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[エッセイ] 着地に難あり  スリムのがんばりに感動


日本初の月着陸船スリムが横転着地し、話題になりました。
このトラブル、降下時、二基あるエンジンの噴射ノズルのひとつが外れ、片足着地したのが原因でした。
しかし横向きになった太陽電池に光があたる時交信可能で、不幸中の幸いでした。
その後交信停止したのですが、超極寒の月の夜を経て再起動できたとき、多くの人の感動をよびました。
また同時期、アメリカの月着陸船も着地トラブルで横転しました。
降下移動中、機体の一部が月の岩にひっかかり、やはりバランスをくずしたようです。
両船とも地球から無事打ち上げられ、はるばる宇宙空間をこえて月に着き、最後のフィニッシュでころぶというのは大変残念なことです。
「はしごは昇る時よりも、下りる時の最後の数段に気を引き締めよ」なんていう教訓も思い出します。
 
空母の艦載機も同様です。
離艦発進するときは、パチンコ玉のように、カタパルトではじかれて飛び出しますが、着艦は大変です。
陸の飛行場にくらべれば、まな板のように狭い船の上に降りるわけですから、ぎりぎり速度をおとし、翼の前後を大きく下に折り曲げて、空気をつかみ、尻から釣り針のようなフックを出して、船のロープにひっかけて止まります。
横須賀に空母が入港すると、私は近くの厚木基地へ飛行機を見に行くことがあります。
空母の艦載機がこの厚木基地で着艦訓練をするからです。
車輪をおろした戦闘攻撃機FA18ホーネットが、頭上低くゆっくりとかすめて、滑走路進入します。
このときよく見ると、水平尾翼がビラビラはげしく動いているのがわかります。パイロットが必死に機体のバランスをとっているのです。
車輪が地に着いたとおもうとすぐさまエンジン全開で、轟音をあげて上昇していきます。
いわゆるタッチアンドゴーです。
入港時でもたえず訓練しなければならないほど、難易度の高い技能なのでしょう。
オリンピックの体操部門で、あん馬や鉄棒の競技の際、最後の着地にどきどきしますね。
バランスのくずれをぐっとこらえて、足を乱さないで踏みとどまると、思わず拍手したくなります。
 
私が最近すごいとおもったのは、アメリカの巨大ロケットの一段目帰還の映像です。
ふつう、打ち上げられたロケットの一段目は、ブースターなどと共に、切り離されて海に落っこちて終わりです。
回収されてももう粗大ごみで、再利用できません。
しかしこのアメリカのロケットの一段目は、分離された後、エンジンを噴射しながら垂直の姿勢を保ち、ゆっくり移動して定位置に立ったのです。
巨大な物体の空中移動と着地です。
これはすごいことです。
子供のころ、庭掃除の竹ぼうきを手のひらの上に立てて、どれだけ長く立てていられるか遊んだことがあります。
ほうきは点の上に立っていて、左右ぐるりは支えられていませんから、ゆらりと倒れかかるわけです。
曲芸のようにバランスをとりながら支えるのは大変難しいのです。
あの巨大なロケット一段目は、エンジンはもちろん、タンク、その他機器で構成されているわけで、巨額の費用がかかっています。
これが再利用できるというのは画期的なことです。
 
これからは着地の技術が重要になってくるのかもしれません。
いま電気自動車EVの使用後の廃棄処分が問題になってきました。
作りっぱなしで、あとは野となれ山となれではいけないのです。
最後どうするか着地問題の解決が必要とされる時代になり、
今回スリムの着地からいろいろ考えさせられました。

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