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その選択肢、誰が与えたものですか?

この記事は、12月4日(金)の『都政新報』に掲載された連載「東京に選択肢を〈最終回〉」を転載しています。

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早いもので、全8回でお送りしてきた連載「東京に選択肢を」も、今回で最終回となる。これまで様々な切り口から、私たちの生活に「選択肢を増やす」ことがいかに重要であるかを述べてきたつもりだ。しかし、多くの読者の方々にとっては、それほどピンと来る内容ではなかったかもしれない。というのも、「選択肢を増やそう」というメッセージは、すでに十分に選択肢が与えられている人にとっては、それほど心に響くものではないだろうと思うのだ。しかし、だからこそ私のような人間が言い続ける必要があると思っている。

世の中には、選択肢が十分に与えられている人と、そうでない人がいる。その選択肢はみずからの努力によって獲得したケースもあるが、じつは所与のものとして用意されていた場合がほとんどだ。逆もまた然りで、本人の怠慢によって選択肢を失ったと考えられるケースもあるだろうが、ほとんどは本人が望んだわけでもない境遇によって選択肢を奪われている。

具体例を挙げていこう。たとえば、結婚。多くの人は異性愛者として生まれてきたため、結婚という選択肢が与えられている。結婚してもいいし、しなくてもいい。そのことを選択できる。しかし、みずから選んだわけでもなく同性愛者として生まれてきた人に、結婚という選択肢は与えられていない。もちろん、共に暮らしていくことはできるが、彼らに法的な権利が与えられることはない。

たとえば、大学進学。生まれ育った家庭に経済的なゆとりがあれば、大学進学を目指してもいいし、目指さなくてもいい。そのことを選択できる。しかし、みずからが生まれ育った家庭が経済的に厳しい状況であれば、目指すことさえ難しくなる。奨学金があっても、そのほとんどは貸付型なので、社会人としてのスタートラインに立ったとき、大きなハンデを背負わされることになる。

たとえば、食事。何不自由なく移動できる人でれば、最新スポットでおしゃれなディナーを楽しむこともできるし、駅前の居酒屋で仲間と肩を寄せ合うこともできる。しかし、私のような車椅子ユーザーであれば、車椅子のまま入れる店はごく一部に限られているし、そもそもその店の最寄り駅がバリアフリーであるとも限らない。車椅子用トイレが設置されている店など皆無に近い。

どうだろう。こうして具体例を書き出してみると、選択肢が与えられている側にはいかにその状況が幸運なことであるかの実感に乏しく、また選択肢を与えられていない側にとっては、いかにその問題が切実であるかに気づいていただけるのではないだろうか。

いずれの問題も、制度を変えたり、予算をかけたりすることで解決できることばかりだ。にもかかわらず、依然としてこれらの問題が放置され、「不遇の人々」を作り出してしまっているのは、政治や行政の怠慢と言わざるを得ない。もちろん予算にも限りがある。すべての問題が当事者にとって満足のいく状況になることは難しいだろう。

そこで大事になってくるのは、為政者の姿勢だ。こうした「選択肢を増やす」ことに積極的であるのか、消極的であるのか。はたまた選挙のときだけ肯定的なスタンスを見せながら、当選後にはすっかり見向きもしなくなるのか。これらの問題を実際に解決できずとも、せめて解決に向けた姿勢を見せてくれれば、いまはインクルーシブ社会へと向かう途上なのだと希望を見出せる。だが、まるでその姿勢を見て取れないのであれば、当事者たちが「社会から排除されている」との印象を抱くのも当然だろう。

東京都の舵取りを任されている人々には、この巨大都市は「選択肢に満ち溢れている」と感じられているのだろうか。とてもそうは感じられていない人々の声を、これからも私は届けていきたい。

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