映画TENETの思考実験(ネタバレ)

これは、TENETに登場する「逆行銃」の仕組みについての思考実験および考察のメモです。

以下ネタバレしています。




 バーバラ博士いわく、逆行物質が現行世界に存在しているとき
①原因→結果が逆になる。
 (結果が起きてから原因が発生)
②重力は変わらないが物性が反対となりエントロピーが減少する性質を持つ。
 (外呼吸・温度干渉に顕著)
③だが現行から干渉できる
 (主人公は任意で逆行銃を発砲、もとい銃弾をキャッチできる)

 初回映画を見て私が「????」となったのは、①②の条件が理解できても③がどうしても認めることができなかったので、「自発的に逆行銃が時系列を遡って全弾回収していくだろ?!」と混乱していた。
 だがノーランは冒頭の段階でバーバラに①②③を説明させている。
 証明問題で言う条件を述べているので、テネットの世界は①②③のルールが適応されるという数学的問題提起をしている。
 条件を示された以上そのレールに沿って考えなければならなかったのだ。

・プチ考察
 逆行銃がどこから来たのか、どうして生まれたかはバーバラ博士は解明中だといっている
 →彼女は回転ドアの存在や、回転ドアが未来から送り込まれているということを知らない。未来からやってきたテネットではなく、主人公と同じ時系列で生きている現行の人間であり、テネットに秘密裏にスカウトされたことになる。主人公と同じ立場なので、彼に意地悪をしているのではなくマジで①②③以上のことは分からないのだ。

・謎
 冒頭オペラハウスでニールが主人公を逆行銃で助ける。この時のニールの動きは現行状態の可能性が高い。
 セイターがキャットを撃った時はキャットだけが現行だったのでセイターと銃は同じ方向に進んでいたことにより現象の理解は難しくなかった。
 ここでのニールと彼の銃は逆の方向に時間が進む。弾痕はどのように生まれそして消失していったんだろう。

 ここまでで考えるに【ニールは現行から逆行銃に入力干渉し、その瞬間に椅子に弾痕が生まれた】ということになる。いや普通に考えてそれだけのことに何文字使ってんねんというツッコミは甘んじて受け入れるんですけど私馬鹿なんでこうやって書きながら考えないと整理できないんです
 でもこれ穴があって…
 この考えだと原因と結果の方向が「逆行銃」と「椅子」の間だけ逆転する。その前後は全くの現行ということになる。
 そして忘れてはならないのが逆行物質によって生まれる結果は未来へ進むのではなく過去へ進むことになります。(根拠:フリポートの弾痕、セイターが未来から受け取る金塊、ニールの遺体)

 私は、主人公が試し撃ちしたシーンでは「逆行銃」と「逆行弾痕の壁」という2つの逆行物質に主人公が干渉したと思っていただけに、このニールの銃がどういうことかわからなかったんです。

 弾痕の壁は現行なんですね。逆行世界での戦闘の痕跡が、我々の存在する現在まで未来から進んでいるんです。
(もしくは詳細は後述しますが、逆行銃のみが未来から残されていて…主人公が撃つことになるから既に壁に弾痕があることになります。)
 現行の壁ならニールの銃と同じ条件になります。

 ニールが現行から入力(引き金を引こうと)するのは一瞬の動きのはずですが、主人公が椅子の弾痕に気付いてからそこから弾が戻っていくシーンまでかなり時間がありました(塵が戻っていく時間があるんです)
 ニールによる原因と弾痕から飛び出した弾が戻るまでコマ送りで双方から進めていった場合、ゼロ点になる瞬間が重なりません。
 x1の速度で双方から等間隔で戻すことができないので、ニールが引き金を引く瞬間と弾痕が生まれるところだけ逆転しても成立しないのです。

 そして逆行物性化した弾痕は過去に向かって進むので、その瞬間に生まれるのではなく既に主人公たちがオペラハウスに来る前、オペラハウスが建設されているところまで弾痕は存在し続けるんです。


 じゃあ、【ニールは現行から逆行銃に入力し、その瞬間に椅子の弾痕が生まれる】は成立しなくなります。


 弾痕に塵が集まり銃弾が飛び出す時間を考えると、「ニールが撃つその瞬間」ではなく、ニールが「撃つ意志を固める」ときから結果が生まれると考えた方が自然です。
 結果は過去に向かって進みます。これを逆再生してニールの発砲と重ねていくと…


【もう椅子には既に弾痕があり。現行ニールが主人公を襲う敵に対し、逆行銃を握りしめ撃とうと決意する(原因をつくる)直前に、既に在る結果が逆再生される(弾痕から銃弾が飛び出し穴が塞がる)】んです。

 そういうことか!
 やばくないっすか?!?!

 運命のような予言のような現象が起こることになります。ちゃんと敵に当たったからよかったものの、主人公に当たってしまう可能性もあります。現行銃なら狙いを定めなきゃいけませんが、逆行銃なら狙いが定まったかどうか分かってしまうわけです。原因→結果が逆転する以上、結果が先に見えても原因(入力)を変更することはできないということなんですね。
 それであれば主人公の試し撃ちシーンの動きがニールの逆行銃での条件と同じになり①②③が成り立ちます。

(主人公の手に逆行銃弾が吸い寄せられていくシーンでは、ただ手をかざしていた主人公はバーバラに「弾を落とせ」とアドバイスされます。
原因→結果の順序が逆になるため、主人公が「銃弾を落とすぞ」という意志を固める直前に結果が生まれ、銃弾が落とされる前に戻り始めるということなのです。オペラハウスでの出来事を丁寧に説明してくれていたんですね…)

 弾痕が残り続けるという、その結果はどの時点で決定されるのか。主人公がバーバラに質問したのはそれが分からなかったからなんでしょうね(バーバラも分かんねえと言ってたと思います)


 ここまで書き出してようやく映画で語られた逆行現象の整理がつきました…。
 弾痕が現れるのはニールの意志なのか、ニールの意志すら操る次元を超越した定めなのか…はては全ての世界はプログラムのように必然的に動いているのか……そろそろtanasinn……とか言い出しかねないので私の思考実験はここで終わりにします。


・プチ考察
 ニールは逆行世界に詳しいので、上記の現象もまた「現実」であることを認識しています。ニールがちょっと狼狽えたように主人公から背を向けて後にしたのは、逆行銃を実際に使ったのはあれが初めてだったのかもしれませんし、ニールの場所からでは結果が先に見えない(敵に遮蔽されているから)ので、結局現行と同じ認識になっていたかもしれません。もしくは、主人公が生きていることを確認してホッとしていたからかも。

 なお、過去に進み続ける椅子の弾痕はどこかのタイミングで過去で発見された人の手で修復されたら、そこで弾痕の実存は終わり。弾痕タイムラインは完結するわけです。
(過去で弾痕を修正したんだったら何故未来に弾痕があるんだ?!という疑問には、
「過去へ向かっている現象なので未来へ影響を与えないものである」か、もしくはそれこそ「鶏が先か卵が先か」議論となります。)

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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