サプライヤの財務評価
営業では通常契約時に顧客の与信審査を行いますが、特にプラント機材の分野では調達でも倒産可能性を事前に捕捉するために契約前にサプライヤの財務評価をしておく事が望ましいです。本記事ではサプライヤの財務評価の方法や実務での運用について取り上げます。
1.財務評価の目的
サプライヤの財務評価を行うべき理由は、倒産可能性のあるサプライヤを契約前に把握し、最適な判断を行う為です。入札・引合では通常最安値サプライヤを選定しますが、低価格を提示してくるサプライヤの中には収支管理・リスク管理に問題があったり、資金繰りが厳しいため契約の頭金を目当てに契約を取りに来ている場合があります。財務評価により倒産リスクの高いサプライヤを把握し、リスクを受け入れて当該サプライヤと契約を進めるのか、または見合わせるのか、契約前に判断を入れる事が可能になります。
2.評価指標
財務の評価指標は多数ありますが、大枠で収益性・効率性・安全性に分類されます。収益性は売上に対してどれだけ利益を稼げているかを示すもので、営業利益率(営業利益÷売上)等が用いられます。効率性は手持ちの資産・資本を用いてどれだけ効率的に売上を確保できているかかを示すもので、総資産回転率(売上÷総資産)等が用いられます。安全性は財務状態のバランスの良さ等で倒産可能性を分析するもので、流動比率(流動資産÷流動負債)等が用いられます。
財務評価はその目的に応じて用いる評価指標を選定する必要があります。漫然と主要な評価指標を算定しても、その算定結果をどう解釈し、どのように意思決定に繋げるかを意識しなければ評価の意味がありません。サプライヤの倒産可能性の評価を目的にするならば、安全性の評価指標を中心に用いるべきです。
また、指標分析では見落としてしまいますが、契約の規模がサプライヤの財務体力に照らして過大なものになっていないかもチェックをすべきです。売上高や純資産の数倍になる契約を締結する場合、材料調達・外注等の運転資金を賄えない可能性があり、またそもそも人材や設備が質的・量的に契約遂行に対応可能なのか疑念があります。このような評価指標はあまり用いられていなく標準的な水準はありませんが、契約予定額が売上高・純資産以下という水準が一つの目安になるかと思います(それでもかなり過大な額の契約にはなりますが)。
3.実務運用
2.の指標を個別に算出するだけでは実務判断に繋がらず、評価結果の統合・水準の定義・結果に応じた対応の規定が必要になります。
具体的には安全性指標を中心とした評価指標の選定→流動比率150%以上等各指標の水準定義→流動比率は全体スコアの20%分等各評価指標のスコアリングウエイトの定義→全体スコアの算出・事前に定義した閾値(50点等)に照らした判定結果(発注可 or 原則発注不可&マネジメント判断等)といった具合です。
評価指標としては、契約から引渡までの間サプライヤの倒産リスクがどの程度あるのかという視点に基づき、当座比率・流動比率・現預金月商倍率・インタレストカバレッジレシオ・固定長期適合率・キャッシュフロー構造分析(各CFのプラスマイナスでパターンを作りそれぞれスコア化する等)といった安全性指標を用います。ウエイトは短期指標を重めにしておきます。閾値は50点にするのが分かりやすいでしょう。
評価シートの作成は各社のリスク許容度や業界特性を取り込む必要がある為、正解はありません。経理・財務部門と連携してドラフトを作成し、実際に取引のあるサプライヤの財務諸表で試してみて、微調整を加えながら作り上げていくのが良いでしょう。また、作成者しか作成できないような複雑な評価シートは結局利用されなくなるので、機械的に作成・判定結果を出せてかつ作成に手間がかかり過ぎないものにする必要があります。
判定結果に応じた対応は調達・プロジェクト・設計等関係部署のマネジメント含め周知し、コンセンサスを得ておく必要があります。実はここが一番難しいところで、余計な工数をかけるなとか低価格なサプライヤを弾く事で競争力を失う可能性があるといった反発を受ける事があります。なぜサプライヤの財務評価が必要なのか目的を明確に説明できるようにしておく(過去の倒産事例を整理しておくとよいでしよう)、作成者の負担を減らすような評価シートを作成する、判定結果に応じた対応を明確にしておくといった事に留意する事で社内の納得も得られるかと思います。
以上サプライヤの財務評価について見てきました。こうした評価を取り入れている企業はあまりないかもしれませんが、サプライヤ倒産によるプロジェクトへの損害の大きさを考えると導入する価値は充分にあると思います。自社で同じような悩みを抱えている方は本記事を参考に検討してみては如何でしょうか。
記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご留意ください。