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(提言)2028年東京都知事選に向けて「予備選」を

2024年の東京都知事選挙も、事前に予測されたとおり、現職の小池百合子氏が3選を確実にした。このままでは、小池都政の4期目もあり得る。それが望ましくないと考えるなら、4年後の都知事選に向けて、強い候補者を擁立するための「予備選挙」の実施を検討すべきではないか。

現状の問題点と「予備選挙」のアイデア、メリットを説明する。(更新あり)


現職の都知事は不敗

第一に、東京都知事は戦後、現職として立候補した知事選挙では一度も負けたことがない。都知事選は、現職が圧倒的に有利である。

都知事選挙は今回を含めて計22回行われたが、うち現職が立候補した13回中13回とも現職が当選している。

都知事選挙に限らない。人口500万人超の9都道府県の知事選挙で、今世紀に入ってから現職は一度も負けたことがない。36戦36勝である。知事職は多選化=既得権化しやすい。

筆者作成

東京都は乱立しがち

第二に、東京都は首都で注目を集めやすいため、候補者が乱立して票が分散しがちだ。他府県での立候補者数は一桁台だが、東京都だけは二桁台で推移し、近年は異様に急増している。

わずか17日間の選挙戦で、いわゆる泡沫候補がメディアの注目を引けば、報道の時間がそこに注がれ、1位・2位を争う新人候補者に割かれる時間が減ってしまう。有力候補が何人も出てくると票が分散する。

候補者の乱立は、現職と争う新人候補者にとって不利な要素となる。

筆者作成

選挙期間が短すぎる

第三に、新人が立候補予定の発表を早めにしたとしても、当選を目的とした「選挙運動」はわずか17日間しかできない。現職が圧倒的有利の中で、この短い選挙期間も、新人候補者にとって不利な要素である。

しかも期日前投票は、告示日の翌日から行われる。すべての有権者が17日間の選挙期間を踏まえて投票するわけではない。

東京都は人口1400万人、年間予算16兆円に上る巨大都市だ。東京都の人口はEU加盟27か国のうち9位の規模である。そのトップの知事は任期4年で、国家で言えば「大統領」に相当する。その公職者を、こんなに短期間で決めるということに無理があるのではないか。

強い現職に対する強い対抗馬を擁立するには

現職の都知事は負けたことがない。候補者が乱立し、準備期間も選挙期間も非常に短い。そのため、現職が自分から辞めると言わない限り、かなり高確率で、知事職を続けられる結果となる。

現職が再選を目指そうとする選挙では、強い対抗馬を擁立しなければ、まともな戦いにならない。有力な対抗馬を一本化できれば勝算が高まるが、有力な対抗馬が複数いれば票が分散し、現職がますます有利になる。国政選挙の小選挙区で、与党に対抗する野党統一候補を立てられるかどうかで勝算が変わるのと同じである。

つまり、「強い対抗馬は誰か、どのように立てるか」をめぐる本選挙前の競争が、決定的に重要となる。

仮に、現職が立候補せず、新人どうしの争いになったとしても、この本選挙前の競争(予備選挙)は非常に意味を持つ。政策論議により時間をかけられるからだ。

従来の都知事選で新人どうしの争いとなった場合は、知名度で左右されがちだった。知名度とイメージ重視で、政策は二の次、三の次となる。

これで日本の首都のリーダー(=大統領職)が決まってしまう。今後もこのような都知事選を続けてよいのか、問われなければならない。

以下に提案する「予備選」は、現行の法制度の枠内で、本選挙前に、時間をかけてより良いリーダーを生み育てるための「競争」システムである。

(1)都議会の会派が公認候補者を擁立する「予備選挙」

本選挙に立候補しようとする者は、まず会派内で複数の候補者による「予備選挙」を経て、公認候補となることを目指すべきである。

都議会には、会派が多数ある(現在は6つ)。

・東京都議会自由民主党(28人)
・都民ファーストの会 東京都議団(25人)
・都議会公明党(23人)
・日本共産党東京都議会議員団(19人)
・東京都議会立憲民主党(15人)
・ミライ会議(4人)
現員118人、現員の過半数60人(定員127人)

