生活エスノグラフィ2020 「若者・シニアの新しい暮らしと感覚」 ~パンデミックという災厄の中で、若者とシニアはどう暮らしていこうと思っているのか?~

こんにちは博報堂ブランド・イノベーションデザインの西村直久です。「若者研究所」と「新大人研」。ふたつの世代研究組織を持つ博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、新型コロナウィルスによるパンデミックが若者とシニアの生活にどのような影響を与えたのか調査研究しました。生活エスノグラフィという独自の考え方を取り入れて分析した内容をご紹介したいと思います。
新型コロナはふたつの世代にとって当然のことながらネガティブな影響をもたらしました。しかしネガティブな中にもこの初めての経験で今まで当たり前と思っていたことに「新たな発見」をしたり、自分の「生活を見直し新たな行動」を起こしたりとポジティブな意識や行動も垣間見えています。そしてこの意識や行動の中にウィズコロナ時代の生活者理解、企業活動のヒントがあるのではないかと思います。
それでは「若者」と「シニア」、このふたつの世代にどんなネガティブ、ポジティブがあったのかレポートしたいと思います。

1. 若者は新型コロナと、どう向き合ったのか?
まずネガティブなコトとして大学生活が突然中断し、友達との関係もどんどん疎遠になっていきました。孤独を感じ、終わりの見えない状況に焦りや将来への思いや不安を若者ならではの鋭敏な感覚で感じていたのです。一方でステイホーム期間中は、自分を見つめ直すきっかけになったようです。友人関係の見直し、家族との大切なつながりへの気づき、コロナが終わったらやりたいことのリストアップなどなど。ただ委縮して閉じこもるのではなく自分を見つめ直し、自分を理解する。そして自分を起点にした新たな行動に移るための「ポジティブなココロの準備期間」にもなったようです。

例えば若者にはこんな生声がありました。

「全てに対して新しい発見をしたいという感情があった」
「とりあえず仲良くなるという、“とりあえず”という考え方が友人関係において消滅した」
「母をおんぶした。家族とのつながりが増えた気がした」
「韓国語を勉強したり、推しの動画を見たり、興味を深掘る時間が増えた」
「コロナが終わったらやりたいコト、欲しいモノ、食べたいモノリストを作った」

新型コロナと向き合う中で、若者は自分と向き合い、自分を理解し、「自分を起点」にした行動を新たに起こすことになりそうです。

2. シニアは新型コロナと、どう向き合ったのか?
シニアの健康に関する危機感は若者とはまったく違います。新型コロナは自分や家族の健康を脅かすものとして怖れの感覚でネガティブに感じています。リアルな交友関係は絶たれ、突然の制限の中で不安を味わったのは若者と同様にシニアの体験でもありました。
そんな中にも、この機会に自分の趣味の世界を深めよう、リアルが駄目ならいっそのことデジタルを活用して繋がろうなどポジティブな意識を持つシニアがいました。「ふだんならやらないこと、出来ないことをこの機会に取り組もう!」という前向きな気分で行動するシニア達です。

例えばシニアにはこんな話がありました。

「もともとPCが好きでビデオ会議のオンライン講師という役割を見つけ、人に教えるまでになった」
「趣味のクラフトビールを楽しんだり、ビデオ会議の背景にできるビールカウンターをDIYでつくったりした」
「妻に教えてもらいながら昼食を作る担当になった。コロナ後も続くと思う」
「劇場に行けないので趣味の歌舞伎や落語を毎晩動画共有サイトeで見るのが習慣になった」
「趣味の料理教室にビデオ会議で参加した。料理教室は引き続きオンラインで充分だと思った」

新型コロナと向き合う中で、シニアは「趣味を起点」に挑戦をしたり、世界を広げたりといった行動を新たに起こすことになりそうです。

3. 「若者」と「シニア」。ふたつの世代研究から見えてきたもの。
ふたつの世代には相違する部分、共通する部分がありますが、総じてふたつの世代にウィズコロナ時代にどうアプローチしていくのが望ましいのか3つの要点を述べたいと思います。
まず新型コロナの収束が見えない状況下で「心地よい自分の世界をどうつくるか?」ということに関心が向いています。またリアルな関係や社会活動が絶たれてしまい「つながりの喪失により孤独を感じる」ことが多くなっています。さらに未来の可能性、未来の生活を不安に思うため早く安心の拠り所を得て「新しい生活様式を確立したい」という思いがあります。
この3つの要点が背景にあることを踏まえて、商品やサービスの提供をしていくことがウィズコロナ時代の企業活動の重要なテーマになりそうです。

4. 新型コロナが加速させる「ヘルシー」という新しい価値観。
若者もシニアも生活者はこれからも続くこの状況にどう対応していくのか考えています。この調査研究ワークを通して見えてきたことは、「これが普通の生活として続くとしたら、どう生きるのがいいのか?」と生活者は問われているということです。そしてその問いに答えるカタチで生活者の中にポジティブな発想や新たな価値観が生まれるはずだということです。その価値観はウィズコロナ時代の生活者理解、それを基にした企業活動の重要なテーマになるはずです。
「ヘルシー」という価値観の萌芽を我々は見出しました。ヘルシーとは、身体の「健康」の意味を超えて、心地よくて無理がない、自然で、前向きな状態のことを指します。もともとは若者を中心に広がりつつある重要な価値観でしたが、この調査研究ワークを通じてシニアにも芽生えている価値観であることが見えてきました。
ヘルシーな身体、ヘルシーな心、ヘルシーな社会・関わり、など私たちはどうしたらこの世界にもっと「ヘルシー」な暮らしをつくれるか?新型コロナウィルスによるパンデミックという経験したことの無い災厄の中で、「ヘルシーに生きる」ためにはどうすればいいのか?そんな問いに答えていくことがウィズコロナ時代の企業活動に必要になるのではないでしょうか。

5. 若者とシニア。両極からアプローチすると“本質”や“未来解”が見えてくる。
今回はふたつの世代の調査研究をレポートしました。実はこの両極からのアプローチだからこそ見えてくる生活者や社会を動かす“本質”や“未来解”があるのです。博報堂ブランド・イノベーションデザインはこのアプローチをワークショッププログラム「両極会議」として開発しました。
最大の特徴はワークショップで「初めて出会う若者とシニアが対話し共創する」というふだんの生活の中では滅多に無い機会をつくり、両極の化学反応から“本質”や“未来解”を探り出すところです。
「若者研究所」「新大人研」、そして「両極会議」にご関心のある方は博報堂ブランド・イノベーションデザインまでお問合せください。

※このレポートは2020年10月14日開催のウェビナー「生活エスノグラフィ2020 若者・シニアの新しい暮らしと感覚」の要約版になります。

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