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侮辱罪の法定刑に懲役が加わった件

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。
ご覧いただきありがとうございます!

今回の記事では、侮辱罪の法定刑に懲役が加わった件をお話しします。

あなたの生活には1mmも役に立たないかもしれません(前回も同じこと言ったような)。
そもそも、お前誰やねんという方は、こちらの記事をご確認ください。

この記事の内容

この記事では、侮辱罪という罪がどんな行為を対象にしているのかと、何が変わったのという内容です。

法律って面白いシリーズ第2弾。

侮辱罪ってナニ

一言で言うと、「この馬鹿野郎」とか「ちびデブ!」とか、「死ねこのクソガキ!」みたいな暴言を、みんなが見える場所で行う行為です。

一応、条文も載せてみましょうかね・・・

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
改正前 刑法231条

保護法益(この罪が守ろうとしているもの)

ところで、刑罰ってなんであると思います?
悔しいから?
ひどい奴は罰しないといけないから?
目には目を?

この部分は、専門家の中でも、超深遠な議論があるところなので、興味がある方は調べてみてください。「刑法(刑事罰)の存在意義」についての議論です。めっちゃ難しいし、頭おかしくなりますので、嫌な方は辞めといてください。

ただ、この理解は共通なのですが、少なくとも、刑法は、「道義的に悪い行為」という類型ではなくて、「その罪によって守ろうとする利益(保護法益)」という類型を念頭に作られています。

侮辱罪の場合、名誉感情(悔しい、ひどいという気持ちが害されないこと)が保護法益です。
つまり、侮辱という行為に刑事罰を与えることで、そのような行為を抑止して、名誉感情を守ろうという価値判断です。

「侮辱」って

国語辞典では、「侮辱」とは、「ばかにして、はずかしめること」と定義されています。

刑法上は、「侮辱」とは、「他人の人格的価値を否定する判断を表示して、その名誉感情を害するような一切の行為」のこととされています。

え、なんで違うの?
ところで後者むずかしすぎひん??
という疑問は、とりあえず棚の上にあげておいてください。苦笑

頭のいい人と頭のいい人ぶりたい方向けに、真面目に話すと、日常用語と違う定義を用いているのには理由があります。
法律ではあの場合は黒、この場合は白というのがなるべくハッキリするように、類型化をしてく癖があるんです。
「他人の」=自分の人格的価値を否定する行為は対象外
「人格的価値を否定する」=経済的価値は対象外/正当な範囲の意見や論評は対象外
「表示して」=思っただけは対象外
「名誉感情を害する」=一般人が受忍できれば対象外
などなど

「公然と」って

「公然」は、①特定多数に対して、又は②特定少数でも他に広まる可能性がある場合、③不特定に対して行うことです。

①は、たとえば会社の同僚100人に言った
②は、たとえば飲みに行っている1人だけに言ったが、おしゃべりだった
③は、Twitterに鍵なしで書き込んだ

などです。
(①や②の人数やデティールは、状況によって判断が異なるので、人数が絶対とかではありませんよ!)

と、なると、夫と喧嘩して「この馬鹿野郎」と、家の中で、本人に対してだけ言い放った場合には、対象外になると思われます。

「事実を摘示」って?

具体的な事実を伴わないということです。
「名誉毀損罪」という別の罪が、「事実を摘示して、名誉(社会的評判)を害する」行為を罰しています。
たとえば、「A部長は、同じ部のBさんとW不倫しているようだ」という内容のメールを同僚にたくさん送りつけたり、飲み会で叫んだりした場合には、「侮辱罪」ではなくて「名誉棄損罪」が成立します。

・事実の摘示があること
・その事実らしく受け取られると、本人が恥ずかしい・悔しい(名誉感情)かどうかとは別に、社会的評判(名誉)が下がること
がポイントです。

いったんまとめ

ここまで読んでくださった辛抱強いあなたにまとめです。

侮辱罪は、「ばーか」とか「このくそはげ」みたいな行為のことで、ポイントは、たくさんの人か、不特定の人、たくさんの人に伝わる可能性があるところで行われた、名誉感情(悔しい)を害する行為に成立します。

「A部長はBと不倫している」みたいな、事実の指摘があって、それが伝われば社会的な評判も落ちる行為は、別途、名誉毀損罪という罪が用意されています。

うーん、分かりやすい!!!(自画自賛)

で、何が変わったの??

端的に、刑罰が変わりました。

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
改正前 刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
R4.7.7施行後 刑法231条

これにつきます。
以上終わり!

・・・と言ったら怒られそうなのでちゃんと解説します。

①懲役・禁錮が追加!

拘留  1日以上30日未満の身体拘束(刑事施設に入れられる)
懲役  1月(いちげつって読むとカッコイイよ)以上の身体拘束+労役
禁錮  1月以上の身体拘束

上記が、刑法上準備されている、身体の自由(移動の自由)を奪う刑罰の種類です。

いままでは、拘留しかなかったのですが、懲役・禁錮が追加されました。
簡単に言うと、侮辱罪を侵しても、最大29日で解放されていたのが、1か月~1年の範囲で、拡大されました。

※「勾留」は、読みは同じ「こうりゅう」ですが、全く別の制度です。今回は省略。

②罰金が追加!

科料  1000円以上1万円未満
罰金  1万円以上

上記が、刑法上準備されている、財産を奪う刑罰の種類です。

いままでは、科料しかなかったのですが、罰金が追加されました。
簡単に言うと、侮辱罪を侵しても、最大9999円を納付すればよかったものが、1万円~30万円の範囲で、拡大されました。

※「過料」は、読みは同じ「かりょう」ですが、全く別の制度です。今回は省略。

ちなみに、「若しくは」が3回、「又は」が1回出てくるのですが、これには理由(法則)があります。これを見破った天才は、コメントするか、直接僕に自慢してください。

サンプル動画

僕は、今回の記事のように、全く法律を勉強したことがない人にも、法律の面白さを伝えたいと思っており、今、クリエイター向けの著作権講座を収録中です。

こちらの記事もご覧ください。

で、そのサンプル講義動画を載せちゃいますので、見ていただいて、感想や気づいたところがあれば教えてください!

前回見ていただた方、今回は別の動画ですー!!


記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。