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『地面師たち』に見る「信じる者」の危うさ

今話題のNetflixの『地面師たち』を観た。

これはベースが同名『地面師たち』という小説なのだが、小説版を読んだのは4〜5年前だったと思う。

小説もとても面白く、実際に積水ハウスに何があったのか、ドキュメンタリーとかも読み漁った記憶がある。
そして、これは小説内の話ではなく、現実の話なのだと認識を新たにした。
こんな立派な大企業が100億円以上のお金を簡単に騙される、ということが実際にあったし、これからも起こることなのだ。

さて、この話を踏まえて、2つのことを語りたいと思う。
1つは、何かに囚われてしまった時の、人間の認知構造について。
そしてもう1つは、意思決定プロセスの重要性についてだ。
一般的に公開されていること以上の話はしていないので、これから見る人も安心して読んでほしい。

「信じる」という言葉の危険性

このストーリーは、騙す側(地面師)、追いかける側(警察)、そして騙される側(石洋ハウス)の3つの側面から構成されている。
メインのストーリーは騙す側だが、注目したいのは騙される側の話だ。

騙される側の主人公は、青柳という不動産開発の責任者だ。
彼は次の社長を狙う野心家であり、ここまで順調に常務という立場まで上り詰めてきた。
しかし、直近の大型商業施設の開発計画で、地権者との交渉が暗礁に乗り上げてしまい、このままでは業績に大きな穴を開けそうな状況だった。出世を目指すならば、何が何でも挽回しなくてはならない正念場だ。

平たく言えば、この彼の焦りが、詐欺が付け入る隙を生んでしまったのだ。

冷静に考えれば、怪しいことこの上ない案件だ。
今まで絶対に手放さないと言われていた不動産が突然売りに出されていて、その当人である地主にはなかなか会うことができない。会えるのは仲介業者だけだ。
さらに、契約はものすごいスピードを要求される。
素人判断でも怪しい話だとわかる。
その道のプロであれば、なおのこと、本件の怪しさは感知していて当然だ。

しかし、この怪しさを簡単に乗り越えてしまうのが、人間の「焦り」だ。
何とかしなければならないという焦りが、この案件は詐欺ではない、と認知を歪ませてしまう。

この大型案件の契約を終えて、嬉しさを爆発させた青柳が、部下たちにこう語るシーンがある。(以下は小説からの引用だが、映像でも同じことを青柳は語る)

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