義ー解字

先日、NHKで、半藤一利氏の追悼番組が放映されていた。その中で、「墨子」を読みなさい、との言葉があったので、ちくま学芸文庫『墨子』と中公クラシックス『墨子』の2冊を即注文した。さて、「ちくま学芸文庫」の方の尚賢編の訳文に、「義(ただ)しい者」(中公クラシックスでは「正義の人」」というのがあった。常用漢字表には、「義」に訓読みはない。「義」を「ただしい」と訓む例を知らなかったので、漢和辞典を引いてみた。すると、訓読みとしてあげている辞典はなかった。昭和以降の漢和辞典を引いたのだから、当然といえば当然だ。「ただしい」という意味の説明はほとんどの辞典にあった。漢字の意味に日本語のことばをあてたものが訓なので、これもありだなあ、と思った。家にある古い字典にあたってみた。『増訂篆文詳註日本大玉篇』(明治18年)、「ヨシ・タダシ・ヨロシ・コトハル・ヨソホヒ・ノリ」。訓として「タダシ」があった。常用漢字表にない訓は、自分で漢和辞典を引かないかぎり、学校では教えてくれない。常用漢字表で訓読みがない漢字は、意識して漢和辞典で訓(意味)を調べないといけない。これは、米軍占領政策の負の遺産なんだろうなあ。読む漢字としての、いわゆる旧字を駆逐してしまい、例えば、「芸・藝」の違いがなくなってしまったのも負の遺産。

もう一つ、漢字の成り立ちについて、漢和辞典によってまちまちなことをあらためて知った。「会意形声」なんて、教科書で習わなかった。なにやらあやしい説が並んでいる。多くの辞典に甲骨文字や金文、説文篆文が載せられている。どれを見ても、私には「我」の部分が「鋸(のこぎり)」には見えない。私には「矛・戈(ほこ)」や「斧(おの)」にしか見えない。「犠牲の羊をのこぎりで切る」なんて、そんな無茶なあ。切断面がぐちゃぐちゃで、とても神前になんて?スパッと切ってあげないと、羊さんだって可哀想。角川さんは、なんで上品な改訂版をこんな残虐な改訂新版に変えちゃったの???それにしても、のこぎりの大好きな辞典の多いこと。こんな説を授業で教えられる児童・生徒が可哀想。漢字の成り立ち、字源説については、古くから諸説あって、にぎやかだけど、漢字の学習に役立つものだけを選択して授業では使ってほしいなあ。へんてこなのは、少なくとも義務教育段階では、字源にふれなくてもいいと思う。漢和辞典に載っているのは仕方ないけれど、先生がわざわざ取り上げて授業で使うのはやめてもらいたい。

会意形声。羊と、我ガ→ギ(のこぎりの象形)とから成り、神前に犠牲の羊をのこぎりで切ることから、敬虔な気持ちを表し、ひいて「みち」「ただしい」意に用いる。[角川 新字源 改訂新版 2017年10月30日 初版]

形声。羊(美の意)と、音符我ガ→ギ(まいの意→夏カ)とから成り、神前で行う舞、ひいて、礼にかなった行ない、転じて、みちの意を表す。[角川 新字源 改訂版 1994年11月10日 初版]

形声。羊+我(音)。音符の我は、ぎざぎざの刃のあるのこぎりの象形。羊をいけにえとして刃物で殺すさまから、厳粛な作法にかなったふるまいの意味を表す。[新漢語林 第二版 2011年4月1日]

○説文(字形) 会意。自己の威儀。「我」「羊」から構成される。○釈名(語源)「義」は「宜」である。物事を制裁して宜(=正しいこと)に合致させるのである。(釈言語)[全訳漢辞海 第四版 2017年1月10日]

会意。羊(善)と我との合字。おのれの正しい威儀の意。一説、羊をもととし、我ガの転音が音。[新明解漢和辞典 第三版 1986年12月10日]

形声。羊+我声。我は、ぎざぎざの刃のあるのこぎりの象形。羊をいけにえとして刃物で殺すさまから、厳粛な儀法にかなった挙動の意を表す。[広漢和辞典 昭和57年5月20日]


形声。意符の羊(美しい意)に、音符の我(ガ→ギ。よろしい意→宜)を加えて、よろしきにかなった美しい行為、「みち・よい」の意を表す。[新釈漢和辞典 新修版 昭和51年2月10日 新修版再版]

我は、ぎざぎざとかどめのたったほこを描いた象形文字。義は「羊(形のよいひつじ)+音符我」の会意兼形声文字で、もと、かどめがたってかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうがよいと認められるやり方を義(宜)という。峨ガ(かどめのたった山)-儀(かどのあるさま)と同系のことば。▽岸(かどめのたったきし)や彦ゲン(かどめの正しい顔をした美男)とも縁が近い。[学研漢和大字典 昭和53年4月1日 初版]ー〔『漢字語源辞典』は詳しすぎて、私には理解不能なので、この本にとどめておく〕

会意 羊と我とに従う。我は鋸の象形。羊に鋸を加えて犠牲とする意で、牲体に犠牲としての欠陥がなく、神意にかなうものとして「義(ただ)しい」の意が生れる。[字統 普及版 1994年3月10日 初版]ー〔『説文新義』は、詳しすぎるので、この本だけにとどめておく〕

○字形 「美しい」の意味を表す「羊」と、音を表す「我(が)」とからなる形声字。○ 字音 ガ。普通の音は「ギ」。「我(が)」がこの音を表す。「我」の音の表す意味は。「夏(か)」(舞いの姿、礼を行なう姿の意)である。○字義 美し舞いの姿。礼を行う美しい姿の意。[新装版 角川字源辞典 昭和47年10月10日 初版]ー〔『漢字の起源』を分かりやすくした本〕

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