なぜ「会派の公認候補」を目指すべきなのか。

直接選挙で選ばれる知事といえども、議会の協力が必要不可欠だからである(地方自治法96条)。知事には、自由に地方議会を解散する権限がない(小池氏は2016年の初出馬時に都議会「冒頭解散」を公約に掲げたが、そのような権限は知事になく、解散などできなかった)。

議会多数派の協力を得られる候補が当選すれば、掲げた政策を実現できる可能性が高い。

一方、議会多数派の協力が得られる見込みのない候補が当選した場合、自ら進めたい政策を実現できる見込みは低い。議会多数派と妥協しながらの運営を余儀なくされる可能性が高い。

議会との「ねじれ」が政策遂行に支障をきたす場合は「議会の多数派形成」という政治課題を背負い、その力量も問われることになる(当初、都議会自民党と対決姿勢を示した小池氏が、初当選後に「都民ファーストの会」を結成したことは周知のとおり)。

(2)本選挙前に公認候補者どうしの討論会と世論調査を実施

各会派の都議会議員や会派が投票権を与えた有権者の選考を踏まえ、会派の公認候補者を決める。その後、公認候補者どうしで討論会等を何度も行い、「なぜ現職よりも、自分の方が次期知事にふさわしいのか」をめぐる議論を重ねる。そして、討論会をするたびに、現職と公認候補者の支持率調査を行う。

このプロセスに参加することで、候補者は知名度を高め、政策をブラッシュアップするチャンスがある。

公職選挙法上、事前運動は禁止されているが、予備選挙はあくまで「会派内公認候補」に選ばれるための競争という形を取るので、「選挙運動」とはならない。

本選挙前に、複数の会派が連合して統一公認候補を擁立することも妨げられない。現職に対抗できる最有力の対抗馬に一本化する交渉もありうる。

現職が立候補しなければ、公認候補者どうしの争いを本選挙で行えばよい。

(3)本選挙

もちろん、既存会派の公認を得られなかった、もしくは予備選挙に最初から参加しなかったからといって、本選挙に出馬できなくなるわけではない。公職選挙法上、立候補の自由はある。

ただし、予備選挙に参加したか、そこで勝ち残ったかどうかで、知名度も政治的力量も、かなり差がついていることは明らかである。

そのため、本選挙は、現職と公認候補者の争いをメインとするのは当然である。現職が辞退すれば、公認候補者どうしの争いがメインとなる。

現状は、主要メディアが当初から恣意的に有力候補者を絞り込んだ報道を行っているが、公平性の観点からよろしくない。

予備選が実施されれば、予備選の結果を踏まえて、現職と公認候補者に絞り込んだ報道を行うことになる。


2028年東京都知事選挙の予備選挙のイメージ

① 2024年:都議会の会派が2028年都知事選で予備選挙実施に向けて協議を行い、骨格を発表する
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② 2025年:都議会選挙(予備選挙を実施する主体となる会派の形成)
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③ 2026〜27年:都議会各会派が「都知事選の模擬的予備選挙」の立候補者を募集し、模擬選挙を試行。予備選挙実施方法の詳細を定める
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④ 都議会各会派が「都知事選の予備選挙」の立候補者を募集
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⑤ 2028年:各会派内で討論会、世論調査を経て予備選挙を実施し、公認候補者を決定
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⑥ 公認候補者どうしの討論会、世論調査を実施し、現職の再出馬に備えて統一対抗候補擁立のための「第二次予備選挙」を実施し、統一候補擁立協定。
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⑦ 2028年夏の都知事選挙:現職が出馬する場合は統一候補が届け出をし、現職が出馬しない場合は各公認候補が届け出をして、17日間の本選挙を戦う。


