【ニュースチェック】非現実的な目標設定を強いるなかれ 西浦教授のインタビューを読んで

「飲食店の制限だけでは1ヶ月で感染者は減らない」 8割おじさんが厚労省“非公開”のシミュレーションを公開(2021/1/5・BuzzFeed Japan)へのコメント(Yahoo!オーサーコメントに大幅加筆)

8割おじさんこと、西浦博教授のインタビュー記事。コロナ禍におけるBuzzFeed Medical岩永記者の精力的な仕事ぶりには敬服し、多くの記事で勉強させていただきましたが、今回の記事は看過できない問題があり、影響が小さくないだけに指摘しておこうと思います。

第一に、西浦教授は「目標とするのを東京都がステージ2相当、つまり、1日の新規感染者の報告数が2桁になるのをゴールとします」と語っていますが、あまりに要求度の高すぎる目標設定だと思います。この記事のタイトル「飲食店の制限だけでは1ヶ月で感染者は減らない」は、この非現実的な目標を前提としていることに注意が必要です。

現在の東京都の新規陽性者は1日900人程度(7日平均)ですが、西浦教授のいう「1日100人未満」というのは昨春の緊急事態宣言の解除直後の1ヶ月余り(5月中旬〜6月下旬)の状況です(*)。つまり西浦教授は、7月以降に東京都で達成したことのない水準にまで戻す、ということを意味しています。現在のレベルからそこまで戻そうとすれば、昨春並みの厳しい自粛を2〜3ヶ月しても達成できそうにないことは(昨春の宣言下のピークは現在の4分の1以下の1日200人弱)、わざわざ「数理モデル」を駆使せずとも直感的にわかるのではないでしょうか。

そもそも「1日100人未満」にまで引き下げないといけない理由が不明であり、その点を問いただし、より緩やかな目標設定の可能性も検討させるべきでした。昨夏は1日300〜400人で医療崩壊は起きず、社会経済活動も一定程度回復しました。改めて詳しく指摘しますが、入院対象外の軽症者が入院者の過半を占めている状況や、コロナ受け入れ医療キャパシティが少なすぎる現状を改善すれば(本来は冬の前になすべきことを怠った疑いあり)、昨夏のレベルかそれを少々超えても、社会的に耐えられるはずなのです。

第二に、西浦教授は、インタビュー(後編)の最後で、「一般の人に言いたいことは」と問われて「緊急事態宣言で感染症の流行を下げるのは、本質的に痛みを伴うことです。かと言って、無意味にたくさんの痛みを感じる必要はない。2ヶ月ぐらいかかると思いますが、妥協せずにやらないと、さらに長くなります…」と答えているところです。

あまりこういうことは言いたくないのですが、特に「無意味にたくさんの痛みを感じる必要はない」という発言に、過度な自粛により、病気という不可抗力とは無関係なところで、生死を彷徨い命を絶ったであろう人への想いが全く感じられませんでした。その発言も即座に真意を問うべきでした。

第三に、そもそも昨春に多大な影響を与えた西浦教授の発表の問題点について検証しておらず、問いただしていません。この点は長くなるので、改めて機会があれば取り上げたいと思います。

(*) 5月中旬〜6月下旬当時はPCR検査数が今よりかなり少なかったことを考慮すれば、実際はもっと高い感染状況だったかもしれません。

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