュアにみえました。こういう人って過激な先導者が側にいたら、引きずられるか猛反発しちゃいそうだから、ちゃんと現実をみつつ、アスフールさんを尊重してくれるアブアラーさんが側にいてくれて良かった。すごく良いコンビだった。

ピュアだから「パレスチナに何もしてくれない・・・」って嘆きは心からの言葉だと思うんですよ。たぶん市中で火炎瓶を投げずにはおれない人の気持ちに一番近い気がする。

佐川和正さんのシンガーさんはザ・法律家という感じ・・・私の知っている法を運用・・・というかルールを冷静に定義出来る人は、こんな感じのイメージなので、うんうん頷いてました。視座が高くて、その分、冷淡さも何処かあるというか。

ルールを扱う人って自分の正義とは別のまなざしを持っていて、矛盾の抱え方と割り切り具合が凄いなといつも思います。

チョウヨンホさんはアメリカ外交官で「秘密交渉うまくいってるーーー!!?」の一言で笑いをか掻っ攫っていった。すごかった。
「どうも〜!!アメリカのパブリックイメージで〜〜す!!!」みたいな感じだった。すごかった。 ※アメリカに対する偏見

余りに造形が仕上がり過ぎてて、三幕あたりで彼がメインキャラに躍り出ても驚かないよ????

トールさんは、アブアラーさん電話してないよ!って報告するシーンがめちゃくちゃ好きです。各々が自主的に判断して動き始める現場は良い現場!

駒井健介さんのドイツ人彼。オスロ合意だって世界の一大事だけど、新婚旅行だって人生の一大事ですよ!何にも悪くないのに怒られてて、ずいぶん気の毒だった。ものすごく良いホテル取って貰って、夫婦でご機嫌になってて貰いたい……。

吉野実紗さんのスウェーデン担当者は、世界の一大事に何にも知らずに職務を全うする温度感の合ってなさがすごく良かった。フィクションに限りちぐはぐな状況大好き。だって交渉は秘密裏に行われている訳だから、誰も知らないってこういう事だよね・・・って空気が凄く楽しかった。

この調子だと永遠に書けてしまう………ほんとうに皆さんがメインキャストでした!!

脚本・あらゆる演出や道具・俳優さん、オスロ合意のパンフ解説、パックンさん含めた番宣(舞台の宣伝ってなんて言いますか・・・?)的な所まで、ぜんぶ優勝だった。すごかった。

"勇気"が貫かれた脚本

この脚本は、何回も出会い直せる強度を持っていて。

何も知らない状態で観ても人間ドラマとして面白いし、イスラエル・パレスチナ問題の歴史を知ると、より登場人物の気持ちに近づける気がします。

そして「オスロ合意」を俯瞰的に描くことにも、確固たるフラットな姿勢を貫いているようにみえました。

国際問題を扱っているので、フィクションの人間ドラマとして受け止めきれない人もいるかと思うんですけど。

そのまなざしに対しても、確かな手触りを持って交渉の過程を描いていて。

冒頭のテリエさん・ラビン首相に対する評価

1・テリエさんは、すぐ脚色する
2・イスラエルのラビン首相は、他の一面も持っている (正確にはテリエ「相手(ラビンさん)の一面しかみえていないのに、相手のことを分かったつもりになっていた」的な言い回し)

この2つを置くことで、この作品があくまでテリエさんたちの目線で語られた「オスロ合意」の一面を描いたフィクションであることは提示出来ていた気がしたんですけど。

そこでスタンスの表明はたぶん終わってそうなのに、その後も粘り強くリアリティを手放していなくて。

占領(入植)の大義名分を得るためにイスラエル国家の正当性を求め、自治政府は許せても絶対パレスチナ国家認めないマンなイスラエル(議事録に書かないで、オフレコにするとことか)と、自分たちPLOがパレスチナ代表だと内外に示しておきたいボンビーPLO、彼らの占領/被占領の関係性、チラつくヨルダンほかアラブ諸国やアメリカの影とかたくさん………。