時間をかけて候補者を擁立することのメリット

予備選挙の最大のメリットは、現職と対抗するための政策論議、人物評価、身体検査を時間をかけて行えるようになる、という点にある。今のわずか17日間の選挙戦よりも、質の良い候補者を生み出す可能性が高まるはずだ。

予備選挙立候補者の負担は、予備選挙と本選挙という長い戦いで増えることになるが、費用はさほど増えないはずだ。本選挙前は、選挙カーやポスターは使えない(政治運動としてなら可能だが)。討論会などの予備選挙実施費用を賄うために予備選挙参加費は徴収してもよいと思うが、供託金(300万円)よりはるかに低い金額に抑えられるだろう。

現職が次期選挙に出ない意向を示さない限り、都議会与党が予備選挙を行うとは考えられない。まずは、都議会野党による取り組みが期待される。

予備選は、都議会選挙への関心を高めることにつながるはずだ。従来、4年に一度の知事選はそれなりに(一過性の)関心を集めてきたが、議会選への関心は非常に低かった。

だが、知事選の予備選挙を実施することになれば、議会の会派の重要性が再認識させられることになる。会派(2人以上の議席)がなければ予備選挙は実施できない。自ら会派を作って公認候補になるのであれば、事前に都議会選で2人以上の議席を獲得することが必要となる

2028年都知事選に向けては、2025年7月に任期満了を迎える都議会選挙が焦点となる。わずか1年後である。

予備選挙にもいろいろな形態がある。アメリカでは州知事の予備選挙が行われている。台湾では、台北市長選挙で党内予備選挙が行われている。参考にできるところは参考にしつつ、日本独自の予備選挙システムが形成されればよい。

いずれにしても、ここで提案したような予備選挙は、法整備をしなくても、その気になれば実施可能である。

民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去の他のすべての政治形態を除いては」という格言がある。民主主義の制度は色々と欠陥がある。

この避けられない政治形態のもとで、いつまでも「突如として現れた立候補者から、短期間で代表者を選出する」ということだけ続けていては、どんどん腐っていく一方ではないか。

少しでもマシな政治社会を作るために、「選ぶに値する立候補者を生み育てる」ための制度を構想するときが来ているのではないだろうか。これはその一つの案であり、叩き台である。

筆者作成

関連記事(7月9日)

以下のYahoo!に寄稿した記事では、メディアが多数の候補者から「主要候補」を恣意的に選び出してしまう問題点や、主要国の自治体首長選挙でも何ヶ月も前から予備選が行われていることに重点をおいた。「提言」の中身そのものはほぼ同じである。


以下に、この構想についての疑問点や質問点について、若干の私見を追記し、随身更新する。

Q&A(7月10日更新)

(★印は直近の更新)

Q. 予備選挙の予算と誰がやるのかのリソースは?税金を使うのか?

A. 予備選挙に賛同し、次の知事選で候補を擁立したいと考える複数の会派が「予備選挙準備委員会」のようなものを作り、費用負担を含む実施要綱を定めることが考えられる。

 予備選挙の実行主体に、都民や有識者も参加できる形が望ましい。

 あくまで「会派の公認候補者」を選ぶための「政治活動」なので、公費(税金)を使って行うものではない。

Q. 都知事選挙に立候補するには党に所属しなければならないのか?

A. 本選挙は、政党・会派に属しなくても、被選挙権があれば誰でも立候補できる。
 予備選挙を導入したとしても、本選挙での無所属の立候補が妨げられるものではない。

 都議会の会派が、予備選の候補者を募集する際に「政党・政治団体への所属」を条件とするかどうかは、それぞれの会派が決めればよいと考える。
 一般に知事職は、政党・会派に所属する必要はない(行政のトップに就けば政党などの政治団体からは離れた方が望ましいとの考えもある)。
 会派の予備選に参加する条件も、会派の基本的な考えや方針に賛同するかどうか、といった緩いものでよいとも考えられる。いずれにせよ、募集条件は会派の考え次第である。

