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今年のテーマは、「目的語を小さく」。

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今年は曜日の巡り合わせの関係で、noteでの新年のご挨拶がすっかり遅くなってしまいました。みなさん、2024年も乙武マガジンをどうぞよろしくお願い致します。

また、能登半島地震で犠牲となられた方々に哀悼の意を捧げるとともに、被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、新年一発目の記事なので、今回は私の活動指針とすべく、「今年のテーマ」について書いてみたいと思います。

私の友人に堀潤というジャーナリストがいます。彼は戦禍に苦しむ人々や被災地などに赴き、とにかく「寄り添う」こと、「耳を傾ける」ことに注力した活動を続けています。

そんな彼がジャーナリストとして辿り着いた境地は、「主語を小さくする」ということ。

東日本大震災を人々の記憶から風化させてはならないと考えた彼は、足繁く被災地を訪れ、現地の人々の話を聞き、「福島では今も多くの人たちが苦しんでいます。忘れないでください」と呼びかけていました。

ところが、震災から3年ほど経ったある日、会津地方を訪れた際に、地元の商店主からこんな言葉を投げかけられたと言います。

「堀さん、いつまで『被災地は』『福島は』と言うんですか?」

たしかに、福島県内には震災から3年経っても原発事故の影響に苦しむ方々がいる。一方、科学的には原発の影響が確認されていないのに、深刻な風評被害に悩まされている方々もいる。同じ「福島県」でも、その状況はまるで違えば、何に苦しんでいるかも違います。この日から、堀潤は「福島は」と主語を大きくした報道をしないよう心がけるようになったと言います。

たしかに、私たちは「日本人は」「女性は」などと主語を大きくして語りがちですが、日本人にだって様々な人がいますし、女性にだって様々な人がいます。それらをひとくくりにして「日本人は」「女性は」と語ってしまうのは、本質とのズレを生じさせることになりかねませんし、かえって分断を生むことにもつながりかねません。

日頃から「多様性=社会には様々な人がいる」ということをメッセージの柱に据えている私にとっても、堀潤の「主語を小さく」という提案には大賛成です。

さて、ここからが本題。今年の私のテーマは、堀潤の「主語を小さく」にインスピレーションを受けた「目的語を小さく」。ただのパクリのように聞こえるかもしれませんが、いたって大マジメです。

私たちはよく「社会をよくしたい」などという言い方をします。「政治を変えよう」なんていう言い方もします。たしかに、そう口にしてると大きな夢を抱いているように見えるし、なんだかカッコいい気がしてきます。

でも。

「社会をよくする」って具体的にどういうことを指すのでしょうか。「政治を変える」って具体的に何を変えていくのでしょうか。目的語が大きければ大きいほど、たしかに壮大な夢に向かっている雰囲気が醸し出されて、口にしている本人は気分がいいのですが、「具体的に何かを変える」という意味においては、かえって遠回りになってしまっている気がするのです。

そして、恥ずかしながら私自身も、これまでそうした罠に陥ってしまっていた可能性があります。さすがに「社会を」「政治を」といった大きな目的語を使っていたわけではないように思いますが、それでも「障害者問題に取り組む」「多様性ある社会を実現する」と比較的大きな目的語を使ってしまっていたように思います。

今年は、それを改めます。これまで使っていた目的語をなるべく因数分解して、より具体的に「何が問題で、どう変えていきたいのか」を明確にしていきます。場合によっては枝葉末節に感じられ、とても遠回りをしているように思われるかもしれません。でも、いくら大きなテーマを掲げていたとしても、結局は1ミリも目的地に近づけていないのであれば意味がありません。

全体像から見れば細かな問題に見えることにも真正面から向き合い、それをひとつひとつ、丁寧に変えていく。とてもまどろっこしいやり方に見えるかもしれませんが、じつはこうした積み重ねがいちばんの近道なのではないかと思うのです。

たとえば。

昨年末、障害児の補装具などを購入する際の費用負担に所得制限がかかっていたのが撤廃されました。これは大きな進展でしたが、今度は「障害児の補装具購入」だけではく、障害児の福祉サービス全般にこの動きを広げていく必要があります。

また、障害者雇用の文脈では「採用」の部分にばかり焦点が当たりがちですが、じつは健常者と比較して非常に高い離職率も問題になっています。この問題を解決するためには、各企業がいかに採用した障害当事者の特性を見極め、その個人に適した仕事を与えられるかが課題となってきます。

といったふうに、ひとつひとつの課題に向き合おうと思えば、説明もおのずと長ったらしくなりますし、わかりやすいフレーズに頼ることができなくなるので、「あいつは一体、何に取り組んでるんだ?」と理解されにくくなることと思います。もちろん、多くの人々の賛同を得ることで物事が動いていくこともあるので、「他者の理解など必要ない」などと言うつもりはありませんが、それでも他者から理解されることを最優先にしてしまっては本末転倒です。

しかし、この「目的語を小さく」には弱点もあります。私の身体はひとつしかないので、「ひとつひとつの細かなこと」すべてに取り組めるわけではありません。ですから、ある程度の優先順位を決めてから取り組んでいくしかないのです。

昨年末から解決していくべき大きな課題を見つめ、それらの課題を構成している要素を丁寧に洗い出し、どのポイントがボウリングで言うところの“センターピン”なのか、どの問題に取り組むのが私の特性を最も生かせるのかといったことを仲間たちと相談しているところです。

もう少し煮詰まったら、具体的に動き出していきたいと思います。そして、みなさんにも後押しをお願いする場面もあろうかと思います。その際は、ぜひ力を貸していただければ幸いです。

今年は辰年。年男となりました。いよいよ人生も5周目に突入です。持てる力をすべて発揮して、生きづらさを抱える人々のために尽くしてまいりたいと思います。あらためて、本年もよろしくお願い申し上げます。

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