"平和を求める人々のドラマ"として成立させるなら、「西岸、ガザ地区からのイスラエル軍の撤退~」とかの、お客さんに分かり易いキャッチーな部分をオスロ合意から切り取って台詞にはめた方が、きっと役者さんたちの負担も少ないはずなのに。

そっちを選ばずに、ちゃんと"平和を求める人々のドラマ""オスロ合意"を描いているのが・・・なんか・・・・・・すごいなぁと(小並感

今まで社会派って言葉の意味がピンと来てなかったんですけど、あぁ、貫かれたこういう姿勢とかが社会派なのかな?って思いました(概念

あと、舞台「オスロ」の中にはパッと見で神さまがいないのも素敵だなって。

海外の戯曲って一神教における"神さま"が当たり前にいる印象なんですけど。今回、その影があんまり見えなくて(私の知らない格言とかに潜んでいたらすみません。ダビデとゴリアテとかは旧約聖書とか絡んでますか・・・?

だからこそ、広く色んな人が観られる、地に足のついた、その時を生きる人間たちのドラマになっていた気がします。

本当に色んな面から取材をされて、そぎ落として、でも大事なものも忍ばせて、広く深く社会に届くように気を配っているのが、少しオスロ合意を調べただけでも伝わって来た気がして、ロ、ロジャースさんと周りの人たち・・・すごい・・・ってなってた。

そして、それを欧米に比べてパレスチナ・イスラエル問題に詳しくない日本でやるスタッフ・キャストの皆さんの粘り強さというか。上村聡史さんの演出もすべてが空気のようにそこに在って、とても美しかった。

さらにこれをキャスティングの力やテレビのメディアを使って、普段、この問題に興味・関心がもしかしたら薄い人間(私も含め)に届けて貰えたのも、本当に素晴らしくて。そんな働きかけも込みで商業演劇の力だと思うんですよ・・・(劇場外の動きも大好きなオタク

このまなざしは、ブラッシュアップの・・・摩擦の中で磨かれる痛みを知る人たちのものなのかなぁと。

それは作品づくりもそうだと思うし、このオスロ合意という一大プロジェクトにだって共通するもので。

良くなかった所も目を瞑らないで見つめて受け止めて、逆に思う所があっても素敵な所は認めて、次に繋げる"勇気"というか。

"勇気"より、もうちょっとハマる言葉があるかもしれないんですけど、私の知っている日本語ではまだ見つかりませんでした・・・。

この作品に貫かれた"勇気"のようなものが、堪らなく好きです。

知ること、やれること

少し触れるだけでも、この問題をちゃんとみるには、アラブ諸国も含めた当事者の立場から時系列で宗教・文化の違い、経済・権利的な利害関係も含めて追ってみないと全容がみえない気がしました・・・(まがお

あと"知る"のが目的になってしまっても、それはちょっと違う気がします…まずは自分たちの足下を頑張れ!って考え方もあるし・・・。

自分に出来る物凄く小さい所では、パレスチナ産のオリーブオイルを買おうかなぁと。商流的にパレスチナへお金が入るかは分かんないですが!

劇中のアブアラーさんがお父さんの話を聴きたくて、嫌いなオリーブを食べてたってエピソード。私はこの譲る感覚って、実はものすごく大事だと思うんですね。傾聴の姿勢と同じくらい。

今って自分のしたい事を優先するのが礼賛されていて、もちろん、それも凄く大事だと思うんです。どうしても譲れないことは、個人では絶対に譲らない方が良い。ただ、それと同じくらい、ちょっと苦手なオリーブに付き合うのも、それはそれで良いんじゃないかなぁと。譲れるところは譲る、というか。(そしてそれは日常生活でも意外にむずかしい・・・

あと、アブアラーさんとお父さんの話しを通して、ちょっとだけパレスチナのオリーブ畑がみえたような気がしたというか。

その風景は、その土地で生まれ育った人たちがいなくなってしまう前に、残して欲しいなと思います。

オスロ合意の知識と思い出

最初はオスロ合意について、全然ピンと来てない&知らなくて、舞台のパンフレットでアラファト議長とラビン首相が握手している写真を見てはじめて、「あ!教科書か参考書で見たことある!」と思い出しました。ビジュアルの力!!!!!

