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走る実験室はエンジニアにとっては成長できる精神と時の部屋でもある

こんにちは、山下です。
国内外での経験を含めればモータースポーツ業界で働いた期間は7年になりました。個人的には、この業界はエンジニアとして働く場合は非常に良い環境だと思っています。今回は量産開発とモータースポーツ業界での開発を比べながらいくつかのメリットを紹介します。

読み返して思いましたが、個人的にこの業界が好きなのでモータースポーツ寄りの意見になっています。量産開発にも良いことは沢山ありますので、参考情報として捉えてもらえると助かります。

(1) 車両技術の広い範囲を仕事に出来る

自動車メーカ、部品メーカの量産開発に比べ、モータースポーツの場合は人員リソースが圧倒的に少ないです。例えばブレーキシステムの一部であるESCシステム(横滑り防止装置)の担当であれば、他部門との調整などはありますが基本的にはESCを深く極めることになります。

また、大手メーカの場合は設計部隊と評価部隊は分かれていることも多いです。部門移動などもありますが、どうしても学べる知識の幅は狭くなります。

しかし、モータースポーツの場合は人員が圧倒的に少ないため、守備範囲がどうしても広くなる傾向にあります。例えば現職のデータエンジニアであれば車両を組み上げる段階での電装システム全体の確認、ダンパーセンサ等の各種最適化、試験走行データ解析まで全て担当することが出来ます。

僕の経験ベースでは、設計と評価に関してもモータースポーツでは、同じ担当者がやることが殆どです。設計と評価を共に行うと、自分の考えた設計で不十分な点に気づけるためエンジニアとしてはとても良い経験になります。
(但し、設計者が評価まで行うと視点が偏るため、技術的には最適な方法とは言えません)。

結果的にモータースポーツ業界では車両全般の知識が身につきやすいです。

(2) 開発サイクルが短い

隔週でグランプリが開催されるF1を見ればイメージし易いですが、モータースポーツ業界の開発サイクルは短いです。変更の大小はありますが、最低でもイベントごとに車両がアップデートされていきます。

イベントを模擬した車両テストでは、レギュレーションで使えないセンサを使って車両のデータを取得して開発に生かす事もあります。車両は数週間単位で変更されて常にPDCAサイクルが回っています。

SuperGT300クラスの車両の電装システムを設計した際は、ゼロベースの開発でしたがレース参戦まで半年を切った段階では実質何も決まってない状態でした。当時は業界3年目で土日も無く本当にしんどかったですが良い経験になりました。

量産開発ではマイナーチェンジは約2年、メジャーチェンジを約4年サイクルで行うことが多いです。担当者は複数プロジェクトを掛け持ちしますが、モータースポーツに比べると開発サイクルは比べ物になりません。

近年の量産車は電装システムを含めて非常に複雑になっており、また走行条件が限られるモータースポーツに比べ、多様な使われ方をする量産車の評価項目は膨大です。加えて量産車は各国の法規、排気ガス規定などの対応も必要であり、「走る」「曲がる」「止まる」に特化できるレース車両、ラリー車両では考慮しない開発項目が多々あります。故にどうしても量産開発には数年単位の時間を要します。量産開発の方がプロセスが規定されており緻密なエンジニアリング能力が求められます。

開発サイクルの短いモータースポーツでは短期間で同じ経験を何度もするので、短期間で車両全体を理解していくことが出来ます。僕は頭だけではなかなか身につかない人間なのでモータースポーツの方が性に合っていると思っています。

(3) 現場でのプレッシャーに打ち勝てるようになる??

データエンジニアを含め、現場でサポートを行うエンジニアには大きなプレッシャーがかかります。データに現れる故障の兆候を見逃したり、車両に異常が発生した場合は原因を究明しないとリタイヤでチーム全体の努力が無駄になってしまう可能性もあります。

もちろんオフィスまで持って帰らざるを得ない問題が発生することもありますが、その判断が出来る能力も必要です。どんな状況下でも冷静に、論理的に考えて問題を解決出来るエンジニアになりたいです。

データエンジニアとしては、僕はまだ2年目であり、実戦ではまだまだ未熟さを痛感しています。現在はフィンランドの在留届を承認待ちの状態のため、海外出張には行けないため、国内テストのみ同行している状況です。取得後は多くの車両テストに帯同できるはずなので、自分の課題を認識して成長できれば良いと思います。

(4) まとめ

モータースポーツは「走る実験室」と呼ばれますが、これは車両に加えて、エンジニアを鍛える場としても通じるかもしれません。
また各自の専門性次第ですが、僕がモータースポーツ業界から量産開発に転職した際は知識面では流用できたケースも多かったです (ex. 電子制御、車両挙動)。

結局は自動車は「走る」「曲がる」「止まる」が基本であり、ここに焦点を当てているモータースポーツは、ある意味では自動車開発の本質を捉えた競技なのかもしれません。

技術的には完全に合致しなくとも、F1やWRCを通して車だけでなく、エンジニアを育てると自動車メーカーが主張するのは、建前だけではないかと思います。

自動運転とモータースポーツのテクノロジーについての記事を書きます! 未来に繋がるモータースポーツを創りたいです!