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自分らしく働くうえで、家族との関係も大きなテーマになる場合があります。介護離職者は年間10万人ほど。働き盛りの人が親の介護を理由に退職してしまうケースも今後増えていくかもしれません。できるかぎりそうならないためにも、情報として気に留めておいてください。

介護はある日突然やってくるかもしれないと考えておく

2018年時点で全人口における65歳以上の高齢率は28%を超え、高齢化に伴う介護の問題が増えつつあるなか、もしものことを想像すると不安は感じるものの、『自分の親はまだまだ元気で介護の心配は当面ない』、『その時がきたら考えればいい』と思っている人は多いようです。ただ、その時がいつ来るのかは誰にもわかりませんし、ある日突然ということも少なくありません。

特に高齢の親を持つ子ども世代である40代、50代は日々忙しく働き、教育費や住宅ローン、老後資金の検討などお金の悩みも抱える世代です。介護をする家族には肉体的、精神的な負担がかかるうえ、経済的な負担も増えますが、親と介護についてじっくり話す機会もなく、介護のことは何となく先送りにしがちです。とはいえ、今後は増えることはあっても減ることはない介護の問題について漠然とした不安を抱いているだけで、いざ介護をする時が来たら困ることがあってもいけません。

公的介護保険制度と介護サービスを利用するための相談先を把握しておく

介護が必要となるかもと考えはじめて、最初に相談に行くところは市区町村窓口か地域包括支援センターですが、案外そうしたことも知らない人がまだまだ多いのが実状です。医療保険は病気になったときに健康保険証の提示で利用できますが、介護保険には手続きが必要なので、介護をはじめてする人にとってはわからないことだらけの不安と煩雑な手間が生じます。地域包括支援センター等で相談をした後は、介護保険申請をし、認定審査を経て、要介護状態の区分を認定してもらい、介護保険利用のスタートとなります。ご存じのとおり、公的介護保険は要介護度に応じて、受けられるサービスの種類や利用限度額が定められていますので、ケアマネージャーと相談しながら、どこで、誰が、どのように、いくらくらいで介護をしていくかケアプランを作成し、介護をはじめていくことになります。

先ずは介護が必要となったらどこへ相談に行けばよいのかを知っておくだけでも不安が少し減るはずです。本稿では多岐に渡る公的介護保険制度や介護サービスについて詳細に述べることはいたしませんが、今は介護情報についてネットや書籍など一般の方々にも理解しやすい情報源が多数揃っており、まだまだ先のことと考えずに介護に関する情報を集めることをお勧めします。

家族で役割分担を話し合って決め、介護の負担をひとりで抱え込まないようにする


親の介護を家族のうち誰が行うのかをよくよく話し合っておかないと誰か特定の人だけに負担が集中してしまい、不満を抱えてしまうものです。きょうだいがいても、それぞれ別に暮らしており、それぞれの事情があり、「親の近くに住んでいるから」、「長男だから」「いつ辞めてもいいような仕事しかしてないだろうから」などきょうだいの間ではいかに自分は大変かと介護を押しつけ合うことも少なくありません。手伝うことはないが口だけ出してくるきょうだいもいます。遠くに住んでいるなどの物理的な理由もあると思いますが、きょうだいがいる人は具体的にできることとできないことを明確にしておく必要があります。そのうえで誰が中心となって日々の介護をするのか、役割分担を決めずに介護をはじめてしまったために、介護を引き受けた人の負担が予想以上であった場合にはきょうだい間でもめる原因になります。週末の手伝いやお金が足りない場合の援助は誰がするのかなど、それぞれが少しでも介護に関わるようにすることが大事です。また、たまにしか手伝わないきょうだいは案外介護も大変じゃないと理解が浅い場合もありますので、定期的に介護の状況を知らせて日常の介護の大変さを知ってもらう必要もあります。ひとりっ子や遠距離介護になってしまう人は親が暮らす地域における介護サポート体制を把握しておき、見守りができる環境を整えることが必要です。

誰がどこでどのように介護をしていくかを子どもたちで決めることは大事なこととお伝えしたところですが、そもそも介護を受ける親自身の気持ちや希望に添っているかどうかがより重要であることも忘れてはいけません。介護はお世話をする人も受ける人にとってもはじめてだらけのことです。不安も心配もあるでしょうし、自分の意に添わないことはしたくないと考えるのは当然のことですから介護を受ける親の気持ちこそが最も優先されるべき事項です。

介護が始まっても仕事は辞めずに両立を考える


介護が始まると大きな悩みになるのが仕事との両立の問題です。介護をしながら働いている人の数は346万人(総務省、平成29年就業構造基本調査)であり、年間約10万人が介護を理由に退職していて、女性の退職が多いのが現状です。理由のうち最も多いのは自分以外に介護をする人がいないことが挙げられており、これは少子化、核家族化で子どもが少ないことが要因でもあります。こうした状況のもと、政府も働き方改革のなかで介護離職ゼロを掲げており、厚生労働省でも「仕事と介護の両立支援事業」として6つのポイントを示しています。

①職場に家族等の介護を行っていることを伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用する

②介護保険サービスを利用し、自分で介護をしすぎない

③介護保険の申請は早めに行い、要介護認定前から調整を開始する

④ケアマネージャーを信頼し、何でも相談する

⑤日頃から家族や要介護者宅の近所の方々等と良好な関係を築いておく

⑥介護を深刻にとらえすぎずに、自分の時間を確保する

介護が始まったら先ずは勤務先の会社に介護休業や介護休暇等の制度があるのか、現実に機能しているかどうかを確認し、職場の同僚や上司に事情を伝えて、介護への理解をしてもらうことも大切なことです。職場に迷惑をかけたくないといった気持ちから会社に相談することなく退職してしまうことが多い傾向にありますが、相談をしない限り、介護休業等の制度利用に向けた配慮や仕事上のフォローなども受けることはできないので事情を打ち明けることは大切なことです。本人にとっても仕事のやりがいや収入確保という点でも介護離職は必ずしも望ましい結果ではなく、介護離職した後に再就職しようと思ってもなかなか希望通りの条件での就職は難しく、年収が大幅に減ってしまうという厳しい現実がありますので、介護と仕事の両立を目指すべきです。

ただ、多くの企業では制度自体が未整備であったり、業務効率化が図られておらず仕事の負担軽減ができないことや代替人材がいないことが理由で介護離職防止に向けた行動がとれていないことも現実にあります。企業にとっても有能な社員や管理職が介護を理由に退職されてしまうのは損失とも言えますし、介護離職は経営課題として捉え直す必要があります。新型コロナウイルスの対策要請で大企業を中心に在宅勤務、テレワークが定着しつつありますが、介護をしている人にとっては介護と仕事の両立をしやすい環境に移行しているともいえます。

介護と仕事の両立という観点から考えると、企業経営者も介護についての備えを視野に入れておきたいところです。経営者が介護や認知症となってしまった場合には会社の運転資金や借入金返済などはじめ、事業全体に大きな影響を及ぼしてしまうからです。