 ただ「会派の公認候補者」というと「党員」であることが条件であるとの誤解が生じるかもしれないので「会派の推薦候補者」と言った方がいいかもしれない。

 いずれの既存会派からも支持を受けるつもりはないが、本選挙に立候補したい場合は、
 ①新たな都議会の会派を作った上で、予備選挙に参加し、本選挙を目指す(予備選挙を通じて知名度を高め、本選挙でも報道で優遇される)
 ②予備選挙には参加せず、いきなり本選挙(17日間)だけ戦う
のいずれかを選択することになる。
 ①の選択肢を取る場合、
 (a)選挙で新たに議員を当選させて会派を作る方法
 (b)無所属議員に働きかけて新たな会派を作ってもらう方法
が考えられる。

Q. 無所属でも予備選挙に参加できるようにできないか?

A. 予備選挙の目的は、最終的に本選挙で戦うに値する候補者を擁立することにあり、「擁立の主体」となるべきものが必要である。

 知事と議会のいずれも直接選挙で選出し、両者がそれぞれ地方自治の役割を分担する「二元代表制」の理念や現実を踏まえると、「都議会の会派」が「擁立主体」としてふさわしいのではないかと、現時点では考えている。

 無所属が参加する予備選挙は「擁立主体」を想定しにくい。無所属の候補者だけが集まって、予備選挙の勝者を決めることを目的としたグループを作り、本選挙前に競い合うということは考えられるかもしれない。
 ただ、会派が公認候補者を一本化する目的で予備選を行うのとは異なり、個性的な候補者が多いと思われる無所属の候補者は一本化を目的としない予備選になるのではないかと考えられる。それはそれで意義のあることだと考えれば、行うのは自由である(主要国の多くで予備選は政党単位で行われており、無所属の候補者が集まって予備選を行う例があるのかどうかは知らない)。

Q. なぜ「都議会の会派」にこだわるのか?他の擁立主体を認めてもよいのでは?

 「都議会の会派」を軸にした予備選挙構想は、都民有権者の選挙を経て形成された政治集団であり民主的な正当性があることや、知事の都政運営では都議会の協力が必要になること、都議会や会派への関心を高めるという副次的効果、候補者の本気度を試すという狙い、候補者の乱立を防ぐという意味もある。

 会派以外の「擁立主体」として、国政政党、政治団体、市民団体なども理論上は想定できないわけではないが、乱立して、ややこしくなる恐れがある。

 また「擁立主体の公認・推薦を得るための競争」という建前を維持できなくなり、公職選挙法が禁止している「事前運動」とみなされてしまう恐れがある。

Q. すべての会派が予備選挙を実施しないといけないのか?

A. その必要はないと考える。なぜなら、予備選挙は、次回の都知事選挙で、現職の対抗馬を選抜、擁立したいと考えている会派が実施するものだから。

 実際に予備選挙を実施することが想定される会派は、都議会の野党会派のうち一部と考えられる。

Q. 現職(小池知事)が今期限りとし、次回選挙は立候補しないと表明したら予備選挙は行わないことになるのか?★

A. 現職が立候補しない場合は、本選で圧倒的に有利な現職への強力な対抗馬を擁立するという目的はなくなり、新人候補者どうしの争いとなるが、それでも予備選挙を実施する意義は軽減しない。現職が立候補しようがしまいが、予備選挙は実施した方が望ましいと考える。

 この場合は、現職の知事を支持してきた都議会の与党会派も、予備選を行う可能性があるし、そうした方が望ましい。
 そうなれば、与党会派と野党会派のそれぞれにおいて、誰が本選挙の候補者としてふさわしいか、同時並行的に競争的に選出するプロセスを、有権者の前で展開することになる。
 アメリカ大統領選挙で、共和党と民主党がそれぞれの候補者を予備選挙で選ぶのと同様に(日本ではあまり馴染みがないが、州知事選挙でも予備選挙が行われている)、都知事選挙も、与党会派と野党会派がそれぞれ予備選挙で時間をかけて候補者を選び抜き、本選挙で「最終決戦」を行うとよいだろう。

(7月10日Q&A更新)

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