【検証コロナ禍】新設される「まん延防止等重点措置」の本質は「ミニ緊急事態宣言」 しかも現行法より制限強化
政府が提出した新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が、立憲民主党との修正合意(1月28日)を経て、今日2月1日に衆議院で可決、参議院に送られ、3日にも成立する見通しと報じられている。(冒頭写真は、衆議院で採決された修正案)
新設される「まん延防止等重点措置」は、国民の権利制限という面でみると「緊急事態措置」と実質的な違いがほとんどなく、その本質は「ミニ緊急事態宣言」である。
しかも、この「ミニ緊急事態宣言」は、現行法の緊急事態宣言より強力な制限を伴う。今後、緊急事態宣言が解除されても、事実上、緊急事態宣言下と同じ状況が続くことになる。
このことは、修正合意でも何ら変わっていない。
以下では「まん延防止等重点措置」という(官僚が目くらましのために編み出したのであろう)分かりにくい名称を、時々「ミニ緊急事態宣言」と置き換えることがある。理由もきちんと説明するので、ご理解いただきたい。
「ミニ緊急事態宣言」でも罰則が導入され、従来の適法行為が違法化される
最も重要なポイントは、事業者に対する休業・時短要請に関する罰則規定が、法改正で「緊急事態措置」だけでなく「まん延防止等重点措置」にも設けられる、という点だ。
両者の違いを分かりやすく整理すると、次のようになる。
改正後の「新たな緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」は、ほとんど違いがないことがわかるだろう。
従来の「要請」に従わなくても合法的に営業できる状態が消滅し、過料が科される可能性のある違法行為となる点では、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も全く同じでなる。
まん延防止等重点措置を「ミニ緊急事態宣言」と名付けるほかないゆえんだ。
修正合意で、過料の上限が緊急事態宣言で30万円(元は50万円)、まん延防止等重点措置で20万円(元は30万円)となったが、そんな違いははっきり言って全く無意味だ。
唯一、違いがあるとすれば、緊急事態措置で可能な「施設の使用制限・停止」等の要請(命令)が、「まん延防止等重点措置」の規定には明記されていない点である。
明記されていないということは、そのような権限を付与してしないと理解するのが普通である。
だが、事はそう単純ではない。
「ミニ緊急事態宣言」下の知事への授権範囲が不明確
実は、法律上、知事がどこまで事業活動や人々の行動を制限できるかについて明確に書かれていない。
現行の特措法では、緊急事態宣言下で知事が要請できることを、次のように定めている。
特定都道府県知事は、(・・・)当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(45条2項)
法律ではなく、政府が一方的に内容を変更できる「政令」で制限できる措置の内容を決められることになっている。
この条文は、改正法でもほとんど変更されない。
問題は、改正で新設される「まん延防止等重点措置」の規定である。次のようになっている。
都道府県知事は、(・・・)営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。(改正法31条の6第1項)
規定の仕方の違いがわかるであろうか。
緊急事態措置の条文では、「施設使用または催物開催の制限・停止」と具体例を挙げた後すぐに「その他政令で定める措置」と規定している。
他方、まん延防止等重点措置の条文では、具体例として「営業時間の変更」を挙げた後すぐに「その他政令で定める措置」と規定していない。
「営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置」の後に「政令で定める措置」と規定しているのである。
すなわち、改正法は、「営業時間の変更」(いわゆる時短要請)だけでなく、「まん延を防止するために必要な措置」という、いかようにでも拡大解釈できそうな漠然とした内容の権限を、政府が(国会の審議を仰がずに一方的に)政令で定めてよい、という内容になっているのだ。
もちろん、理屈上は、政令で定める内容は、法律が委任している範囲を超えてはならない。
だが、「法律が委任している範囲」が条文上、明確でないのだ。
法律が委任している範囲を解釈するにあたっては、特措法第1条の「国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるように」と第5条の「制限は…必要最小限でなければならない」というの趣旨を踏まなければならない、ということは何度強調しても強調しすぎることはない。
「休業要請」と「時短要請」の間に本質的な違いはあるのか
そもそも、改正法で、まん延防止等重点措置で要請(命令)ができることと明記される「営業時間の変更」は、一見すると、緊急事態宣言で可能な「施設の使用停止」=「休業」より制限の程度が弱いと見えるが、果たしてそうだろうか。
現在、緊急事態宣言の対象地域では、飲食店の午後8時以降の営業自粛が要請されている(現行法ではあくまで要請であり、従わずに午後8時以降営業しても違法ではない)。
緊急事態宣言の解除後、まん延防止等重点措置に移行し、同様に午後8時以降の営業自粛が要請(命令)できるようになると、どうなるか。
午後8時以降の営業での売り上げが大半の店は、実質的に休業要請(命令)されているのと同じことになるのではないか。
2月1日の衆議院内閣委員会の質疑で、西村康稔コロナ担当相は、まん延防止等重点措置における知事の権限を定める政令に「休業要請」を含めることは「できない」と断定した(山尾志桜里議員の質問)。
政府として、緊急事態宣言でできることと、まん延防止等重点措置でできることには、質的な違いがあると強調しておきたかったのだろう。
国会答弁であるから重みはあるが、「まん延を防止するために必要な措置」という漠然とした文言になっているがゆえに「営業時間短縮」にとどまらない強い権限が付与される可能性は否定できない。
何より「営業時間短縮」=「休業」を意味する店が少なからずある、という点を見過ごすべきでない。
現在、要請に応じていては経営が成り立たないと考え、従わずに午後8時以降も営業している店もあるが、この法改正後に時短要請がなされれば「違法」となる。
時短要請に応じてもダメージが少ない事業者もあるだろうが、甚大なダメージを被る事業者もある。
にもかかわらず、要請に応じずに営業を続ける選択肢を奪われた事業者には、損失を補償を請求する権利は与えられない。
何らかの支援はするといっても、どの程度の支援を行うかは政府・自治体が政策的に判断することで、十分な補償が得られるとの「保証」はない。
特措法改正案は、「補償の保証」なき「強制力を伴う緊急事態措置/ミニ緊急事態措置」の創設を可能とするだけでない。
緊急事態措置/ミニ緊急事態措置を解除する「出口」の見通しが現在以上に見えづらくなり、この権利制限状態を長期化・慢性化させる危険がある。
そのことを次に明らかにしたい。
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