土壌水分についての基礎知識

はじめに

AgriTech PdMのHiroです。
農作物の栽培において、圃場の土壌水分の状態を把握することはとても重要です。現状の土壌水分量に応じて、適切な灌漑を実施する必要があるためです。
ですが、そもそも土壌水分量とは何か?またどのような値や指標で示されているか?などを理解していないと、適切に灌漑を実施することができません。
そこでこの記事では、まずは土壌水分の基礎知識を紹介します。

土壌水分量

まずは土壌水分量をどのような値で示されているかを紹介します。

1.1. Soil Moisture Content(土壌水分量)

土の中に浸透している水の量のことを、Soil Moisture Content(土壌水分量)と呼びます。
土壌水分量の単位は[mm]が一般的に使われますが、これは1立方メートルの中に1平方メートルで何ミリメートルの水が浸透しているかを示しています。

1.2. Volumetric water content(体積含水率)

土壌水分量を割合で示すことができます。土壌にまれる水の割合をVolumetric Water Content(体積含水率)略してVWCと呼びます。
例えば、上記の図のように、1立方メートルの体積の土壌に0.1立方メートルの水が浸透している場合は、VWCは10%になります。

土壌水分の状態

土壌の土壌水分量に応じて、土壌水分の状態が変わります。次に、土壌水分の状態がどのような指標で示されているか、またその状態は植物にとってどのような状態なのかを紹介します。

土壌水分の状態は、一般的に3つの点(Saturation、Field capacity、Wilting point)を境にして示されます。
以下に、それぞれのポイントについて説明します。

2.1. Saturation(飽和点)

Saturation(飽和点)とは文字通り、土壌の中で水が飽和しているポイントのことです。
水が飽和している状態とは、土粒子の隙間が全て水で埋まっている状態です。
※ちなみに、粒径0.005mm以下の粒子をclay(粘土)、粒径0.074~0.005mmの粒子をsilt(泥)、粒径2~0.074mmの粒子をsand(砂)と言います

植物は生きるために水が必要ですが、空気も必要です。そのため、このSaturationのままだと、植物は呼吸ができなくなり腐ってしまいます。
ですが、Saturationになっても、この状態がずっと続くわけではなく、重力によって水が土壌から流れ落ちます。このプロセスをDrainage(排水)と言います。排水が起こっている間は、土壌水分量は急に減少していきます。

灌漑の間隔を適度に空けて排水を行いながら、土に水を与えすぎないようにすることが作物の栽培にとって重要になります。

2.2. Field capacity(圃場用水量)

土粒子の表面張力が重量に勝って排水が止まるポイントのことをField capacity(圃場用水量)と呼びます。
この時点では、土粒子の間に水と空気が混在しており、植物にとっては理想的な土壌水分状態です。
この時点からは、土壌の水は排水ではなく主に植物の根から吸収されることで減少していきます。そのため、土壌水分量は緩やかに減少していきます。
このField capacityを目安に灌漑を実施することで、土壌に余計な水を与えることなく適切な土壌水分量を保つことができます。

2.3. Wilting point(萎凋点)

土壌の水分供給速度が植物の蒸発散速度よりも小さくなると、植物は萎凋(いちょう)していきます。植物は萎れていき、この状態のままだと死んでしまいます。
土壌の水分供給速度が植物の蒸発散速度よりも小さくなる点のことをWilting point(萎凋点)と呼びます。

土壌の中に水分は残っていますが、植物が根から吸い上げれるほどの量ではないため、水を与えないと植物が萎れてしまいます。

2.4. Total available water(総有効水分量)

Field capacityからWilting pointまでの範囲をTotal available water(総有効水分量)略してTAWと呼びます。
このTAWの範囲に収めるように土壌水分をコントロールすることで、生産的に植物を育てることができます。

2.5. Readily available water(生長有効水分量)

TAWの範囲の中でも、植物が土壌から簡単に水を取り出せる範囲があります。この範囲のことをReadily Available Water(生長有効水分量)略してRAWと呼びます。

RAWは、Depletion threshold(枯渇閾値)と呼ばれるTAWの中でも枯渇が始まる値からField capacityまでの範囲のことであり、Field capacityから30-50%の範囲にあたります。

まとめ

土壌水分量と土壌水分の状態についてまとめました。
基礎的な内容ですが、AgriTechアプリケーションを提供するシステム屋でも正しく理解しておく必要があります。

次回以降で、土壌水分量をどのように計測しているか?またどのように土壌の状態を判断しているか?についてまとめたいと思います。

参照

https://helpdesk.observant.net/hc/en-us/articles/208067926-Monitoring-Soil-Moisture-for-Optimal-Crop-Growth#introduction

https://www.fao.org/3/r4082e/r4082e03.htm#2.6%20soil%20erosion%20by%20water

https://extension.umn.edu/irrigation/basics-irrigation-scheduling

https://www.fao.org/3/x0490e/x0490e0e.htm#:~:text=Total%20available%20water%20(TAW),-Soil%20water%20availability&text=Field%20capacity%20is%20the%20amount,downward%20drainage%20has%20markedly%20decreased.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?