この単元の時に、社会科だったか、世界史だったかの先生から言われたんです。

「憎み合ったり、利害で争っている人たちは、自分たちだけでは引き返せなくなっているから、まったく利害関係のない中立の第三者が間を取り持たないダメなんだ。ぼくは大国や原因を作った国じゃない、小さな島国である日本はそれが出来る思う。僕は君たちにその平和を担って欲しい。」

みたいなことを、特別授業でもない、普段の授業で言われたのがすごく印象に残っていて、先生の名前も覚えていないんですけど、先生の心からの言葉だったんだろうなぁと今になって思います。

先生のこの舞台の感想とか聴いてみたい〜!

舞台「オスロ」と仲良くなりたくて

偶然!中劇場(約1000席)の隣の席が!フォロワーさんでした!!
別々にチケット取ったのにすごい!!!(爆笑

その時、オスロ別日のチケットを譲って頂けたんです。この1回が、この作品にもっと触れる上で物凄く貴重な1回でした・・・!本当に有り難うございます・・・!

基本、分かりやすくて面白いものが大好きなので、普段摂取するのはそっちに寄るんですけど、オスロも、本っっっ当にその姿勢が貫かれていて。

下げて貰った敷居の低さに誘われて、久々にいろいろ読みました。

流れでちょっと話をした国際社会学系(この表現が合っているかすら分からない、ちょっと専攻違うかも)の友だちが

「自分たちや仲の良い国が同じ状況になった時に、どうやって救い・救われるのか。ぶっつけ本番にならないように、一見、関係なさそうにみえる国も、今一緒にこの問題へ向き合うんだよー」

みたいな事を言ってて、みんな・・・色々、考えてるんだね・・・!!!(小並感

○舞台「オスロ」(Kindle)
英文戯曲がKindleで買える時代最高~!他の演目でもどんどんやって欲しい。劇中の台詞と機械翻訳を照らし合わせてギリギリ読めそうな気がしました。英語以外の外国語(フランス語、アラビア語、ヘブライ語、ノルウェー語)で何を言っていたかや、翻訳時に言い回しを変えている所がちょこちょこあって面白かったです。

○ウリ・サヴィールさんの手記(Kindle)
リアルサヴィールさんと他の人たちの微笑ましいエピソードも収録!もうすこし・・・英語の授業を・・・がんばってたらよかったなと・・・おもいました・・・(今後の自分に期待

○NHK「中東解体新書」
今のエルサレム・パレスチナの関係を知るのにとても助けられました。NHKエルサレム支局長・澤畑剛さんや曽我太一さんによる誠実で切実なまなざしのレポート。

○オスロ合意から20年 : パレスチナ/イスラエルの変容と課題
とても長いのですが、オスロ合意の検証を様々な視点から日本人がやった凄く読み応えがある文書。これを読むと解像度が一気に上がると思います(ちょっと何処にリンクを貼って良いか分からなかったのでCiNiiのDBに・・・

あとネットの記事をちょこちょこ。それから、PLO側からオスロ合意について書いた文章もあるそうなので、探してみても面白いかもです。

本当に面白くて素敵な舞台だった………有難うございました……。

残り2日、千秋楽も含めた残り公演のご成功をお祈りしております。

* *
[追記] サヴィール役の福士誠治さんが3/14に新曲を出されたので宜しければ、ほか界隈の方もぜひ・・・!!!


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