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補助金申請支援と中小企業診断士~補助金はガンですか?~

埼玉県中小企業診断協会(さいたま市)は3月下旬、会員の中小企業診断士約500人に高沢彰会長の名義で一通の文書を送った。表題は「補助金申請支援について~埼玉県中小企業診断協会の見解~」。本文には「診断士の使命は経営者と一緒に考え行動しながら経営力向上を支援することであり、補助金申請だけの依頼なら断るべきだ」との趣旨が書かれていた。

少々古い記事ですが…… 上記は2021年5月12日に日経新聞電子版で配信された記事です。[有料会員限定]となっていますが、無料会員登録でも読めるはずですし、翌13日の本紙にも載りました。

今年は、「事業再構築補助金」が新設されるなるなど、補助金の動きが例年以上に活発です。それだけ支援業務も忙しくなっています。そんな中で発表された文書であり、掲載された記事でした。

発表された当時、賛同する診断士が多かった印象があります。「さすが高沢会長だ」との声を多数、聞きました。たまたま僕の周りにそういうタイプが多かっただけかもしれませんが。一方、「補助金申請支援の何が悪いのだ」という声も聞かれました。どちらにせよ、補助金申請支援のあり方について一石を投じたのだと思っています。

僕は診断士になる前、いや、なってからもしばらくの間、補助金についてマイナスイメージしかありませんでした。税金をばらまいているとしか思えなかったからです。しかしいまでは、単純にマイナス面だけを感じているわけではありません。

補助金申請するためには事業計画を立てなくてはいけません。補助を受ける事業に関して、先の見通しを立て、中期計画に落とし込めないと申請書にならないからです。中小企業の経営者は、日々の忙しさに紛れて中期事業計画を立てないまま、目の前の仕事をすることに注力してしまうことがありますが、補助金申請をきっかけに事業計画を立て、自分たちの事業を見直すきっかけになる場合があるのです。実際、補助金によって救われた企業、成長を加速させた企業は数多存在しています。

マイナス面があるのは事実ですが、それだけではありません。結局は使い方、使う人によって変わってくるのだと思っています。

■代筆ではなく添削を

「補助金申請支援の何が悪いのだ」と言った人もいましたが、高沢会長が言われているのは
「補助金申請『だけ』の依頼なら断るべきだ」
です。補助金申請支援自体を否定手しているわけではありません。問題は、丸投げを受けて、申請書全部を書いてしまうことだと思います。

「任せてもらえれば全部やるので、採択された場合は、成功報酬として○○%ください」
などの形です。

補助金申請の価値は、経営者自らが頭を絞り、汗をかいて自社の事業計画を見直すことにあると思います。それをコンサルタントに丸投げしてしまうのは本末転倒ですし、それを受けてしまってはまさに「補助金申請『だけ』」の仕事になり、本来の伴走支援とはかけ離れてしまいます。

コンサルタントの仕事は代筆ではありません。経営者が書き上げたものを「添削」することだと僕は考えています。書き上がった申請書をチェックし、どう修正すれば良いのか指摘しつつ、事業計画の見直しを一緒に考えることだと思うのです。

■ゴーストライティングではなくインタビューライティング

とはいえ、自分の考えをテキスト化するのが苦手な人はいます。一般的に技術畑の方は、申請書のような文章を書くのを苦手とされている場合が多いようです。

しかし、だからといってゼロから全部書いてあげるのは違うでしょう。昔、某アイドル歌手が自著を出版した際
「どんな内容なんですか?」
と聞かれて
「まだ読んでないのでわかりません」
と答えてしまった事件がありましたが、それと同じことが起こり得ます。昔のアイドルなら笑い話ですみますが、自社の採択された補助金申請の内容がわからない経営者、というのはシャレになりません。

補助金は採択されてお金が振り込まれれば終了、というわけにはいきません。ちゃんと申請通りの事業を行っていかなければ返金を求められる場合もあるのです。

コンサルタントに求められるのは、丁寧にインタビューを行い、経営者の中になる想いや計画を引き出し、それを文章にすることです。そして、「あなたの考えているのはこれでいいのですよね」と確認しながら遂行することだと、思うのです。

ゴーストライターになってしまってはダメで、インタビューライターの仕事に徹するべきだと考えています。

■補助金はガンではなく……

「補助金はガンだ」
と言って商売している人もいるようですが、僕はそうは思いません。結局は使い方、使う人によるのだと思います。

単にお金が欲しくてやるものではありません。全額補助されるわけではありませんから、自分の持ち出し分は必ず出てきます。立て替え払いをして、事業が認められてからの入金ですから、つなぎの資金も必要です。本当に自分たちの事業に必要とされるもでなければ、やらない方がマシです。

補助金の採択に関係なくこれはやるべき事業だ、と思えるものでなければ補助金に頼るべきではありません。逆に、補助金がもらえるなら、3年かかりそうな事業を1年で立ち上げられる、と言うような場合には積極的に補助金活用を進めるべきではないか、というのが僕の考えです。

補助金はたとえるなら、副作用の強い強壮剤のようなものです。適切な処方箋に従って取り組めば大きな効果を上げますが、取り過ぎると一時的に効果は出たとしても、長い目で見ると身体を壊してしまうと思います。

補助金に関わる際には、上記の心構えを忘れずに取り組みたいと思います。僕の場合は、勤務先の補助金申請の担当もしています。目先の損得に一喜一憂することなく、補助金をマイナス効果にしてしまわないような振る舞いをしていきます。

*ここでの補助金は、経済産業省、中小企業庁主管の補助金を前提としてしてます。

*以前、こんな記事を書いたことがあります。

ここでも強調したのは「事業計画と資金繰り表が大事」でした。補助金獲得が目的になるのは本末転倒です。補助金は事業目標達成のために手段にすぎません。

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