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#008 札幌北斗高校演劇部…キリンとの旅④

 何とかストーリーの大枠は出来た。ただタイトルが決まらなかった。何度も書いては消し書いては消しの繰り返し。ストンと落ちるものが浮かんでこない。とりあえず決めたタイトルは、あくまでもとりあえずだ。その中で考えたのが『キリン・Gペン・スケッチブック』だった。これが最終的には決定したタイトルになるのだが、正直今でもこのタイトルはベストだったとは思わない。単語3つの併記。『キリン』はこの舞台の象徴的なキャラクターである。そしてキリンは首が長く背が高いので、遠くを見渡すことができる。そのため、未来を展望する象徴だと言われている。この物語は漫画家を夢見る少女りあんが自分の将来を考え、迷い、自分の足で歩こうとする物語だ。そういう意味では、「キリン」という単語はタイトルとしてあながち間違いではないかもしれない。『Gペン』は漫画家に関連するお芝居なのかなぁ、と観客に想像してもらえるかもしれない。『スケッチブック』は、夢や思いを描くツール。まぁ、しっくりくるタイトルが浮かぶまでこれで行こう、そう考えた。 

 脚本を作る上で、キャストは主人公りあん以外は全員一年生にした。未知数だが何かをしてくれそうな一年生たちだった。りあん役に一年生を立てても良かったのだが、やはり軸になる役者は必要だった。
 そして兄のタケシ役にピッタリの部員を見つけた。身体も大きく小柄なりあん役の部員と並ぶとその姿がいいな、と思った。ただ、兄役の男子の内面は全く役とは真逆で優しく細やかだった。しかしその立ち姿は、私の描いた兄のイメージにかなり近い。そうなると彼の演技の指導に時間がかかりそうだったので、余計にりあん役は計算できる上級生にした。無口で無骨な兄のキャラクターはそういう都合で、演出をつけたものだった。

部員たちにこの脚本を渡し、感想を出させた。

いつもこの瞬間が緊張する。

読んだ部員たちの評判は概ね良いようだ。とはいえ、顧問が書いて示した脚本を、部員たちが即座に否定することはなかなかむずかしいだろう。そう思うとこちらも手放しで安心しきれない。まぁ、やりながら気になるところは直していくから、と告げた。
毎度ながら自分が書いたものが本当に面白いかどうかなど、わかるはずもない。

 最初の稽古は夏休みに入ってすぐ行った、校内合宿(我が部は基本、夏休み7月と9月に校内合宿を行っている)でいきなり立ち稽古から入った。すでに稽古場であった旧校舎は解体されており、この時は新校舎の教室をお借りしての稽古だった。
合宿の時の初練習
夏合宿の夜

毎回、教室が使えるわけではなく、その日その日稽古場を探す放浪生活。映画『幕が上がる』では、黒木華演じる吉岡先生がももクロたち演劇部員に向かって「ノマド?」というセリフがあったが、まさにそれだった。8月の終わりには、何とか新校舎4Fの福祉実習室をお借りすることができ、稽古ができていた。普通の教室で稽古すると残って勉強する生徒や、講習があるので「うるさい」と苦情が入るのだ。ちなみに運動部が声を出して廊下を走ってもそんなことは一言も言われない。文化系の部活動は少なからずそういう立ち位置らしい。

 そして9月11日の月曜日、待望の稽古場である「サブアリーナ」が完成した。4月から稽古場がなかった我々は何だか、自分の故郷に帰ってきたような何ともいえない気持ちになった。

新しい調光室
学校側は設計段階から演劇部のためいろいろ意見を聞いてくれた。美術バトンも2本つけてもらえた。
新たな稽古場での初の発声練習

 今まで場所の都合、シーンを細切れで稽古していた。支部大会二週間後に迫っていた。

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